VSクラン公国 ②
森に剣戟の音が響く。
息を切らし後退しながら剣を振るうファルモットに対し冷静に迎撃をするエリザの戦いだ。
音を加速させながら両者は距離を詰め打ち込みとともに距離を開ける。
エリザは剣を交えた時から相手の技量の凄まじさを感じていた。
長く生きるエルフとして経験は多い自負があったがこれ程の使い手は数える程しか出会った事がない。
加えて周囲からの援護があるにも関わらず致命傷を負わせること事が出来ない相手に賞賛したい気分にすらなっていた。
「やはり感覚系のスキルは厄介だな。素晴らしいと言おう。」
「そりゃどうも、あんたもエルフの癖に剣が得意とか間違ってねぇか?矢を使えよ。」
フッ、と笑みをこぼしたエリザは特性を解放させ風系精霊の力を纏わせた弩用の矢を指運任せで投じた。
音を立て木を切り裂く矢を弾いたファルモットは剣を確かめるように刃を見て更に1歩引く。
「・・・弓使わねぇのか?」
「五体が弓だ。投じる物は石でも矢でもこだわらない。」
「最悪だ。顔が良いだけに言葉が見つからねぇ。もっとお淑やかな言葉使いなら抱き締めたいぜ。」
ファルモットは軽口を叩きながら周囲から伝わる音と気配をスキルにより五感に異なる感覚を得て更に後退する。
「まだ逃げるのか?副団長が臆病者なら笑い話だな。」
「うるせぇ!囲まれる音は苦ぇ味がするんだよ!!」
ファルモットは唾を吐き捨て視線をエリザに向けつつやべぇ、と思う。
情報量に差があり、待ち構えられたこの状況で偵察隊程度の人数で森に入ったのは間違いだった。
時間は稼いだ以上部下達は撤退し切れている筈だがらそろそろ本気で逃げてもいいのだが・・・、と思った所でエリザは剣を鞘に収めると腕を組んだ。
「何のつもりだ?」
「別に?私の仕事はここで終わりだから帰ろうとしてるだけだ。もし・・・まだ遊び足りないなら別の相手を用意してある。」
木々の間から大柄な姿を表したルークスを見たファルモットは頬を引くつかせる。
「人狼かよ・・・。あんたらの縄張りもっと東側じゃなかったか?帰れよ。」
「そう言うな人の子よ。まだ続けるなら俺が相手になるが?」
「帰るって言ったら見逃してくれんのか?」
ルークスは大剣を地に突き刺し頷く。
「俺は誇りある戦いを望むのでな。好きにしろ。」
「マジかよ・・・もしかしてあんたいい人?」
ぬぅ、と唸り大剣を抜いたルークスは切っ先を向け視線を合わせる。
「軽口をたたく余裕があるならば相手になろう。」
「私は帰るから後は任せる。だが・・・わかってるな?」
「アンリさんには恩がある。必ずと約束しよう。」
苦笑したエリザが樹上に移り姿を消すと同時にルークスは距離を詰めた。
樹上を移り進むエリザは周囲から聞こえる戦いの音を尻目に先を急いでいた。
ファルモットとの戦いが長引き予定より距離と時間を奪われたからだ。
息を切らしながら目的地に着いたエリザは必要以上に切り刻まれた周囲の惨状を確認しマズイな、と思う。
歩みを進め岩に座り膝に弁当箱を広げたラズの姿を視認した時寒気に似た恐怖を覚えた。
「遅かったですね。正直死んでしまったと思っていましたよ。」
「申し訳ありません。想定以上の使い手で手間取りました。」
そうですか、と呟いたラズは視線を合わせることなく食事を進め、
「視たのですね?」
「はい・・・。」
「・・・アンリさんは結果の是非で善悪とするそうです。
私もそれに倣い、仕事をこなした以上貴女が遅れた事は不問としご褒美にこの唐揚げをあげます。」
安堵とともに深く頭を下げたエリザはラズから唐揚げを受け取り口に含む。
柔らかく仕上げられ下味の効いた肉を噛み締め飲み込み目尻を下げた。
「ありがとうございます。これどうやって作ったのでしょう?」
