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ベーシスト

「それなら」とベーシストが立ち上がって、エレキベースをアンプにつなぎ演奏を始める。グルーヴに乗った素晴らしい演奏だ。バンドのメンバーも仕方なく、それに合わせて演奏する。ここは、六条間の和室だ。明け方でもある。私は内心ビクビクしながらも、録音を始める。

 急に、ベーシストが演奏をやめて、隣のターンテーブル奏者に「ラジヲを消せ」と言い出した。「なんでダメなんだよ」と言われた方は言い返す。そのままいがみ合いとなり、ベーシストは怒ってぷいと外に出ていってしまう。

「ああいいところがなあ」と私はひとりごちる。「才能はあまたあるのに、ぼくなんか羨ましくってしょうがない」

 近くにいたキーボード奏者の彼女が「そうね」と相槌を打つ。

「君もだよ。才能が有る。羨ましい」

 彼女と二人で食事をしていくことになった。一階が売店で、二階が食堂なのだが、どこから二回にっていいのか分からないでぐるぐる回った。売店や、カウンタのテーブルから上に上がるレールがあるのにようやく気づく。テーブルには書類が積まれ、カウンタの事務員が仕事をしていたので、よくわからなかったのだ。私たちは、書類を蹴散らすようにテーブルの上に上がり、プラスチックの手がかりを踏ん張って、会場へと上がったら、そこもテーブルの上だ。おっかなびっくり、テーブルの上でバランスをとり、そこから床に降り立ったら、ようやく安定した。

 隣の席の年配の女性が、ランチセットのデザートが怖くて食べられないので譲ると言ってきた。家の形をした手のひらサイズのそれに、フォークを突き刺すと、おどろおどろしい音楽が鳴り響き、たちまちテーブルいっぱいに巨大化した。炭酸の泡のようなものが飛び散る。フォークで突き刺すと、少し縮む。そうして食べていくが、味はほとんどしなかった。全部食いきれそうになかったので、近くの席の客たちにも応援を頼むが、思ったよりも早くなくなってしまった。

 食べ終わった頃に、私たちの注文したセットが届いた。ひとつの書類入れの中に、二つに区切られて、二つのセットが置かれていた。

「どっちがぼくのだっけ」

「これがわたしので、それがあなたの」

 私のセットは、教養セットで、読み解くための作品と概説書と論文の書き方がセットになっていた。

夕方遅くなったので、風呂に入っていくことにした。この風呂は、プールのウォータースライダーのような形をしていて、温かい湯につかって、上がったり下がったりする。

「思ったより、あったかいよ」

「でも、表面の水素に気を付けないと」と、穏やかな顔をしたベーシスト。

 私が上がることにすると、執事がタオルを持ってくる。しかしそれはタオルではなく、片面がビニールで片面がタオル地になった、冷凍枕の温まったやつだった。

「ああ、その辺のは忘れ物を集めたものなんだ。タオルはカバンのそこにあるはず」

 女将が私のカバンを漁っている。私はそこへ歩み寄って、カバンの中から、ヨレヨレになったバスタオルを取り出すのだった。

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