覆面打者快球丸
激やせした漫才師の片割れが、プロ野球チームのコーチになったというのがニュースになっていた。かれは、高校野球の経験だけで、プロの経験はなかったが、ふだんから野球に対する造詣が深く、サイバーメトリクスの手法で分析や解説をして人気を博していた。金も勝ち星もない弱小球団がそこに目をつけて、コーチとして雇ったのだった。それがうまくいけば、漫才師を擁する芸能事務所が球団を買い取って、かれを監督にするという噂もあった。ともかく、コーチに就任したのでそのことを、連載中の野球漫画が自作に取り入れていることが、テレビのコマーシャルから流れてきた。さらにアニメーションが流れて、うしろ向きの小柄な選手が、白い風呂敷のようなものをさああっと頭にかぶって、顔中を覆い、首のうしろでハチマキのように巻いてから正面を向き、そこにボールの縫い目と目玉の絵が書いてある。目に穴はなく、完全に視界が遮られるはずなのに、これでバッターボックスに立つのだった。「覆面打者快球丸」というのらしい。このマンガもどんどん荒唐無稽になってて面白いなあ。こんど単行本を買おうかと思っていたら、生徒の一人に声をかけられた。
「この三日目のアトラクション、どう思います?」
現在学園では文化祭が執り行われていた。そのプログラムを見せてそう聞いてくるのだった。書いてある文字を読んでも具体的なことはよくわからなかったけれど「ほら、あれ、マッピングのようなものじゃないか」と説明しておいた。
そのとき「ピンポンパーン」と校内放送が鳴り始めた。「至急外を見てください。至急外を見てください」そして廊下の窓から下を覗くと、中庭の特設舞台で、きらびやかな衣装やぬいぐるみの格好をした連中が演劇のようなものを始めていた。中央にスチームパンク的な機械があって、ツボのような開口部にピエロの格好をした男が、財布を燃料よろしく次から次へと放り入れているのだった。私は下に降りていって、一段高くなった観客席に登った。後ろの方から体育座りをして座っており、私はかなり前の方に座らされた。しかし、座ったとたんにパフォーマンスは終わり「本公演は○○時から」ということで、それまで数時間もあるのだった。