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アシンメトリーシティ

 既に街に入る手続きをランド達が済ませてくれていた。門番役がこちらに指揮棒を振って誘導をしている。

 コールドはグルリと首を回して肩の筋肉を伸ばすと、アクセルを踏んだ。

 ドロレス曰く、檻から外へ入って行く(・・・・・)と言うのに、アクセルがとても重たい。

 のろのろと門を潜ると直ぐに、大規模に密集して乱立するペンシルビルが目に入って来た。


 コンクリートビル群は寄り集まって連結し、とても複雑に繋がっている。

 このドロドロのハチの巣みたいなぎゅうぎゅう詰めが、貧民層の居住区だ。

 こういう巨大な塊が、街を何ブロックも埋め尽くしている。

 こんなにも巣穴があるというのに、屋根からあぶれた人々がポツポツと舗装が禿げた道端に座り込んだり寝転んだりしているのだった。

 門から入ってすぐ交差点の隅では、バイクと四輪車がひしゃげて放置されている。夜に交通事故でも起こしたのだろう。バイクには大量の血がこびり付いていた。

 残念な事に献花なんてありゃしないから、持ち主が生きているか死んでいるか、コールドには判らなかった。

 ただただ、生きている事にキマリが悪い。

 街はこんな風にコールドをウンザリさせる。

 すっぱ抜けるようにだだっ広い荒野から帰った後は、目にするのが億劫な風景だ。


 さて、圧迫感のある連結ペンシルビルの群集を抜けると、また壁がある。

 外側の壁よりも壁外を恐れているかの様な有刺鉄線の張り巡らされたこの壁の向こうは、美しい高層ビルが立ち並び、良く整備された街並みが広がっている。

 説明する間も無いが、裕福層の居住区だ。

 大きな鉄格子の門には、常に銃を構えた門番が構えている。

 インカム付きの御大層なヘルメットまでして、外側の門より厳重だ。

 コールドの先を行くフラッシュが、門前で立ち往生していた。

 何か門番と言い合っている。

 困った様にこちらを振り返るフラッシュを見て、「あ」とコールドは声を上げ、上着の胸ポケットに手を突っ込んだ。


「通行証、僕が持ってた」


 フラッシュが銃を向けられているワケだ。

 彼の乗っているのは、武装車なのだから。

 通行証無しに武装車に乗って門を叩くなど、自殺行為に等しかった。

 門番達が彼らの様なハンターを見慣れていなかったら、今頃フラッシュもミミックも穴だらけだ。


「バカねぇ。フラッシュ撃ち殺されちゃう」

「待ってて」


 コールドはトラックから降りて、銃を持った門番と言い合っているフラッシュの方へ駆けて行った。

 フラッシュに詰め寄っていた門番に近付くと、そこかしこで銃口が自分に一斉に向いた。

 コールドは落ち着いて、両手を上げながら片手に通行証を持ち上げ、どの角度からでも見えるようにした。


「……通行証です」

「なんでお前が持ってる」

「運転を代わったんだよ。すまねぇな。なんせ長旅だからよ」


『通行証があればいいだろうが』と言う意見を飲み込んで、シレッと黙り込んでいるコールドに変わって、助手席に座るミミックが言った。

 門番の男は頷いて、コールドの手から通行証を受け取り中身を確認すると、羅列している数字十二桁をシステム手帳のテンキーに打ち込んだ。

 直ぐに手帳の黒い画面にミミック、フラッシュ、コールドの顔写真と個人情報が表示される。

 何だかこんな風に管理されるのは良い気分では無いけれど、これが彼らの仕事だ、とコールドは自分に言い聞かせている。

 門番は三人の顔を確認してから、ようやくポイと通行証をフラッシュの方へ放った。


「積み荷を確認する」


 門番の男はインカムで仲間を呼ぶと、他の門番達がドロレスのトラックの荷台に二、三人集まった。

