孤児院
「ではノエルをよろしくお願いします」
「かしこまりました。私も全力で彼をサポートしましょう」
ウェルさんの言葉に頷く優しそうなおじさん。
この人がこの孤児院の院長さんだ。
僕たちは馬車を使った2ヶ月の旅を無事に終えて今、その終着点である孤児院にたどり着いていたのだ。
「うぅー、ノエルー行くなよー。俺たちと一緒にずっと旅をしようぜー」
「そうですよーノエル君がいなくなると僕たち寂しいですよー」
イグニスさんとその妹のレンさんがそっくりな仕草で手を伸ばす。
こういうところを見ているとホントに兄妹なんだなぁとつくづく思わされる。
「私もノエルと離れるのは寂しいけれど今のノエルじゃ私たちの旅に着いてこれないからって結論に達したでしょ? それに私たちにはまた次の依頼もあるのよ。ノエル君が適性職業を手にいれるまで待ってる暇もないわよ」
「そうだ、それにノエルは後二年はここにいることになるからな。俺たちのホームもアルンなんだし会おうと思えば会えないこともない」
イグニスさんとレンさんがワガママをいってそれをシエラさんとウェルさんが止める。
これがいつものこのパーティーの日常だ。
僕? 僕はこのパーティーでイグニスさんやレンさんに引っ張られてウェルさんに拳骨を落とされたり二人を止めようとシエラさんと四苦八苦したりと両方のポジションにいたなぁ。
今思うと雑用をしながらも塞ぎ混んでいた僕を励ますためにわざとあんなに騒いでいたのかもしれないけど······
そのお陰もあってか、僕は完全に吹っ切った······とは言わないまでも、もう悲しくて仕方がないなんて事になることはなくなった。
······まぁ今でも少し寂しくなることはあるんだけど。
「それにだ。ノエルも冒険者を志すらしい」
ウェルさんの言葉に僕は頷く。
「おっ!?」
「これは楽しそうですねー」
「へぇ」
ウェルさん以外の3人が驚きの表情をする。
「いつか冒険者になって強くなり、機会があればまた一緒に冒険しよう」
「はい!」
ウェルさんの言葉に僕は大声で返事をして手を握る。
「この2ヶ月、本当にありがとうございました」
僕の言葉に深夜の狼の皆は頷くと。
「それじゃまた一緒に冒険できるときを待ってるぜ」
とイグニスさん。
「また一緒に楽しいことをしましょうね」
とレンさん。
「あなたの成長した姿を見ることができるのを楽しみにしています」
とシエラさん。
「これから大変なことも多いとは思うが頑張れよ。応援している」
最後にあの時のお父さんのようにポンポンと二回頭を軽く叩いて外に出ていくウェルさん。
僕は彼らが見えなくなるまで頭を下げ続けていた。
孤児院での生活は基本的に集団行動だ。
同じ部屋になったマーカスに起こされて朝の孤児院の掃除。
それが終わった後は朝食。
そして1~2時間程度の勉強の時間がある。
勉強が嫌いなアインなんかはこの時間は逃げようとしてよく院長先生に怒られている。
その勉強時間が終わって昼食を食べれば自由時間だ。
僕は孤児院にきて早速仲良くなったマーカスやアイン、キープと共に鬼ごっこをしたり、冒険者ごっこ(軽く木の棒で打ち合うだけ)をしたりしていた。
その自由時間が終われば今度はお風呂の時間。
そして、夕食を食べて歯磨き等をすれば後は再び自由時間。
とは言っても外に出ることはできないのでできるのはお喋りか簡単な復習くらいだ。
ちなみに食事や片付けば当番が決まっており、その当番の人がサポートの大人を一人つけてすることになっている。
とはいっても基本的にはサポートの人が殆どやることになってしまうのだが······
サポートの人に
「ノエル君は基礎がしっかりできているから楽でいい」
と褒められた時は結構嬉しかった。
こうして孤児院での日々は過ぎていった。