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生きること

 夜ももう遅い。ぼくはお腹がすいていて、フラフラと飲食街を歩いている。鉄板で大量のイカを焼いている店を覗くと、満員の客が皆そちらをステージのようにしてみている。前に行ったことがある店だったが、よした。屋台村のようなところを抜けようとして、ひとりの男が、カラのビールジョッキを持って立ち上がっているのを見ると、男は体のでかい白人で、あとを追うように、数人の男たちが、彼らはなんの人種かわからないが、英語でその男に、ビールは生ビールサーバーから自分で注ぐんだと教えている。

 歩いていくと、いつの間にか路上で、ちょうど角のところに横向きに店があるのを見つける。どうやら中華屋さんらしいけれど、なんだか寂れた感じがしてやっているのかどうか。しかし明かりはついている。ショウウィンドウにメニューと見本が並んでいる。ラーメンとかなら食べられたないなと思っていると、餃子二個で三百円とか書いてあるのを見つける。手書きで。小龍包もあるみたいだ。ヒラメの刺身がある。値段を見ると千三百五十円で、これは高いなと思う。馬刺しがあって、これも高いかなと思っていると、五百円なので、これにしようと思って、横の赤い格子の扉を手で開いて入っていく。先客がいて数人の家族連れのようだった。店員が出てきて、どうぞお好きな席にという。ソファセットのような椅子が並んでいて、その合間にテーブルが置かれている。最初家族連れに背を向ける席に一人で座ったら、その奥のもっと広いソファに移るように言われた。

 メニューが置いてないので、まず「餃子をくだサイ」と頼んだ。店員が、その続きを聞きたがる様子だったので、「あと表に書いてあった馬刺しは」というと、中国語で何やらいう。どうやら飲み物を注文して欲しいらしい。ビールとか紹興酒とか言っているようなので、そうではなくて焼酎のようなものはないのかと聞く。横に酒棚があったので、そこから探そうとする。やっと店員がメニューを持ってくるけれど、それはスウェーデン語で書かれている。酒棚を物色するうちにすうほんのびんを倒してしまい、液体が流れ出る、クワントローのような瓶の、胸のあたりに小さな穴があいていて、そこからこぼれているのだった。店員が雑巾を持ってきて恐縮そうに拭いている。平たいプラスティックの板に、アンプルのようにいくつかの酒が付いているのを見つけて、それを飲むことにする。一本取り外して飲んだら、なんだか薬品のような味がする。文字にはブランデーとか書いてあるのだけれど。

 さっきまでトイレにでも行っていたのだろうか、家族連れの子供らしい男の子が帰ってきて、さっきぼくが座ろうとした彼らとは背中合わせの席に、ぼくと向かい合って座る。その男の子が急に飛び上がって、となりの部屋との間の天井近くに何かあるのを追いかける。「相当おっきいのかね」と店員が言う。よく見ると、ガガンボで、細長い脚の長さが数メートルもある。男の子はそれを捕まえて、食べる。意外に体積があって、苦労している。

 そこへ、ぼくの元カノと恩師の教師が入ってくる。三人でカウンタに移って色々と食べたり飲んだりする。いつの間にか店の広さが大きくなっていて、メニューもまともになっている気がする。そこへ、後輩の川崎くんが奥さんと一緒に入ってくる。ぼくの横にいる元カノを見て、遠慮して出ていこうとするので引き止める。さらにそこに先輩の田口さんが入ってくる。田口さんは川崎くんのことを誰だっけとか言っている。ぼくも、そういえば今年はどこのチームにいたのかわからないので聞いたが答えてくれない。来年のチームについても聞くが、それはまだ決まっていないのかもしれない。「もう川崎ウォッチはやめたんだ。だってテレビでやらないから」

 そこへ、大人数の人々が入ってくるが、どうやらみんな知り合いらしい。そこへあとから大好きなバンドのメンバーが入ってきて、かられの横の広いテーブルに座る。ぼくはそこへ挨拶に行く。「今日はライヴお疲れ様です。行けなくて申し訳ありません」

 そう、ぼくはさっきまで仕事をしていたのだった。メンバーはほとんど知らん顔をしている。ひとりだけ、振り向いて挨拶してくれる。しかし、無視していたわけではなくて、あとからバンドのリーダーがぼくの方を見て「彼女はいることになっているの、いないことになっているの」と聞いてくれる。振り向くと元カノたちは既に帰ったようだ。娘もいたので一緒に帰ったのかもしれない。パンフレットを見ると、秋の公演でカップルバンド特集をやるという。応募用紙もついていて、参加費も手頃なので出たいと思った。そういえば、このあいだレコードを録音した時に、何曲かデュエットをしたから、あのときの相手を誘うこともできると考えた。目が覚めたあとで、ふつうなら付き合うことなどできない年下の少女を誘って出ることもできると考えた。夢と現の狭間で。

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