 ドロレスは既にトラックから降りて、荷台の扉を開ける作業に掛かっていた。

 コールドはそちらへ行って、トラックの重い両開きの扉を開けるのを手伝った。

 扉を開けると、冷たい霧が死臭と共に溢れて来る。中には凍ったドラゴンの切り身。尾頭付き。

 ドロレスのトラックはコレ用に冷凍車なのだ。


「デカいな」


 荷台を覗き込んだ門番の男が、コールドに労う様に言った。

 コールドは内心得意だったが肩を竦めて見せる。


 ―――チーム組んだから、六等分だよ。


「儲かるなぁオイ」

「あー……」


 こういう役目の人間とは仲良くしておいた方が良い。少しでも顔を売っておけば、さっきの様な場面でもスムーズになる。社交派のミミックはそう言う。

 実際、フラッシュは問答無用で撃たれなかった。

 けれど、コールドはそういうのが得意じゃない。


 ―――儲かる訳無いだろ。山分けして諸経費差っ引いたら……カツカツだ。


 そう思うと、自分の仕事を気楽に思ってくれている(・・・・・)相手に対してついつい不愛想になってしまう。ついでに最近新調した大砲のローンが長期間続くのを思い出してげんなりした。

 コールドは門番の男の相手をドロレスに任せ、自分は無言でトラックに乗り込んだ。

 

「オーケーだって」


 しばらくしてから助手席にドロレスが乗り込んで、ふぅと息を吐く。


「なに?」

「あたし、この先苦手なのよね」

「あー……」


 フラッシュ達は向こう側の『送迎車』に乗り込む為、ぞろぞろと歩いて門へ近寄っていた。

 面倒臭い事にこの先、武器の携帯は禁止だ。(ドロレスは改造した助手席のシートの下に、ちゃっかり機関銃を隠し持っているが)だから、彼らの愛車は門の向こうでお留守番だ。


「まぁ、すぐだから」

「ふん」


 フラッシュ達を乗せた『送迎車』が走り出した。『送迎車』と言えば聞こえは良いが、それは屋根付きバイクにリヤカーがくっついたみたいな、簡素のお手本みたいな車で、おまけにオンボロだ。


『お前らにはこれがお似合い』


 そう言われている気がしないでも無い。

 本当の狙いは、何かあった時に狙いやすい、狙撃しやすい、と言ったところか。


 ふ、と息を吐いて、コールドはアクセルを殊更ゆっくり踏んだ。門を潜る度に、アクセルが重くなる。


 *


 門を潜ると、暫く茂みに覆われた道が続き、それが終わると急に別世界になる。

 チリ一つ、しみ一つ無い様な、綺麗な白亜の高層住宅がずらりと秩序正しく並び、割れ目なく整備された広い道の端には、緑豊かな植木が立ち並んでいた。道路には信号が当然の様に設置され、赤信号になれば車は停車。後続車はちゃんとその後に並ぶのだ。

 そう、何もかもが、きちんと並んでいるのだった。

 コールドたち一行は、ここに来ると毎回物凄く浮く。


 ―――まず、乗っているものがショボイし目立つし……。


 ここでは異質な存在となってしまう抵抗感と、自分の送っている生活を思うと、煌びやかな世界の中で陰気な気分になって来る。

 見えるものみな、妬ましい。指を指されて笑われている気分だ。


 どこかの窓で、小鳥が歌っていた。


 ―――小鳥!! ああ、食べたらいけない小鳥なんて……一体なんの為に……?


 コールドは腹を鳴らして、ドロレスをチラリと見る。

 ドロレスはフラッシュから貰ったビスケットの最後の一枚を、コールドを睨みつけながらパクリと口に入れてしまった。


貧民層は『九龍城砦』みたいなのがいっぱいある感じです。

調べてみると、ここでの生活はわりと楽しそうです。現在は人は住んでないそうです。

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