ノエル&アオイVs.ウィン・ヤマト&セバ・スチャン5
「つまり······私達は致命傷を受けても身代わりの魔道具が発動しないってこと?」
俺の話を聞いたアオイが簡潔に今の状況を纏めてくれる。
ただ、一つ訂正するとすれば·······
「その可能性があるってだけだな······って言ってもそれを確認する方法なんて無いわけだけど······」
どちらかが致命傷─セバ・スチャンの話を信じるならば手足の一本を失う程度の傷でも良いらしいが─を受けて確認すると言うのは明らかに悪手でしか無いし、セバ・スチャンの言葉が本当だった時のリスクが重すぎるのだ。
アオイも俺と同じ結論に達したのか、俺の言葉に頷いている。
「ァアァアアアアア!!」
その間にもウィンさんは咆哮と風の刃を放出し続けている。
俺達は自分達の方に飛んでくる風の刃を回避しながら会話を続ける。
「なぁ······アオイはあれを倒せるか?」
正直ウィンさんも正気を失っているようにしか見えないし、俺たちも回避を続けるだけではいずれ体力の限界に達する事になる。その前に何とかしておきたかった。
「······正直厳しいかも。氷結の領域を使ってもどこまで効果があるか······もう一つの方も今の条件だと不利にしか働かないし······それに私の残り魔力もそこまで多くない。もうちょっと魔力があればどうにかなったかも知れないけど」
「ん? 魔力がもうちょっとあれば何とかなるのか!?」
俺の言葉にアオイが頷く。
「······? うん、見たところウィンは動かないみたいだし、ウィンの回りの空間を冷やすことで強制的にウィンの意識を落とすことは出来る······と思う。ウィンも人間である以上何の準備も無しに氷点下での活動には制限があるはず」
「ちなみに······何で最初からそれをしなかったか聞いても?」
「これは空間に作用させる技だから動いている相手にはあまり意味がないし、流石に一瞬で意識を落とすのは無理だから······只でさえ魔力消費が大きいのに、使う気にはなれなかった」
俺はアオイの言葉に納得して頷く。
「アオイ! 俺のマナヒールなら······」
「······そっか! ノエル、お願い!」
俺の言いたいことを察したアオイに俺はマナヒールをかける。
「ん······これで大丈夫。と言うよりも私の残り三分の一くらいだった魔力が全快したんだけどノエルは大丈夫なの?」
「あー、全然大丈夫だ」
「······相変わらず凄まじいほどの魔力量だね」
俺のケロッとした顔にアオイが戦い中なのも忘れて呆れ顔を見せる。
そして、その後顔を引き締めると
「ノエル······これを使うためには私が少しだけ無防備になる······だからその間······」
「これを何とかして防げ······と?」
今尚無尽蔵に飛んでくる風の刃を見ながらアオイに訪ねる。
殆どは俺たちとは別方向に飛んでいっているため、回避することは難しくはないが、それでも流石にこの切れ味の風の刃を防げって言うのは御免こうむりたい。
「ん······私をお姫様だっこしながら回避する······でも可。じゃあ始める」
「ちょっ!? アオイさーん!?」
アオイは俺の言葉や思いを無視して詠唱を始める。
それと同時にウィンさんの足下に現れる魔法陣。
確かにあれでは効果範囲を自ら教えているような物だ。確実に回避されるだろう。
しかし、やはりと言うかなんと言うか、ウィンさんは意識が無いのか動かない。
しかしまぁ、なんと言うか······今は来ていない風の刃もそのうちこっちに来ることは自明の理でして······
「って!? ホントに来たよ!」
どうする? いくら強くなったとは言え、あれに当たって無事でいられる保証なんて無いわけでして······
「ええぃ! ままよ!」
俺は詠唱のために目を瞑って動かないアオイを担ぎ上げると何故かこっちに集中して来るようになった風の刃を回避し続けるのだった。