生命の領域
お待たせいたしました!
本日の更新です!
「待たせた!」
「アルファの部屋が思いの外散らかっていて探すのに苦労したのにゃ」
結局レッカとニナが戻ってきたのはあれから二時間ほど経ってからだった。何か心持ちレッカの服がボロボロになってる気がするが気がするだけなのだろう。
「一応持ってくる前にチラッと中身は確認してきたが、おそらくこれで間違いねぇな。ほらよ、ノエル」
レッカが差し出した本を受け取る。
「読んでみろよ」
「うん」
レッカに薦められるままにページを捲る。
その内容はレッカから聞いていた通り、魔王討伐に向かった白魔法師の日誌だった。理論上では魔王を倒せるとは思うが、万が一失敗した時のためにこの日誌を残す。と最後に結ばれているため、恐らくは魔王との決戦直前にこの日誌を隠したのだろう。その中に二つ気になる単語があった。
「『魔武器解放』? ふむ、どこかで聞いたような・・・・・・?」
「ウェルさん! 知っているんですか?」
「恐らくヤマト家だと思います・・・・・・」
「アオイ?」
「父がヤマト家の秘伝と言っていたのを聞いたことがあります。でも確か父の話ではヤマト家でも現存している人間では、未だに父以外で完成させた人間はいないとか」
「ふむ。家の秘伝となれば流石に聞きに行く訳にもいかんか・・・・・・だが、そう言うものがあると言う事が解っただけでも重畳。あとは自分達で見つけるとしよう」
「それで、ノエル。どうだ? もう一つの技。生命の聖域は」
そう、生命の聖域これこそ、魔王を消滅の一歩手前まで追い詰めた白魔法だ。白魔法の極地と言ってもいいかもしれない。効果としては単純で、癒しの力を持った白魔法の結界を作成することで、範囲内の仲間全てのダメージを受けた瞬間に回復することができる魔法だ。この魔法のスゴいというか恐ろしいところは、戦闘による外傷であれば即死するような傷でも、即回復する事で死亡を回避してしまうことだ。また、空間内の味方は一時的に光魔法の魔力も使用して魔法を放てるようになる為、白魔法師の魔力が尽きない限り、永遠に魔法を放ち続けられるらしい。
推測では、黒魔法による吸収を聖域の魔力が相殺して、普通に攻撃が通るようになるのではと期待されている。
レッカから聞いたアルファさんの話では、魔王が消滅の一歩手前まで追い詰め、大罪の獄炎が戦える白魔法師を全滅させようとさせるほどだから、実際にかなりの効果があったのだろう。
「ここに書いていることが実際にできるのならもう最強なんてレベルじゃないぜ・・・・・・ノエルの魔力が尽きない限り無敵って事だろ?」
「うーん・・・・・・流石に真空状態にすれば動けなくなるでしょうし、酸欠で死ぬとは思いますが、その辺りは緑魔法師であるニナさんがいますからね。力比べのような形になるのではないかと」
イグニスさんとレンさんが後ろでなんか怖い考察してるんだけど、実験されたりしないよな・・・・・・?
「で、どうだ? ノエル? 使えそうか?」
「う・・・ん。ちょっと難しいけど・・・・・・何とか・・・・・・?」
多分、感覚的には全域破壊を弱めて維持するって感じなんだけど、これ、かなり制御が難しい・・・・・・。
少し強めるだけで過回復になってしまうから、注意をしなくちゃいけない。
「今、この地に生命の祝福を『生命の聖域』!」
発動と同時に自分を中心に半径五百メートルくらいの領域が出現した。あれ? でも魔力の消費はそんなに大きくないような?
「ふむふむ、これの中にいれば傷を負っても瞬時に回復するんですよね? それじゃあホイッと・・・・・・っ!」
レンさんが気楽な口調で自分の右腕にナイフで切れ込みを入れる・・・・・!? が、次の瞬間その傷が回復する。
それと同時に自分の中の魔力が減少したのを感じた。
「わっ! これはスゴいです! 血が出る隙もなく傷が消えてますね」
「レンさん! いきなりやらないでくださいよ・・・・・・心臓に悪いです」
「あっはっは。申し訳ない。じゃあ一旦魔法も試してみますね? 兄さん、ウィル」
レンさん絶対に悪いと思ってないよね?
