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スネーク級

 目が覚めて、鏡を見ると、何やらまぶたの隙間にアイシャドウのようなものが塗られているのに気づいた。薄いブルーの色だった。それから朝食となり、同宿の若い女性の若槻さんから、ペットボトルフォルダに入った飲み物をもらった。カバーに覆い隠されているので、なんの飲み物かわからなかったけれど、ひとくち口にすると梨のような味のする炭酸飲料だったので、そのまま捨てることにした。流し台で中身を捨て、フォルダからペットボトルを取り出すと「ハイシー・ゴールデンアップル」という銘柄だった。

 そのとき、あらためて鏡を見ると、髪も水色に染められていた。染め直せばいいんだろうけれど、これだと夏休み明けに相当のイメチェンになってしまうなあと思った。染め直す気はなかった。

「昨日はずいぶん飲んだからね」

 同宿の人たちがニヤニヤ笑っている。

 私より少し年上の還暦近いおばさんが私に寄ってきてこそこそ話しかけてきた。

「先生は昨夜おもらしになったので、片付けておきましたよ。これがそれなんで、捨ててきてください」

 新聞紙のようなものにくるまれたものと、ビニール袋を渡すので、私はそのビニール袋にそれを入れるが端っこが破れてしまう。

「もう一枚くれないか」

「そんなに要るんですか」

「でも、破れたから」

「いくらでもありますから自由に使ってください」

 ビニール袋を取り出して、二重に巻いて端を結んだ。そのとき放送が始まった。

「ただいまより全連会議を開始します」

「これって聞かなくちゃいけないやつ?」

「そうですね」

「じゃあごみ捨ては後だよね」

 さらに放送が「長靴を履いて外に出るように」と説明し始めた。ざわざわとして聞き取れなかったけれど、どうやら下駄箱の下の段に備え付けてあるということのようだった。若槻さんが先導して、私に履物を配ってくれるけれど、それは長靴ではなく、ビニールの雪駄で、左右の大きさが違っていた。右はスッと入ったけれど、左はなかなか入らなかったので、しばらくケンケンで行って、途中でようやく丸めるようにして履くことができた。

 地下トンネルの水に濡れた道を、どんどん下っていくと、そこだけ少し広くなった部屋のような場所に出た。傘だけ付いた裸電球に照らされて、古いデスクについた軍人の男がいた。

「人員に余裕がないですから、一人だけ非番にして、それが私なんですが、それでここで禁制のの本語を研究しているのです」

 書棚が並んでいて、そこの古い本語の本が収められていた。

 夫婦と男の子の家族連れが、それぞれ持っていた本を、その軍人とはまた別の軍人に渡してしまう。ちょっと見るだけだと思っていたのが「没収する」という。そんなことはさせじと、かれらは意外な力を発揮して、泣きながらその軍人に体当りをして、本を取り返す。そのままいると捕まってしまうので、走って逃げることになった。私もそれに追随する。

 宿に帰って、知り合いの部屋に行くとテレビで私たちのことをやっている。「スネーク級も逮捕か」ということで、私ともうひとり岡崎の顔写真が映っている。

「スネークってなんなんですか」

「幹部と担当者の間の連絡係のことですよ。岡崎は九州のスネークで私は関西の」

「大変そうだ」

「でも旅が好きだし、こうやって何度も九州に来れるのが嬉しい」

「どんなところへ行くんですか」

「スーパーとか行くと楽しいよね。地方によって売っているものが違う。たとえば若槻にもらったハイシーなんとか味なんて、関西でも九州でも見たことがない。たぶん関東地方のものなんですよ。若槻はあっちから来てるから」

 それから宿泊していた大広間に上がると、彼らはついてきて「まだ帰らないですよね」という。

「いやごみ捨てをするだけだから」

 でもそろそろ脱出しないとやばいよな。

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