VSクラン公国 ~開戦~
クラン公国東側演習場に整列した軍に壇上から演説を終えたグレイグは一歩下がり横のファルモットに場を明け渡した。
家柄で騎士団長の座に着いている自分の声よりは実力で副団長の座に着いたファルモットの方が部下達に届く事を理解していたからだ。
音声拡声魔術式を前にあー、と声を出し考えを纏める姿に苦笑し声を待つ。
「まぁ俺から言う事は多くねぇ。
だが相手に問題があるよな。商人、それも敵意を向けてきたわけじゃねぇ。むしろ人と魔族の橋渡し役になるだろう人間だ。
だがな、この戦いで負けたなら・・・今この時笑っている国民が10年後には泣いているだろう。
そういう事態を招いた奴だ。」
視線が集まる感覚がありムズ痒い感覚を覚え顔を背け気持ちを切り替えた。
「らしくねぇ建前はやめだ!これだけ覚えとけ!
魔族は単体でも脅威。そこでお前達に連携の素晴らしさを例に出して教えてやる。」
親指をグレイグに向け笑みを作り、
「俺達の団長の嫁を知ってるよな?あの料理上手でおっかねぇ美人さんだ。
あいつは俺がナンパして団長がアタックしたから結ばれた。だが家庭内では俺との連携は出来ねぇから団長は尻に引かれてるんだぜ。
どうだ連携、協力の素晴らしさがわかったなら思いっきり笑ってやれ!」
演習場に響く笑い声を聞き頬を掻いたグレイグは咳払いをして背中に小突く。
ファルモットがオーバーアクションで痛みを表現してまた笑い声が響いた。
「うしっ!行くぞお前ら!森には美人な魔族が俺達を待ってるだろう。魔族ってのは強者に従うらしいから気合い入れてカッコつけろよ!!!」
列が反転し軍が進軍し始める動きを見ながらグレイグとファルモットは並び言葉を交わす。
「吉報を待っている。頼むぞ。」
「任せろよ。団長こそ平気か?駐在兵の殆どをこっちに回してるじゃねえか。」
「スラグからの援軍がない以上仕方あるまい。
魔族の反撃をこちらに近づけさせぬよう森近くの丘に砦も作ってあるから上手く活用してくれ。」
了解と敬礼をしたファルモットは馬へ走る。
その背に届くように息を吸い、
「この戦いが終わったら嫁にご馳走を作らせる。俺1人じゃあ小遣い減らされるから一緒に頼んでくれ!」
馬に跨ったファルモットは見えるように右手を掲げ大きく息を吸い、
「俺の好物も作らせるならいくらでも頭下げてやるよ!!!」
ハハ、と笑い先へ進む軍に向かい馬を進めた。
クラン公国の軍が迫っている報を受け泉前の広場に集められた族長とその部下達を見渡したアンリは手で座るように示し口を開く。
「諜報が得た情報を横流ししてくれたレア王には感謝しないとな。
皆が集ったおかげで万全の策で臨めるってもんだ。」
懐から紙を取り出し、
「予定通り人間と戦いたい者だけ前線に出てくれればいい。
2日間は好きにさせるつもりで侵攻想定範囲は既に撤退させているから守る必要もない。
一応回復薬も大量に仕入れてあるから好きに使ってくれて良いよ。死なない限りはなんとでもなるだろう。」
好戦的な魔族から歓声が上がりそれに片手で応え続ける。
「俺とサラ、後はノイルに幻影族の何人かは別で動くから全体のまとめ役はラズに任せる。」
「わかりました。ふふ、大役で緊張しちゃいますね。」
「ラズが緊張するなら俺はストレスでハゲと胃潰瘍になってるよ。」
笑い声にマジだからな、と返し、
「後は・・・。うん、戦いが終わったら戦勝祝いと俺の就任祝いを兼ねて宴を開くつもりだ。
今回はマルナに話を通してあるから海の幸も手に入る豪華なBBQを期待しててくれ。」
「魔王様、酒は飲み放題ですか!?」
「当然だ。吐くまで飲んでも尽きないよう発注をかけとこう。」
おぉ、と上がる声に頷き笑みを作る。
「じゃあ始めようか。頼むから守ってくれよ。」
全員が頷き迎撃準備に動き出した。
族長の指示の下、動き出した魔族に手を振っていたアンリは伸びをして悪戦苦闘しているサラに向き直る。
「やっぱ魔力抑えるの無理か?」
「まだ結論には早い、努力の途中だ。」
「ココ、鬼の娘や。もっと力を抜き自然体にならねば人間並みにはなれんよ。」
ノイルは楽しそうに口元に手を当てサラの奮闘を眺めいている。
ロイズも身振りでコツを伝えようとしているがサラには出来ないようでアンリはうーんと唸り思考の走らせた。
ディストラントに交渉に行く際に預かった変化用魔具を使えると思ったが魔力を抑えれないサラを連れていけば見つかる危険が増えるだろう・・・。
となればノイルとロイズ達のみで下準備を終えた方が安全かな。
「無理なら当日までサラはお留守番だな。予定は狂ったが修正効く範囲だから策の変更はしないつもりだが良いよな?」
「仕方ないのう、少しばかり仕事が増える程度問題ないわな。
して鬼の娘よ、その時は妾がアンリを守る事に文句はないよな?無論、行動中ではない寝具の中でもという意味での。」
沈黙とともに考えを巡らせたサラは待て、と声に出してから続ける。
「その時は・・・もしかして私は1人で寝るのか?アンリ無しでは安眠出来ないかも知れん。」
「俺を枕みたいに言うなよ。」
「私にとって寝るときの必需品という事だ。マズイな・・・それは想定外だった。」
目を細めたノイルはどうしようかと慌てるサラを楽しげに見つめ、
「では頑張るが良い。明日まで時間はある故みっちり鍛えてやろう。
ロイズ、主も特性発動中の気配が漏れておるから共に修練せい。」
嫌そうな顔を浮かべたロイズは視線をさ迷わせアンリで動きを止め覚悟を決め頷く。
「魔王様の役に立つ事ならよろしくお願いします。」
「良い返事よな。ココ、主は鍛えがいがありそうよ。」
「この場はノイルに任せるよ。悪いが俺はもう少しやる事あるから行くけどあまり苛めないでやってくれな。」
サラとロイズに頑張れと伝え背を向け最終準備を終える為小屋へ歩き出した。




