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おめざめ

長い間更新出来なかったので、ちょっと緩いあらすじ。

ドラゴンを狩っていたら巨大な乗り物と少女が墜落してきた。

サイコなリスパァン博士から逃れるため、ミミックとフラッシュは街から一番近いオールドクーポンという街へ向かう。目眩ましの為にゴールドとドロレスは別行動中。

 朝日がゆっくりと荒野一面を照らして行く中、ミミックは明るみから逃れる様にジープのアクセルを踏み続けていた。

 その内とうとう逃れられずに、バックミラーの中で球体が輝いた。

 殺傷権を持つ何者かの射程範囲に入ってしまった気分で、目を細める。

 携帯して来た酒の容器は既に空で、頭の中には爽やかな朝の空気が鼻の奥から吹き抜けて来る。

 頭の中が冴えるのは、マイナス思考にスイッチが入っている今の場合、全然嬉しい事じゃないというのに。

 リスパァン博士のギョロギョロした目玉にずっと追われている気分がして、どうにもあれやこれやと厭な想像がミミックに付きまとって離れない。冴えた頭でいたら、どんどん冴えない気持ちになってしまう。

 

 ドラゴンだって、もしも今現れたら……。


 まだ弾は残っている。コールドがいないから少し心もとないが、フラッシュの腕をミミックは信じている。


 でも、今狩れたところであの肉塊が、一体なんだ? 


 ドラゴンなんか金に換えられないなら、ただの厄介なケダモノでしかない。弾が無駄なだけだ。

 考えただけで憂鬱だった。

 けれども、朝の爽やかさをどうにかしようというのも無謀だ。頭を別の事に使うしかない。

 ミミックは走行しながら縄張り外のドラゴンスレイヤーを警戒した。

 自分たちの街のテリトリーから大分外れた位置に来ていたし、それならオールドクーポンのテリトリーに入っているに違いないのだから、オールドクーポンのドラゴンスレイヤーがうろついていてもおかしくない。

 何より、霧雨上がりの後だ。自分達と同じく狩りに出かけている可能性が高い。

 もしも接触してしまったら『余所者が何やってんだ』から始まり、かなり高い確率で揉めるに決まっている。誰だって縄張りを荒らされたくないだろうし、別の街からの侵入となれば色々な追及が待っているに違いない。揉め事は慣れっこのミミックだったが、追及は慣れっこではないので、出来れば避けたい。とにかく避けたい。運の悪いヤツに出遭ってしまったら、殺す覚悟は出来ている。フラッシュは反対するだろうから、きっとそれで自分の傍から飛び出してしまうかも知れない。だから余計に避けたい。

 ピリピリしていると、助手席でフラッシュが両腕を空へ伸ばして欠伸をした。彼はツナギのポケットからビスケットの小さな包みを取り出して、封を開けた。

 油っ気と塩気のある匂いが、一瞬だけミミックの鼻先をくすぐって吹き飛んで行く。

 煮詰まっている時の不意な刺激は、ミミックの気分を少しだけ明るく切り替えさせた。


「大丈夫だって。一晩走ってもドラゴンはいなかった。狩って帰った後ってわけさ」


 なにが『ってわけさ』なんだか、と思いつつ、ミミックはフラッシュの楽観的な言葉に頷き、差し出されたビスケットを摘まんで口に放った。ギトギトのパサパサだ。飲み込めば、胃の中で膨らむような不愉快な感じがする。変な脂で揚げているに違いなかったが、この世の気晴らしアイテムは大概こんなもんだ。そして、ガッカリしているハズなのに次が欲しくなる。下手で思わせぶりな物語みたいだ。

 ガタンと車体が揺れて、ミミックは思わず後部座席に無理矢理詰め込んだ少女を気にした。

 

「ビッチは目を覚まさねぇな」

「ビッチじゃない」


 フラッシュがすぐさま反論した。

 ふん、とミミックは姿勢を低くしてハンドルに腕と顎を置く。


「俺の腕を使い物にならなくするところだった」

「……オレも銃口向けられた」

「ビッチじゃん」

「ビッチじゃない! 意味知ってんのか?」


 フラッシュの返しにひとしきり笑った後で、ミミックは彼女を起こすように指示した。

 そろそろジープを捨てる頃だった。目の前にドラゴンの様に巨大な板が、幾つか見えて来たのだった。

 フラッシュが後部座席に乗り移りながら、「うおー」と声を上げた。


「すげぇ、木製だ」


 フラッシュの言う通り、板は木製だった。一枚板ではない。継ぎはぎして巨大にした板。一つ通り過ぎると、分厚さもある事がわかった。壊れて滅茶苦茶になった残骸も、辺りにたくさん見える。

 バラバラと横一列に並んでいるそれは、直線ではなくカーブ状に並んでいる様子だ。


「円だな。街を囲んでるんだ」

「なんで?」

「街が起点だから。囲もうとして囲った訳じゃないんだろうな」

「なんの為に?」

「ドラゴン狩りさ」


 へぇぇ、と、フラッシュが木の板を見上げ、掠れた声と息を出した。


「ドラゴンに突進させるって事?」

「知らねぇ。でも、これを使ってたのは確かだ」

「今は使ってねぇんだ」


 ミミックは頷いた。少なくとも、ミミックは聞いた事が無い。存在すら、酒の席の笑い話で聞いて知っていただけだ。優れた物ならミミック達の街でだって狩りに取り入れているだろうから、きっと時代遅れの役立たずに違いない。


