七つの鍵
「いいですよ。全部持っていきますよ」なんて安請け合いしたけれど、運んでいくのは面倒だった。先頭の幸子が何やら宝石箱のようなものを持って、土手から堤防に降りてたったか進んでいった。隆は衣装ケースのような鈍色のブリキの箱を土手から下に転がした。ぼくも、持っていたダンボール箱を転がした。そして下の道に降りてから、拾い上げた。ここに捨てて行ってもいいような心持ちになっていたけれど、それでも最後まで運ぶことにした。なんとなくバチが当たるような気がしたからだ。
幸子がおばさんの家の玄関から中には入り、裏から崖を上がることにした。ぼくたちが噂話をしていると、おばさんが言った。「これは刀だよ」門扉から棒を一本取り出したのだ。「それから、この箱の中に入っているのは硫酸だ」つまり、この家は武器だらけだというのだった。早く退散するにしくはない。裏手に行って、崖の上のコンクリートのところに荷物を押し上げた。すると、その近くの小間物屋のオヤジがやってきて、箱の中身をくすねようとした。
「持って行ってもいいけどね。全部は持っていかないでね」
大部屋に帰り、ベッドの上に寝転がった。「明日は健康診断だよ」というので、風呂に入っておこうかと思って出発したが、鍵を忘れたことに気づいて戻ったら、置いたはずの場所になかった。「親父さんが持っていったよ」と隆が言う。
「くそ。余計なことしやがって」
ぼくはそのまま寝ることにしたが、中学生らしきがやってきて、ぼくに鍵を渡した。でも、それは通常の鍵が付いているだけで、今日引き取ってきた荷物についていた小さな七つの鍵もつけてあったはずなのになかった。
「小さい鍵はどうした」と中学生に聞いたが「ぼくたちがもらったのはこれだけだ」というのだから、余計なことをしたのは祖父だろう。案の定、帰ってきた祖父が「大事そうだったから分けといた」とかなんとかわけのわからない理屈を言うのだ。
さっきつけたステレオを切ろうとしたが、切れない。仕方ないので電源を切った。部屋の隅のストーヴも、付けておくと危ないから消した。枕元のティッシュが箱ティッシュに見えたのでおかしいなと思った。最近は箱ではない、ビニールに入っただけのものを使っていたからだ、近寄ってよく見ると、残り少ないけれどいつものだった。ぼくは安心して夢を見た。夢の中で、久しぶりの少女に再会した。夢の中なのに、彼女はものすごくリアルで、実際には触れたことのない触れてみた感触すらほんものだった。