ノエルvsボルケーノ
「さてと、最後はお前だな!」
テツの治療が終わり、落ち着いた段階でボルケーノさんと向かい合う。
幸いにもテツの傷も命に関わるものではなく(とは言え、あのまま続けていたらどうなっていたかはわからないが)、今はレッカ達と並んでこちらを見守っている。
「では、ゆくぞ!」
炎を拳に纏ったボルケーノさんがこちらに突進して来る。それに対して俺は、全力行使を使用して魔導書をボルケーノさんに向かって投擲する。
「はっ!」
ボルケーノさんは飛んできた魔導書を回避するのでは無く、スピードを落とすこと無く炎を纏った拳で弾き飛ばす。
流石に炎で焼く事を選択しないか………。それをしてくれたら不壊属性のお陰で燃え尽きることが無い魔導書がそのまま顔面に当たるという珍事件が発生したのだけど…………。
そんなことを考えながらボルケーノさんの攻撃を回避、魔導書を引き寄せてカウンターを試みる。
うん、当たらないよね。
「なるほど………」
俺の攻撃に距離を取ったボルケーノさんが何かに納得したように頷く。
「一つ不思議だったのだ。私もスピードに関してはかなりのものだと自負をしている。少なくともB級上位程度の冒険者であれば何が起こったのかわからないうちに後ろに回り込み、倒すことができる程度のスピードはあるのだ」
「………?」
「そのはずなのにアオイやテツ。恐らくそちらの獣人二人もだな。俺の動きについて行っている。また、アオイとテツに関しては効果的な反撃まで行う始末だ。最初は驚き過ぎてアオイから一発もらってしまった………。いや、あれは警戒してももらっていた可能性は十分にあったから言い訳にしかならんな」
いきなりどうしたんだ?
「その原因はノエル。お前だ。恐らく今のお前のスピードは俺と同じか少し劣る程度。そのスピードに目が慣れていれば、今の俺の速度に反応する事ができるのも理解ができる」
「…………」
ボルケーノさんの意図が読めない。一体何を言いたいんだ?
「ミズキからそれなりにやる白魔法師がいるという話は聞いていたが、想像以上だ。お前相手ならもう少しスピードを上げても大丈夫だよな?」
次の瞬間再びボルケーノさんの姿が消える………いや! 俺が追いきれない速度で移動しただけだ! 生命感知では俺の真横で拳を振りかぶっ………いや、もう動き出してる! 俺は咄嗟に魔導書を俺の体とボルケーノさんの拳の間に挿し込んだ。
「ぐっ!」
刹那襲い来る衝撃。俺はボルケーノさんと距離を取る為、あえて踏ん張らないことを選択した。
吹き飛ばされるが空中で体を捻って姿勢を立て直し、着地と同時にその場を離れる。
その直後に俺が着地した場所に叩きつけられる拳。
生命感知が無かったら今頃ミンチになってるよ。
「ほぅ。まだついてこれるか」
ボルケーノさんの笑みが更に深くなる。
っていうかさっきまでしてたアオイやテツ相手の模擬戦が全然本気じゃなかったのがスピード一つ取ってもすぐにわかってしまう。流石はS級というべきか。
このままだとやばいな………。現状スピードはボルケーノさんの方が早く、生命感知でなんとか凌いではいるが、正直ジリ貧。いつ一発もらってもおかしくない状態だ。勿論一発貰ったところで意識さえ残っていれば回復できるとは思うが、そこから反撃できる未来が見えない………!
このスピード差じゃあカウンターすら狙えない………!
「こうなったら……!」
カウンターが無理なら一発被弾を覚悟でぶん殴る!
「ぐっ!! ………ここっ!」
攻撃を食らった瞬間、相手の拳の威力を利用して攻撃を仕掛ける………が、勿論そんな苦し紛れの攻撃が当たることは無かった。
「はぁ………はぁ………クソっ!」
受けたダメージをヒールで回復する。
「………私の攻撃を受けながら反撃までしっかりとするか。更にもうダメージも回復している………。崩れんな。白魔法師が戦闘能力を手に入れるとここまで厄介だとは………。だが」
ボルケーノさんが再び構える。
「私の動きを捉えられん以上どうにもならんぞ? どうする? ノエルよ!」
ボルケーノさんの言うとおりだ。このままじゃあどうにもならない。
ならどうするか………?
俺の頭の中には解決策は浮かんでいた。
「全力行使!」
今以上のスピードを手に入れようと思ったら、以前レッカとの模擬戦で使用した一点集中の全力行使。あのレベルの強化を全身に行き渡らせなくてはいけない。その為には回復に回す魔力もより多くして………一気に踏み込む!
「ふっ!」
「がふっ!?」
俺の攻撃がボルケーノさんを捉えた。
「っ!?」
がそれと同時に俺の右腕が折れる。………骨折に関してはすぐに回復したが、体の強化がまだ足りなかったか。
「ぬん!」
不思議だ。さっきまで見えなかったはずの動きなのに、今は余裕を持って把握することができている。
今ならカウンターも………決まる!
「ぬぐっ!?」
俺の魔導書がボルケーノさんに再び叩き込まれる。が………今度は吹き飛ばない!?
「ぬぅん!」
「ごっ!」
そのままボルケーノさんの拳が俺を打ち据える。その勢いのまま吹き飛ばされた俺が体制を整えると、目の前には氷の壁が立ちはだかっていた。
結局主人公がボコボコにされるだけっていうのもなんだかなぁという理由だけで最後反撃させてみました。
ただ、今回は火事場の馬鹿力みたいな感じで使えただけで、本来ノエルはまだこの全力行使は使いこなせません。
次回以降もよろしくお願いいたします。