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檻の内側か外側

 朝日が昇る頃、一行は街に到着した。

 街はグレーの高い外壁に囲われて、要塞の様に厳めしい外観をしている。

 外壁をグッと見上げると、一定の高さから崩れた窓や錆びたベランダが所狭しと並んでいて、しみったれた生活感をむわりと立ち上らせていた。


 一行は街へ入る門の前に停車すると、伸びをして外壁の門が開く時間を待った。

 門は巨大な鉄の扉で、決まった時間に何度か開く。


「朝一番に間に合ったな」


 ずっと運転をしていたコールドの肩を、フラッシュが乱暴に揉んで来た。

 コールドは「眠たい」と小さく呟いて、静かに深い息を吐いた。


「まだこれからショーバイしなきゃだぞ!」


 バンバンと、両肩を叩かれた。フラッシュは大抵こんな風に元気で、コールドは付いていけない。彼にとても心を許しているコールドだけど、たまに煩わしく思っているのは内緒だ。


「運転変わってやるよ」


 ほら、だって彼は親切だから。

 コールドはフラッシュの提案を遮る様に手を振って、彼の熱意を他に向けさせた。


「僕よりドロレスを」


 あー、と呟いて、フラッシュはハザードランプをパカパカ点滅させている大型トラックの方を見る。

 休憩を挟んだとはいえ、深夜から明け方までのドライブは幼い少女に堪えているハズだ。

 しかし、彼女は決して運搬中にハンドルを放さないのだった。


「フラれるの、目に見えてるんだけど」


 厭そうに顔を歪めるフラッシュに苦笑して、コールドは運転席から立ち上がった。


「意気地なし」


 ドロレスがハンドルを放さないのは、道中だけだ。

 開門後、門を潜って、密集するペンシルビルの隙間を行き、街の中枢まで走る。その位は任せてくれる。


「アイツ、比較的コールドの言う事は聞くからなぁ」

「比較的フラッシュの言う事を聞かないだけだ」


 これには、コールドは確信がある。


「げげぇ!? そうなの?」

「ブスとか言うからだ」


 助手席で寝こけていたミミックが寝ぼけた様に言うのを聞きながら、コールドはドロレスのトラックの方へ向かった。


「あ、コールド! これ、アイツにやって」


 フラッシュがポケットからビスケットの包みを取り出して、コールドの手に押し付けた。


「……食べかけってどうなの」

「え? なんかマズイ?」

「いや、フラッシュらしいかもね」


 コールドはそう言うとビスケットの包みを持って、ドロレスの元へ行きトラックによじ登る様にしながら助手席のドアをノックした。

 黒ガラスのサイドウィンドウが半分だけ開いて、慌てて目を擦っているドロレスの顔がちょっとだけ覗く。


「なによ」

「運転代わる」

「いらない。自分の運転したら?」

「フラッシュが代わるって」

「……ふん」

「フラッシュの方が良かった?」

「ば、ばっかじゃない!? あんな煩いのに乗られたら堪らないし! ちょっと、代わるって言うなら、コッチから来てよね!」

「はいはい」


 コールドは運転席側にまわって、出て来たドロレスに手を差し出す。

 意外にも素直に、ドロレスはコールドの手助けを受け入れた。

 彼女を地面に降ろすと、入れ替わりに運転席に乗り込んで、シートの調節をする。

 小さなドロレスでもアクセルが踏めるように、物凄くシートの位置が低いのだった。


「いつも気になってたけど、どうやって外見てるの? 目線届いてないでしょ?」


 コールドは車種こそ違うが、同じドライバーとして気になった。

 ドロレスはよじ登る様に助手席に乗り込みながら、なんて事無い様に質問に答えた。


「立っても運転出来るから、シートは疲れた時しか使わない。それに全然見えないって事無いし……大抵障害物なんか無いからザッと辺りを見渡して、ハンドルを決めた方向以外曲げなきゃなんとかなるわ」

「はは……こわっ」

「まぁ、大抵は立ってるから、ちゃんと前見て走ってるわ」


 肩を竦めて言うドロレスに、コールドはそれ以上追求しなかった。

 これまで何度も、彼女とは一緒に走っている。

 だから、大丈夫なのだろう、と結論付けた。


「……あ、これフラッシュが喰えって」

「え……?」


 ドロレスはコールドの差し出したビスケットの包みを胡散臭そうに見た。


「フラッシュが? 腐ってるんじゃない?」


 コールドはビスケットの包みをしげしげと見て、


「期限切れてないよ」

「封が開いてるじゃない」

「喰ってたから」

「はぁ~……」

「要らない?」


 ドロレスは渋々といった態で、コールドの手からビスケットの包みを受け取ると、一口食べた。

 コールドは黙って両側のサイドウィンドウを全開にし、運転席に風を入れる。

 開いた窓枠に肘を乗り出して、ドロレスが「あ、想像以上に不味い」と呟いたけれど、無視して街の外壁を眺めた。

 外壁の壁には、密集する窓やバルコニーから垂れた錆が真っ直ぐ下へ幾筋も赤茶けた線を付けてしまっている。度々起こる、霧雨のせいだ。


「檻みたいだ」


 薄汚れた赤い縦縞模様に向って、コールドは思い付きを小さく囁いた。


「え?」

「デカい檻」


 ドロレスは「ふん」と言って、もう一つビスケットを齧る。


「内側にあの線は無いわ。檻に入ってるのは外にいるドラゴンの方よ」

「そっか」

「そうよ」

「いいね」


 カランカラーン、と大きな鐘の音が鳴り始めた。

 開門の合図だ。

 大きな鉄板の扉が、徐々に開き始めた。


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