「私に聞かれても・・・アンリさんのお料理教室に参加したらわかるかも知れませんよ。その時は作って下さいね。」
過去に参加した事あるエリザはその時の手間を思い出し視線を逸らす。
「・・・話は変わりますが予定通り明日が本番で良いのでしょうか?」
「そうなりますね。もう少し深く引き付けるつもりでリゼさん達には狩場の用意をお願いしてありますから気負わず楽しみましょう。」
フフフ、と笑みをこぼしたラズにもう1度頭を下げ明日の準備に取り掛かった。
リルトは一口大に切った鶏肉を僅かに湯気の立つ下味用の出汁に入れるとレシピを確認する。
「えーと、温度は60℃位かな?これが低音調理法らしいです。このままゆっくり熱を入れるとお肉に味が染み込み柔らかく仕上げられるみたいですね。」
「相変わらず手間ね・・・。その後は普通に揚げるだけかしら?」
頷くリルトに会釈し灰汁取りに入ったリノアは鍋からの香りに首を傾げる。
「この出汁は何を使ってるの?」
「酒と生姜、ニンニク、葱などの香菜に醤油ですね。下味は塩でも味噌でも自由みたいです。」
笑顔で示す先には机で唐揚げ争奪戦をしているサラとカイネがいる。
それを確認し自分のメモ帳にレシピを書いたリノアは隅で揚げ物をしているアンリに視線を移した。
「貴方は何をやってるの?」
「ん?あぁ、おつまみのポテトチップス作りだよ。普通に塩胡椒でもいいんだが教会で売る事も考え変わり種としてごま油とマルナ産の青海苔を加えてみた。」
差し出された皿には薄切りのジャガイモを揚げ味付けされた物がある。
それを手に取り口に運んだリノアはもう1枚掴み香りを確かめる。
「これ作るの簡単よね?レシピ教えてくれるかしら。」
「俺はサラ達と明日の事を決めるからそこのレシピをあげよう。2人で自由に使ってくれ。」
目を輝かせたリノア達は置かれた紙を手に取り顔を付き合わせ文字を追う。2人を背に机に向かったアンリは皿を置くと椅子に座りお茶を啜るノイルに視線を向けた。
「ケイト達からの応対は終わってる?」
「当然よ。主が思う通りに進んでおるから心配せんでも良い。」
差し出された紙に視線を落とし頷いたアンリは椅子に座る。
「OKだ。この方向で話をまとめるとして後はサラ次第か。どうだ?」
「・・・明日まで時間はある。多分大丈夫だ。」
アンリは無言のノイルに視線を向けるとゆっくり首を横に振られた。
「そうか・・・。サラはお留守番か。」
「待て!まだ決めつけるな!!今から急にコツを掴むかもしれんだろうが!?」
「ココ、鬼の娘や。そんな都合良いこと期待してたら策は練れんよ。」
悔しそうにギリッと歯を鳴らしたサラは忌々しげにノイルを睨んでから項垂れ視線をアンリに移す。
「どうしても出来なきゃ駄目か?」
「・・・いや、出来るに越した事は無いけど無理ならそれで良いよ。」
「主は正気か!?・・・あ、いや、元からおかしいから正気になれ、と言うべきよな。すまんのうっかりしておったわ。」
泣き真似を始めたアンリを無視してノイルは続ける。
「ある程度は魔力を抑えれるようになったとはいえ完全ではないのよ。それを何故連れていくか説明せい。」
泣き真似を止めたアンリは肩を竦め頷く。
「ノイルはわかってない。いいか?普段はお気楽なお姉さんキャラのサラが珍しく努力してるんだ。
そして無理かもしれない事に焦りを感じ頬を赤らめながら拗ねているのを見ると俺はそれだけで嬉しくなる。
つまりサラが隣にいた方が頑張れる気がする俺のモチベーションの問題だ。」
胸を張るアンリの横まで歩いたノイルは耳元で大きく息を吸い、
「主は馬鹿かっ!!?」
怒声を受け椅子から転がり落ちたアンリを追いかけノイルの説教が始まった。




