歌番組
原由子が歌っている。私は自分の部屋でテレビを見ているのだが、その部屋がそのままテレビ局のスタジオになっていて、バンドが演奏している。それは、昭和の時代の歌謡曲のカヴァーで、「ヤ」からはじまるタイトルの曲だった。なぜなら、この番組は勝ち抜き戦で、尻取りのようになっていて「ア」行から始まって、アカサタナハマときて、とうとうここまで来たのだった。しかし、歌い終わって「判定」となったときに、「不可」となってしまった。審査員がその理由を説明するが、よくわからない。「この曲は原さんにとって大切な曲であると同時に、原曲の歌手にとっても大切な曲でもあり」不合格ではなく、合格の説明のようにしか聞こえない。
その説明のさなかに、桑田佳祐が、審査員に詰め寄って「なんでなんだよ」とふざけて怒っているふりをする。その様子を徳光が実況している。「あ、いま相方さんが猛抗議をしています」
しかし、彼らは笑いながら捌けて、次の歌手の順番となる。つぎは「ワ」の曲となるはずだ。ステージが隣の部屋に移るのに合わせて、私も隣の部屋に移ってテレビを見続けている。彼女は若い、歌唱力ではなく心地よさで歌うタイプの歌手で、イントロが流れると、私はそれがすぐに、桑田の作曲した曲だと気づいた。歌手が歌い始める。確かに「ワ」から始まっている。でもそれが、原曲の歌詞のとおりかどうか疑わしく思える。記憶を探ってみるが、憶えていない。サザンのCDは震災後に全て売ってしまっていたので、部屋にあるCDを見て確かめることもできない。私は曲に合わせて踊りだす。すると、さっきまで一緒にテレビを見ていた女の子が「帰る」と言い出した。深津絵里に似た女の子だった。
そのうち何か異変が起こっているのに気がついた。歌手の顔の下半分に、赤いマダラ模様が現れていたのだ。最初は、汗か何かで口紅が乱れているのだと思った。しかしそのまだら模様は、次々と飛沫を生んで、広がっていき、血液であることが分かってきた。そのうち血は首筋をスーッと垂れていき、衣装を汚し始めた。私は近寄って、どこから出血しているのか見ようとした。すると歌手は髪を少しかきあげて、耳の後ろを見せた。そこに傷があり、出血しているのだった。
私は部屋にあったタオルを探してきた彼女に渡した。最初は、いま自分の首に巻いているタオルを渡そうかと思ったのだけれど、地で汚れるなあと思って、シミのついているけれど洗濯してあった別のタオルを持ってきた。
「これで傷口を抑えて」
顔中に汚れた血液を拭くために、もっとタオルを持ってくる必要があるなあと考えていて、深津絵里はもう部屋にいないことに気がついた。
深津絵里が出てくるのは最近見直した「悪人」の影響か。原由子の歌はもう何年も聞いていない。