理由
「アオイを取り戻したくは無いか?」
「当然だ!」
テツの言葉に俺は力強く答えるが、ウィンさんは隣でため息をつく。
「簡単そうに言うけど、策はあるの? アオイの部屋には私が案内するとして、他にも問題が山積みなんだけど······その辺りは理解して言っているのかしら?」
「問題?」
俺の言葉にウィンさんが頷く。
「一つ目。無事アオイを解放できたとして勇者からどう逃げ切るつもり? 氷からアオイを解放できたとしても勇者に見つかればアオイが奪い返される可能性は高いわ。それに私も話を聞いたんだけど、今度こそ殺されるかもしれないわよ? こちらはアオイという足手まといが一人いて、聖魔の守りのせいで勇者にはダメージを与えられないけど、逆は出来る。あぁ、ノエルには過回復という攻撃方法があるって聞いてるけど、聖魔の守りはダメージをゼロにしているから通じないわよ? それと、もし勇者に見つからずに脱出できたとして、アオイを気に入った勇者が嬉々として追跡してくるでしょうね。そんな状態で普通に暮らして行けると思う?」
「······」
ウィンさんの言葉に俺は反論できなかった。勇者の目の前で見えない壁のような物に攻撃を阻まれてしまった事を思い出したのだ。そんな俺を気にせずにウィンさんは続ける。
「二つ目に、もし最初の条件をクリアできたとして、アオイが大人しくこのパーティーに戻ってくると思う?」
「そりゃあ······」
戻ってくると言おうとして言葉を止めてしまう。アオイの性格を考えれば戻って来ない可能性も考えられたからだ。
「······そう、戻って来ない可能性はかなり高いでしょうね。アオイは他人のために自分を犠牲にできてしまう。今回は意識せずに魔法を使って自らを閉じ込めてしまったけど、今度はむしろ魔王を倒すことを対価に、自分から捧げに行くかもしれない。何せ魔王を倒すことが出来るのは勇者だけなんだから」
「──っ!!」
俺は容易にその場面を想像できてしまい、歯噛みする。
反論できない俺を見てウィンさんはテツの方に向き直った。
「これでもアオイを取り戻すなんて言えるのかしら?」
「勿論だ」
「は?」
テツの言葉にウィンさんが呆れたような声をだす。
俺も思わずテツの方を凝視してしまった。
「話を聞いていたかしら? 今の話の何処にアオイを取り戻せる要素があったのか聞きたいくらいなんだけど?」
「何処にも何も······むしろウィン殿に案内してもらえるのなら手間が省けるくらいだな」
「じゃあ聞かせてもらおうじゃないの! そんな奇跡みたいな方法があるのならね」
「ふむ······」
テツは顎を擦ると俺の方を見た。
「全てはノエルの覚悟次第だな」
「俺の······覚悟?」
「ああ」
俺の言葉にテツは頷く。
「ノエル、お前はアオイを助けるために何が出来る? いや、言い方を変えよう······お前はアオイを助けるために命を······いや、これからの人生をかけれるか?」
命や人生という言葉に俺は一瞬言葉がつまってしまう。それを見たテツが
「それが無理なら今からアオイの氷を解きに王都へ戻って、全てを勇者に任せた方がいい。かなり難しいだろうが、運さえ良ければアオイもノエルの所に戻ってくるやもしれん」
それが殆ど有り得ないだろうと言うことは俺が一番知っている。
アオイは戻ってくると言ってくれたが、周りの状況がそれを許すとも限らないし、アオイが生きて帰ってくるという保証すら無いのだ。
もし帰ってきたとして、アオイは勇者の隣で一生を終えることになるだろう。
そして、俺はそれを遠くで見守るだけ。そして、俺の隣にアオイが帰ってくることは無い。
想像するだけで腸が煮えくり返りそうだ。
「······やるさ」
「ん?」
「アオイを取り戻せるのなら命だろうが人生だろうがかけてやる! あんなやつにアオイは渡してたまるか!」
俺の言葉に満足そうに頷く。
「なら俺の故郷に来いノエル。話はその道中でしてやる」
「テツの故郷に行けばアオイを取り戻せるのか?」
「確実とは言わん。そこはノエル次第だ。だが、ノエルの努力次第で先程の問題が全て解決することだけは保証出来るぞ」
「十分だ」
俺はテツの言葉に頷く。
「ウィン殿はどうされる?」
「私もついていくわ! どうやってさっきの問題を解決するのか興味もあるしね」
ウィンさんの言葉にテツが頷く。
「では、出発だ。俺の故郷はここからそこまでいうほど遠くもない。徒歩でも急げば夕暮れまでにつくことが出来るだろう」
そう言ってテツは歩きだした。
次回投稿は······すいません。少し間が空いて水曜日になりそうです。よろしくお願いいたします!