シャナ
「·······テツ、さっき何て言った?」
俺の耳がおかしくなったのでなければ、テツは此処こそが『守人の一族』の村だと言ったはずだ。
しかし、これは······
「おかしいわね? 私の目にはただの荒野にしか見えないんだけど······?」
そう、正にウィンさんが言う通りだ。しかし、テツは一歩前に出ると
「心配せずともここで間違いは無い。少し下がっていろ」
そう言って地面に手をついた。
俺とウィンさんは顔を見合わせると一歩後ろに下がる。
「───なっ!?」
それと同時に目の前の地面が二つに割れ始める。
しばらくすると、割れた地面の下にあった階段が姿を表した。
「さて、行くぞ」
口をポカンと開けて驚きを隠せない俺達にテツが声をかけて歩き始める。
そんなテツの姿を見て正気を取り戻した俺達は慌ててテツの後を追った。
「ふむ、早いお帰りじゃな。テツ」
「はい。色々とありまして······」
しばらく階段を降りて広間につくと、そこにいたお爺さんがテツに声をかけてくる。その後此方をチラリと確認すると
「ふむ、おなごを連れてくるとは······シャナが泣くぞ?」
「······爺様。解っていてボケた振りをするのは止めてくれ。俺はともかくとして、シャナが聞いたら本気にしかねない」
ふむ、さっきから気になる言葉が色々と飛び交っているが、余所者の俺があまり口を出さない方が······
「シャナって誰?」
······いいと思っていたのにウィンさんが聞いてしまったよ。
俺は思わず自分の頬がひきつるのを感じていた。
まぁ普通に話していると忘れやすいが、ウィンさんはまだ成人していない所謂子どもなのだ。こういった場の空気を読めと言うのは厳しいだろう。大人になっても空気が読めない人って言うのは一定数いるからね。
「シャナか······シャナはな······『テツ様! お帰りと伺いお出迎えに参りました』······ふむ、ちょうど来たな」
テツの言葉に声が聞こえた方を見る。そこには黒髪黒目でおしとやかな雰囲気を纏った女性がこちらに向かってパタパタと走ってきていた。
何よりも目を引くのは走る度に揺れる圧倒的質量を誇るものだ。何処とは言わないが、一歩踏み出す度にポヨンポヨンと揺れる物体に、思わず視線が吸い寄せられてしまった。
「おぉシャナか、今丁度テツがおなごを連れて帰って来おっての」
「ちょっ!? 爺様何を!?」
テツがお爺さんの口を慌てて塞ごうとするが、もう出てきた声が止まることは無い。
バッという音を立ててテツが振り返ると、シャナと呼ばれた女の子は涙を浮かべていた。
「うっ···ひぐっ···ぐすっ···もう······もう私は必要ないと申されるのですか···? テッ···テツ様と共に戦う事の出来ない···役立たずな私では······うわぁぁぁぁあん!!」
最後に泣き声を上げて元来た方へと走り出すシャナさん。
「ちょっ!? 待つのだシャナ! ウィン殿とは別にそう言った関係ではない!! 爺様の何時もの悪ふざけだ!」
そう叫ぶとシャナさんを追いかけていった。
しかし······
「あんなテツ···初めて見た」
「それよりも私たち置いてかれたんだけどどうしたらいいのかしら?」
初めて見たテツの姿に呆然としている俺にウィンさんが突っ込みをいれる。
そう言えばそうだ。俺達はどうすれば良いんだろう?
「ホッホッ···心配せんでも直ぐに収まって戻って来るじゃろうて······何時もの事じゃからの」
お爺さんのその言葉に俺はホッとすると同時に、何時もこんな事を引き起こしているらしいこのお爺さんに少し呆れを覚えるのだった。
結局日曜日投稿になってしまいました。
申し訳ないです。
次は水曜日に投稿予定です
······今度こそ寝落ちしないようにきをつけます!