問題点
「黒い炎、か······」
『その黒い炎を操る奴等はもう死んでるんだ』
ニナの話を聞いてマーカスの言葉を思い出す。マーカスの話では、黒い炎は魔炎と呼ばれる物で死者に埋め込むことでその体を動かすという物らしい。つまり、その魔炎を使っているということは······
「ニナには言いにくい事だけどそのアルファって、幼なじみはもう······」
「ん? 三人ともどうしたのにゃ? アルファがどうかしたのにゃ?」
俺は憤怒の炎であるマーカスを倒したこと、そしてそのマーカスから得られた情報についてニナに話した。
「······つまりもうアルファは死んでるって事なのかにゃ?」
「ニナにとっては信じられない事かもしれないんだけど······」
俺だってマーカスの口から聞くまでは信じられなかった。いや、正確には信じたくなかったかな? 生命感知に反応しなかった段階でそういうことなのだから。
「確かに積極的に信じたいことじゃないけど、それで説明がつくこともあるんだにゃー······どうして赤の適正が無かったアルファが火の魔法を使えたのかとかにゃ······」
マーカスの場合だと元から適正が赤だったため何の疑問も抱くことは無かったが、魔炎を埋め込まれた人間はそういった特徴もあるのだろうか?
「とにかくお願いにゃ! ニナと一緒に獣人の里に来て皆を助けて欲しいのにゃ!」
「当然───「待て、ノエル」───テツ?」
当然だと言おうとした所をテツに遮られる。
「ノエル。忘れてはいないだろうがお前は勇者の力を継承しているんだ。それに、勇者はもう死んでいる。───つまり魔王を倒せるのはこの世界だけではもうノエルだけなんだぞ? それを忘れてはいないだろうな?」
「だけど! それならテツはレッカや他の獣人達の事は見捨てろって言うのか?」
「そうだ!」
テツの言葉に俺は絶句する。テツはどんな時でも仲間を見捨てるような発言をしたことは無かったのにいきなりこんなことを言い出したからだ。
「ノエル。落ち着いて考えでみろ。お前はどうやって獣人達を助けるつもりなんだ?」
「アルファさんにセイクリッド・ウォーターを当てればそれで決着が······」
「どうやってそのセイクリッド・ウォーターを当てるつもりなのだ? 獣人は総じて人族に比べて身体能力が高く、ニナ程とは言わないまでも皆それなりの感知能力をそれぞれで持っていて、人数もニナから聞いた話だけでも俺たちの数倍はいる。それに敵の魔炎の能力もニナから聞いた話では炎に包まれた者を操るといった能力だと予想されるが、それ以外に何かあるかもしれない。つまり未知数も同じだ······こんな状態でこの四人だけで向かって本当に勝てると思うのか?」
「でも······!」
テツの言葉に反論しようとして言葉を止める。テツの左手が血が滲むほどに握りしめられていたからだ。
そりゃそうだ。テツだってレッカとは同じパーティーメンバーだったのだ。仲が悪かった訳でもない。進んで見殺しにしようとは思わないだろう。しかし、このまま勢いに任せて獣人の里へと向かえば俺達が全滅してしまう事は目に見えている。だからこそテツは冷静に俺たちを止めてくれたのだろう。
テツの言葉に助けを求めに来たニナでさえも、その困難さを理解して俯いてしまっている。
この空気はあまりよろしくないと感じた俺は、
「取り敢えず一旦宿に戻ろう。こんな状態で考えたって出るアイディアも浮かばない。明日もう一度どうするか考えよう」
俺の言葉にその場は一旦解散となるのであった。