「おうよ! 傷が治るってなら気にしなくてもいいよな? 行くぜウィル! フレイムバレット」
イグニスさんの拳銃から炎の弾丸がウィルさんめがけて飛んでいく。
「全く・・・・・・アースウォール」
しかし、それはウィルさんの呼び出した土の壁に阻まれた。
どちらの魔法も発動されるタイミングで俺から魔力が抜けていったのを感じた。
・・・・・・ということは、範囲内の対象が使用する魔法の魔力は日誌に書いてあった通り、俺から供給されているみたいだ。
ただ………。
「流石にこれは実戦では使えませんね………。実際に戦って魔法を撃ちまくるってなると、比較的多いと言える俺の魔力があっても二時間もぶっ続けで戦えば尽きるはずです」
俺達は冒険者養成学校のダンジョンしか潜ったことは無い為、強いと言えるほどのボスと戦ったことは無いが、高難易度のダンジョンなどではボス部屋での戦闘に三〜五時間程度の時間をかけることもあると聞く。
勿論これは魔力回復等が前提となるため、それらを使用し、トドメが近いタイミングや誰かの魔力が切れそうなタイミングで使うなどピンポイントで使えばその辺りは解消出来そうな気もするが、必要とされる魔王戦ではこれをぶっ続けで維持することが求められる。魔王がその辺のダンジョンのボスなんかと同程度とは考えられないし、効果時間も二時間程度じゃあ足りないだろう。
一応魔導書の中には余剰の魔力も貯めてあるが、最近魔力を使用することが多く、ぶっちゃけると魔導書内の魔力も現在の俺で換算して三〜四人分と言ったところだ。ここからの戦いでこの魔力を増やせたとしても強敵との戦闘でかなり使用することが多いため、魔王戦で必要十分な魔力があるなんて楽観視は出来ないだろう。
そして一番の問題は、
「この魔法、かなり集中しとかないと持続させるのが難しくて………、多分発動中は他の魔法の発動はおろか動くことは難しいと思います」
少なくとも戦闘をできるレベルでの行動は現時点では出来そうにない。初めての発動だからということはあるだろうし、この辺りは慣れでなんとかなりそうな気もするけど。
「…………ふぅ」
一旦魔法を解除する。
「ふむ………。まぁ、流石にそう簡単に魔王討伐とは行かんか………。取り敢えず直近で必要な事は『魔武器開放』の習得と、魔力量の向上、それと魔法への理解だな」
「魔法への理解?」
言われてみれば今まで魔法がどういった物なのか考えたことも無かった。仲間達を見渡すが、誰も考えたことが無かったのか首を傾げている。
そんな俺達を見てウェルさんが苦笑しながら教えてくれた。
「魔法への理解って言うか、俺たちが使っている魔法がどういった物なのかって話だな」
「???」
駄目だ。説明を聞いても具体的な理解が出来ない。そんな俺の様子を見てウェルさんが苦笑を深める。
「まず、前提として魔法発動の為には発動する魔法の『詠唱』と魔法の名前である『言霊』。この二つが必要なのは解るな?」
それは解る。例えば先程の生命の聖域であれば、「今、この地に生命の祝福を」までが詠唱で、『生命の聖域』が言霊となる。
「ただ、ノエル達も慣れた魔法を発動するのに詠唱を破棄して言霊だけで発動させる事が出来るはずだ」
ウェルさんの言葉に頷く。俺ならヒールや過回復等の現時点で使える白魔法は全て無詠唱で使用することが出来る。
アオイやテツ、レッカ、ニナもそうだ。得意な魔法、簡単な魔法であれば無詠唱で発動できるはず。
「更に言うとだ。本来魔法とは赤魔法『フレイム』青魔法『ウォーター』緑魔法『ウィンド』茶魔法『アース』白魔法『ヒール』の5つしかないんだ」
「え………?」
だが、実際に俺達は普通にそれ以外の魔法も使っている。むしろ、それ以外の魔法を使うことしかないと言ってもいいだろう。
ウェルさんの言葉の意味がわからず、俺達は首を傾げるのだった。
遂にノエル君が自分の理想の姿に近づいてきました。
触れたら死ぬ魔力の持ち主と自分の周囲では絶対に仲間を死なせない主人公という構図だけは連載を始めた時からずっと練っていた構想になるので、ここまで書くことができたことは素直に嬉しく思っています。
あ、魔法の設定に関してはかなり後付け設定なので、矛盾などが発生する可能性がございます。
予めご了承ください。
ちなみに目茶苦茶終わった感出してますが、物語としてはまだ続きますので、これからも応援の程よろしくお願いいたします!