学校ダンジョンの氾濫その5
「いつつ······」
俺は自分が使った技全力行使の副作用で身体中が酷い筋肉痛状態になっていた。
そもそも全力行使は魔力を使って、脳のリミッターに作用して普段人として生きていく分には使用しない力を行使する魔法だ。
ブーストとも似た魔法で、ブーストの強化版と言ってもいいかもしれない。
まず、ブーストも全力行使も脳のリミッターに作用する所までは変わらない。
しかしブーストが普段使わない力の五割を発揮する魔法だとしたら、全力行使は十割全てを使いきる。
その代償がこの筋肉痛だ。
そもそも、脳のリミッターに作用して力を引き出すブーストが、何故五割までの力しか引き出せないかと言うと、それ以上の力を発揮しようとすると体が動きに耐えきれずに壊れてしまうからだ。
俺も考えて試した初日は身体中から血が吹き出して死ぬかと思った程だ。
運良くヒールが間に合って死ぬことは無かったけど······
そこで考えたのが、『負傷するならその度に癒していけばいいんじゃない?』という事だ。
しかし、ヒールをかけようとする度に別の場所から血が吹き出して間に合わない。
思考能力もかなり上がっているのだが、まるっきり追い付かないのだ。
そして、その次に考えたのが未完成ながらも行使できるようになった今の全力行使だ。
要するに『何処が傷つくのかわからないのならば全身を癒し続ければいいじゃない』という事だ。
普通ならこんなヒールのかけ方をしていれば速攻で過回復になるが、全力行使中は常に傷が発生して癒しの力が消費され続けるために過回復になるような事態は防ぐことができている。
とは言え、常時ヒールをかけ続けるのはかなり魔力効率が悪くて、先ほど戦っていた三分程度の時間でも俺一人分程度の魔力は消費している。
それだけではなく長時間ヒールを浴び続けたせいか、過回復一歩手前みたいな状態になるのだ。
何でそんな事がわかるのか? と聞かれても困るが、何となくそんな感じがするというだけだ。
一応前使った時は二時間程度でこの状態も治ったので、今回もそれくらいで治るだろう。
魔力も普段から魔導書に貯めているため、少し休憩したらまだ戦える。
「それにしても暇だな······」
俺がレオを倒してから急に魔物が洞窟から出てくる数が減ったため、イグニスさんとレンさんはその洞窟の中身の様子見を──可能であればその入り口を防ぐ──しに行ってるし、ウェルさんとシエラさんも少し離れて周りに溢れている魔物を狩っている。
俺は未だに気絶している──勿論しっかりと拘束はされている──レオの見張り兼休憩だ。
手慰みに魔導書をペラペラとめくる。
「ん?」
よく見てみると今まで何も書かれていなかったはずのページの一枚に新しい表記が増えていた。そこには
『行使座標の使い方
行使座標とは、この魔導書の契約者が魔法を発動するとき、普段であれば契約者の位置から発動する魔法をこの魔導書の位置から発動する事が出来るようになります』
と書かれていた。
「うーん······これはまたまた色々と検証しなくちゃいけない能力だな······」
恐らくだが、これが武器の成長なのだろう。どうやら魔導書は新たなる能力の発現が発生するようだ。
俺は深夜の狼の皆が戻ってくるまで、どうやって検証するかを考えるのだった。
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「ふぅ······こっちの魔物は粗方片付いたな」
「ん······」
テツとアオイが周囲を見回す。
そこには多数の魔物の残骸が落ちていた······とは言っても殺したのは俺たちなんだが······
「さてと······ノエルと合流するか······『皆! 何か来るにゃ!』······うっ──」
「テツ!?」
いきなり飛来した黒い炎に当たった瞬間に崩れ落ちるテツ。
「おっと······いきなり攻撃しちまったぜ······」
「てめぇ! なにもんだ!」
いきなり攻撃してくる奴だ。かなり危険な奴だろう。
「そんなことはどうだっていい······それより貴様らさっき『ノエル』って言ってたよな? ······奴はどこにいる?」
······コイツ、ノエルの知り合いなのか?
しかし、どう見ても仲が良さそうには見えない。
「······そんなの教える気は無い」
アオイの言葉と共にアオイの体から霧が発声する。
「······逃げる。テツをお願い」
頷いてテツを背負い、逃げ出そうとした俺たちだったが······
「しゃらくせぇ!」
「なっ!?」
男が叫んだ瞬間に霧が全て吹き飛ばされた。
「教える気はねぇってか······それなら力ずくでも聞き出してやるぜ」
そう呟いて男が襲いかかってきた。
本日はここまでとなります。
次回更新は明後日の予定です。よろしくお願いいたします!




