初夢
畳敷きのアパートに、テーブルなどを並べて教室にしつらえてある。そこかしこに、小中学生たちが座っていて、それを若い教師たちが教えている。私は彼らの様子を眺めながら、外に出て、近代的なビルの中に入っていく。その中の一室は、やけに天井が高く、リノニウムの床に、デスクが五六台並べられていて、ノートパソコンに向かって、数名の若者たちが働いている。
「こんにちは」と彼らは、明るく挨拶してくれる。
私は「ちょっと見に来ただけだから」といいながら、もう何度も様子を見に来ていることを隠さない。床に、布団がひと組み敷かれていて、その片側が汚れているのが目に入る。猫のゲロだった。私は何度か猫を連れて、ここに泊まっていた。そのあとのことはあまり憶えていないが、マンションのようなショッピングセンターのような建物の1階を、彼らと一緒に歩いている。食事にでも行こうというのだろうか。歩いてエントランスまで来ると、目の前でエレヴェーターのドアが閉じようとしているので、慌てて駆け込んだ。するとすぐに、ドアが閉まって動き始める。スーッと天井が上がっていく感じがして、箱が落ちていく感覚が強烈にやって来る。
「最初がすごく怖いんだ」
あとはただ、下へ下へと下降していくばかり。乗ったのが一階なのに、どこまで行くのだろう。
というのが、正月一日の夜に見た、初夢だった。
その続きを見ようとして、歩いているところから始まった。今回はエレヴェーターに乗らないで、階段を数弾降りて、舗装された道を歩き始める。何かを探しているようだが、よくわからないまま、しかしほどほどの確信を持って歩いていく。交差点を曲がり、短い橋を渡る。その欄干にまたがって、向こう側を見ようとするが見えない。というよりも途中で怖くなってしまい、そのせいで欄干自体が三角形に歪んでしまった。
そこへ、子どもを連れた若い女が通りかかる。親子だろうか。それにしては少しよそよそしい。でも、女は私たちを知っているらしくて、話しかけてくる。すぐ先に旅館のような和建築があって、そこに入っていく。ひと部屋でくつろいでいるところへ、別の女が、手招きで私だけを呼び出した。彼女に連れられた部屋に行くと、和室のちゃぶ台の横に、貧相なテーブルを並べて、五六人の子供たちが勉強をしている。彼らの面倒を見て欲しいというのだった。
私が事務所に帰ってくると、広間では、父が客たちを接待している。私はお腹がすいたので、中二階にある細長い事務室の端っこで、なにか食べようと思う。しゃもじを持って、炊飯器を覗くと、もうあまり残っていないし、客の一人が反対側から別のしゃもじを持って覗き込んでいる。私は、ほんのひと盛りだけ茶碗によそって、事務室に戻った。暗かったので、電気をつけようとするのだが、スウィッチにマスキングテープが貼られていて、つけにくい。節約のためか。広間との境にある、小ぶりな冷蔵庫の中身を見ても、めぼしいものはない。白っぽい発酵食品を持って、食べる。手洗い場の上にある、洗った食器を置くところから、湯呑を取ろうとして、グラスの中に白い塊がこびりついたものを発見する。
「こういうのを置きっぱなしにしたらダメだろう」というと、父が血相を変えて、私を連れ出した。グラスには、何やら会社のロゴが入っていて、その会社がいま接待している客の会社だというのだ。そんなのわかるわけないし、それならもっときれいにしておくべきだと思った。
「あそこは家族の食器を置くところだし」と、私は不満を隠せない。
事務所よりさらに上の、ビニールで覆われた狭い部屋に上がっていくと、少女が女性の講師からレクチャーを受け終わったところで、その講師と入れ替わりに私は入っていく。そこへ、新しい女性講師がやってきて、少女に対する帝王学を講義し始めようとしたのだが、雨漏りでもしているのだろうか、床からポツポツとシミが上がってくる。
「私の家に変えましょうか」と、講師が言う。
私たちは賛成して、そうすることにした。「着替えてくるよ」と私はその講師に耳打ちした。私はワイシャツにスエットパンツという、寝間着姿だったからだ。
「ほどほどでいいですよ」と講師が言う。
私は、自分の部屋に彼らを連れて行くが、玄関を入ったところで奥から、母と弟と妹の声が聞こえてくる。慌てて襖を開け閉めして、彼らが顔を合わせないようにするが、講師は一瞬だけ母の顔を見てしまい「紺野さん」と名前をつぶやいた。
弟が、向かい側に座った妹の方を見ながら「いま百冊ゲームをやっているんだ。お兄ちゃんもやろうよ」と私を誘ってくる。私は「出かけるんだ」と言いながら、吊るしてあったはずの外出着が床に広げられていることに気づいて、集めてゆく。私には期待感がある。