VSクラン公国 ①
クラン公国の軍は砦を拠点に物資を置き、現状圧倒的に足りない情報を補う為に偵察部隊をいくつかに分け森へ放った。
その偵察隊の1つには副団長ファルモットの姿もあり気軽な足取りで進んでいる。
「子供の頃を思い出す。俺が生まれた国は田舎でな。よく森に入っては遊びながら果実を取ってきたもんだ。大人達にはえらく怒られたがな。」
ハハ、と笑う声に部下の1人が遠慮した声で言葉を作る。
「副団長はここより北の地ラディアの出身でしたね。その・・・ルフラの進行を長年食い止めた護国の盾とお聞きしましたが。」
「あぁ、そう呼ばれてた時期もあったが今は関係ねぇよ。経歴じゃあ命は守れねぇしな。」
自嘲気味に呟き足を止めたファルモットは肩を竦め前方の木々に声を出す。
「そこのアンタもそう思うだろ?」
木々の背から姿を見せたエリザは苦笑気味に笑い、
「良くわかったな。正直嘗めてた。」
「おぉ、写真で見たエルフの姉さんか。いいね、実物も美しい人だ。」
「・・・確認だ。一応聞いておくが何の用でこの森に?」
腰に下げた剣の柄を撫でるファルモットはふむと頷き、
「たいした用じゃない。一緒にいた商人を探してるんだが連れてきてくれるか案内してくれよ。それさえ済むならすぐに帰るつもりだ。」
肩を竦めるエリザを見たファルモットは訝しげに視線を向け自身のスキル[共感覚]を発動した。
戦闘に使う感覚をリンクさせつつ身体が慣れるまでの時間を稼ぐ為に言葉を続ける。
「驚かないんだな・・・先の言葉からして知ってたって事か?」
「あぁ、お前らが探してる商人。あいつは非常に狡猾で用意周到かつ情報収集を怠る事もない。
お前はファルモットだったかな。当然お前の経歴もスキルも知っている。感覚系のスキル保持者だな?」
互いの情報量、そして準備された上で邂逅した今をヤバイな、と思いどうするか思考を走らせたファルモットは背に回した左手で撤退の合図を部下に示す。
伝達の時間を稼ぐか、と決め言葉を選ぶ。
「・・・さっきから気になってるんだが1人か?」
「まさか、私はそれ程蛮勇ではない。今この時は警告に出向いただけだ。もし戦うつもりなら武器でも魔術式でも構えるといい。」
ファルモットはスキルにより感覚が研ぎ澄まされるにつれ前方半月を描くように囲まれつつある事を理解した。
1人なら逃げ延びる事は問題にならないが連れてる部下を考え焦りが生まれる。
マジでやべぇ・・・間に合うか?と思い連携をもっての敵対ではなく全員撤退させる為に単独での行動を選んだ。
「退け!!砦まで全速だ!!!」
伝達もあり言葉に混乱なく撤退をさせる部下を背にしたファルモットはエリザとの距離を詰め戦闘を開始した。
エリザとファルモットの邂逅した地より数km程東でラズは微笑とともに血に濡れた短刀を眺めていた。
周囲から漏れる呻き声に更に笑みを濃くし正面に視線を向ける。
矢で腕を木に縫い付けられた偵察隊の隊長は向けられた狂気を帯びた目に震えを増し奥歯を鳴らしていた。
「私思うんですけど聞いてくれますか?」
歩みを進めラズは短刀を下に振り血を飛ばす。
「他人の家に入る時はお邪魔します、とか失礼します、とか何か断りをいれますよね?」
短刀を鞘にしまい矢を取り出し続ける。
「それが普通で礼節の表れだと思うんですけど貴方達は魔族の領域である森に入る時そういう事を口にしましたか?」
鏃を隊長の太股に押し当て微笑とともに突き刺した。
抉るように回し、悲鳴が森に響く中首を傾げ、
「声を出してくれたのは良いのですが質問に答えてくれないと独り言みたいで馬鹿みたいじゃないですか。
そういうつもりなら相手に対する礼節を身体で覚えて下さいね。」
鏃を1度抜きまた同じ箇所に突き刺し感嘆の声を洩らすラズは趣味の時間に入った。
弩を担ぎトテトテと歩を進めるイマルとアキナは前方に見知った顔を発見し駆け寄る。
「プラタさんも来てたのデスネ。」
「妖蜂の姉さんがコロニーを出るとは珍しい。矢でも降ると違いますか?」
振り返ったプラタはアキナを掲げ2周回し地に下ろす。
「子供達が武勇伝を聞きたいと言うのでな。2人は救護隊だったな?」
「そうデス!一族揃って頑張るつもりデスヨ。」
「アンリの兄さんが急いで、駆け足、レスキュー・・・略して『いかレ隊』とか言わなきゃもっとやる気出るんですがね・・・。」
気の毒な視線を向けたプラタは2人の頭を撫で、
「なんで断らなかったんだ?魔王になったとはいえ今までとそう変わらんだろう。」
「名称決めジャンケンに負けたのデス・・・。アンリさん強かったデス。」
「10人抜きされたら文句も言えないって事ですわ。」
そういう事か、と呟き2人の視線に合わせるように屈む。
「おそらくスキルを使っているだろうから後でキツく叱っておこう。」
ハイタッチをした2人に頷き立ち上がり周囲を見渡し木々に張られ光を反射させる糸を指さし、
「わかってると思うがこの辺りはリゼ達土蜘蛛族の狩場だ。不用意に動けば糸に絡め取られるから気をつけろよ。
獣人族も全体に散っているが好戦的な奴らが多い。軽傷で救護しようとすれば怒りだすかもしれん。」
「忠告ありがとうデス。プラタさんも気をつけて下さいネ。」
2人がまたトテトテ歩き出したのを見送り歩を進めたプラタは白く糸に覆われた木の下で歩みを止めた。
「来たぞ。戦況はどうなってる?」
樹上から音もなく降り立ったリゼは口角を上げ近寄る。
「森へ入る人間共は偵察隊ばかりで辿り着く前に前線で狩られてるな。サラ様達は順調か?」
「アンリは転移の起動時間が長過ぎて何度か休憩を挟みながら作業している。結果、作戦を一日伸ばすとかでノイルさんが少し調整に入った位だ。
一応日程調整だけで予定通り進めるらしいからこっちに変更はないらしい。」
そうか、と笑うリゼは腕を組み、
「お前は前線で戦うのは久しぶりだろう?竜人族はスラグ攻略まで出て来ないつもりらしいが体力は大丈夫か。」
「問題ない。子供達相手に遊ぶのは意外と鍛えられるものだ。まぁ、出来るなら勘を整える為に何人か生け捕りにしてくれ。」
「部下達に伝えとこう。私は見回りついでに散歩してくるからお前は少し休んでおけ。」
プラタは頷き出番まで樹上で休憩をとることにした。




