立候補者
駅から少し離れたところにある、パブのようなお店。でも料理もしっかり出してくれるので、家族と一緒に夕食を食べに来た。混んでいたので、私だけ別の席で相席となった。777円のハラミステーキを食べて、そのあとボトルキープしてあったカナディアンクラブをソーダ割りを飲んでいたら、思いのほか酔っ払ってしまって、うつらうつらしてしまった。
目を覚ましてみると、客はあまり残っておらず、家族たちも先に帰った様子だった。私はそこからまた飲み続け、書棚にあった見たことのないSFだかファンタジーだか実験小説だかよくわからない文庫本を手に取った。店内は明かりがほとんど落とされていたので、カーテンの間際に行ったが、そこも暗くて、スウィッチが壁にあったので、そこだか明かりを灯して、それでももう一つ読み取りにくいのをパラパラめくってみたら、スカスカのページがいくつかラノベ風の文章でなにやらパンフレットのような図表になっているところを読んで、思ったものと違う感じなので書棚に戻した。
私もようやく帰る気になっていた。朝の五時だった。さっきまで話をしていた店長も、帰り支度をして「お先に失礼」と帰っていった。後始末を遅番のバイトたちがし始めている。ゴミ袋が玄関に積み上げられている。その隙間に自分の靴を見つけて、私も外に出た。くしゃみをしてカバンを忘れたことに気がついて店に戻った。カバンからティッシュを出して鼻をかんだ。そのティッシュをどうしようかと思いながら駅の方向に歩いていった。ちょうど高架になっているところがあってコンクリートの壁で人目がなくなったところで地面に捨てた。
そのまま歩いて駅を通り過ぎ、職場である建物に向かった。建物の端にある広い階段教室のような会議室で、小池百合子が説明会を行っていた。そういえば選挙だった。対抗馬は、少年で私の知り合いだったが、姿が見えなかった。昼過ぎになってようやく彼は現れた。金髪の美少年。
「授業に出てたんだ」
「若くて見栄えもいいんだから、あとはまともなことを言えば当選すると思うのに」
彼は極端に恥ずかしがって、ほとんど喋らない。そこへ小池百合子が歩いてくる。私はさっきから気になっていたことがあった。それをどうやって問いただそうかと思っていたのだけれど、説明会に乗り込んでいったりしたら、目をつけられると困るし。ちょうど良かったので聞いてみた。
「さっきの数式ですけど少し違っているように思うんです」
「どこがですか。カッコにくくって引けばいいのでしょ」
「うーんそうなると符号が逆っていうか」
私は手元のメモ用紙に式を書いて説明する。数式としては間違っていない。でもそれだと別の意味を表してしまうのだ。それにちゃんとイコールもつけて方程式にしたほうがいい。たとえ解を求めないのだとしても。