「コレが良いと思うか?」


 ぎゃはは、と、フラッシュがえげつなく笑った。

 それから彼は、連れて来た少女に大分遠慮がちに声をかけ、肩を揺すった。


「起きない」

「ちょっと頬を叩いて見ろ」

「そんな事できるか!」

「軽くに決まってんだろ!」

「そっか。おーい、おーい……」


 パアンッと、唐突に音が響いたので、ミミックは驚いてちょっと振り返った。

 丁度、頬を押さえて「え?」の表情をしたフラッシュと目が合った。

 少女が起き上がり、右手を振り上げて震わせている。


「いってぇ! なんだコンニャロ!」


 バックミラー越しに、フラッシュが少女の腕を掴んだのが見えた。

 少女がけたたましい悲鳴を上げて、何故だかうなじの毛が逆立つ。

 ミミックは車を止めて、上半身を後ろに捻った。

 フラッシュと少女が揉み合っている。


「放して下さい!」

「なんで殴るんだよ!」

「いや!」

「いやって言われても……!」

 

 少女を押さえ付けるフラッシュの顔がショックを受けている。ミミックは吹き出しそうになりながら、口だけ出した。



「おいおい、落ち着けよ」

「そうです……お、落ち着いて……話し合いましょう……」

「お前がな!?」


 荒い息を整える為、深く深呼吸しながら言った少女に、フラッシュが目を丸くした。

「きゃ」と、声を上げられて、パッと少女の腕を放すと、そろりと離れた。

 少女はフラッシュに掴まれた腕を、庇う様に胸の前で抱いて上目遣いで彼をそろりと見た。

 フラッシュの鼻の穴が若干膨らんだのを、ミミックは見逃さなかった。青少年はこれだから困る。


「おい、アンタは一体何者なんだ?」


 問いかけると、パッとミミックの方を見た。肩に触れるか触れないか位の、金色のボブヘアーが揺れた。

 成程、かわいい。

 少女は青い瞳をキッとさせて、「なにを当たり前の事を」と言った様に口を開いた。


「私は! ……私は……」

「なんだよ」


 勇んで言い掛けたくせに口をパクパクさせるので、フラッシュが首を傾げた。

 少女は焦った様に目を泳がせて、苦労して尻すぼみに言った。


「……届けに来たんです……」


 それから、目に見えて狼狽え始めた。両手で両頬を押さえて青ざめる。慌しい。


「あ!? あの! 大きなトランクを知りませんか!?」

「ソレか」


 ミミックが、荷台部分に固定させた大きなトランクを顎で示した。少女を爆発と業火から守ったトランクだ。トランクにそんな使い道が本当にあれば、の話だが。彼女の登場を目で見ていないミミックには、未だに信じられない。

 少女は荷台に他の荷物と詰め込まれているトランクを見て、ホッとした様子だった。


「ああ、良かった……」

「あれを誰に届けに来たんだ?」


 フラッシュが聞くと、少女は厳しい顔をした。


「あなたには関係ありません」

「……お前なぁ!」


 呆れた声を上げるフラッシュを他所に、少女は自分の身体をザッと点検し、キッとフラッシュを見た。


「私の銃を返して下さい!」

「駄目だ。お前何するかわかんない」

「まぁ、泥棒よ!」


 少女がフラッシュを指差し、ミミックの方を見て言った。フラッシュより話が通じると思っている様子だ。

 ミミックは苦笑いして、首を振って見せた。


「アンタの得体が知れないから、銃を持たせる事は出来ない」


 少女はミミックへの紙ッぺらほどの信頼を、表情からすぐさま捨てた。


「あなた方の方が、得体が知れません」

「まぁ、お互い様だよなぁ」


 求める情報以外の事はのらりくらりと相手をされそうだと勘図いたのか、少女がキュッと唇を結んだ。ミミック達の棲家ではなかなか見ない、ふっくらツヤツヤの唇だ。


「こんな所で留まっている時間は無いから、ザッと説明するな。多分俺たちは味方だ。多分な」

「……」


 少女の瞳に、疑いの色が濃くなった。


「アンタの乗って来た乗り物は、ぶっ壊れた。俺達はそこからアンタを引っ張り出した」

「あなた方が砲撃するからだわ」


 覚えてたのか、とミミックとフラッシュは目を合わす。

 取りあえず、盛大な間違いを正す。


「いや、イヤイヤ、でもあの時には落ちかけてただろ?」

「……」


 異論は無いらしい。凄く不満そうだけど。


「それで……」


 どこまで話せばいいだろう? と、ミミックは思う。

 リスパァン博士の危険さというか、ヤバさを短時間で説明できない。


「変態の博士がオレらの街にいるんだけど、お前が研究のターゲットになりそうだったからソイツから逃げてンだよ。ほら、宙から降って来ただろ?」

「……へんたい?」

「変態。な、ミミック!」

「お、おう」


 そうか。変態。確かに、と、ミミックは変に感心して、フラッシュに合わせて頷いた。


「私はへんたいの研究ターゲットになるような事はしていません」

「いや、十分したと思うぜ」

「いいえ」

「なんか、お前の喋り方イライラする」


 二人のやりとりを聞きながら、ミミックはジープを再び発車させた。

 対ドラゴン用の巨大でヘンテコな木製の板の間を進みながら、中々意思疎通が難しそうだが、武器の無い女の子だ。何とかなるだろ。と、能天気に思った。

 摩天楼の先っぽが、行く手に見えてきた。

 きっと使われていない先っぽだ。

 そろそろ街を囲む壁が見える事だろう。

 さぁ、一体どんな壁かな。

 ミミックはそんな事をぼんやり思った。


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