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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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魔王 ~予兆~

西の森、花畑に囲まれた屋敷の一室でフェミナは退屈を隠さず気だるげに集った者達の議論を眺めていた。


東の森を統治する魔王が現れ、あまつさえそれが人間という事が部下達にとって面白くない事だった為からだ。

白熱した話の中、獅子の頭の獣人が机を叩き立ち上がりフェミナに鋭い視線を飛ばした。


「フェミナ様!このような事許していい筈が無い!!その者を粛清するべきでは!?」


居並ぶ部下達も頷き同意を示す姿に溜息をこぼしたフェミナは足を組み直し頬杖をつく。


「ロウファ?その机お気に入りなのよ。わかる?壊したら殺すから。

勿論、貴方だけでなく連れ合いも含めて責任をとらせるから大人しくしてね?」

「失礼しました・・・。」

「それで良いわ。で、東の魔王についてはノイルから事前に断りを貰ってるの。私が許可したし彼女も筋を通した。

エミルとキースにも伝えてあるのに貴方達はまだ問題があると言うのかしら?」


フェミナは沈黙した部下達を眺め背もたれに重心を移すとまた足を組み直す。


「私は前例のない今の状況を楽しんでいるのよ。

ありあまる退屈を埋める、そんな存在を私から奪おうとこの場で言えるなら理由を聞いてあげるわ。」


僅かな殺気を込めた視線が全員を見渡すと萎縮し全員が俯く。


暴神の異名を持つフェミナは気に入らない事があると容赦無く暴れ周囲を巻き込みながら甚大な被害を出してきた過去があり怒らせる事は死を意味していた。


恐怖から滝のように汗に流すロウファは刺激しないように、そして目立たない為に静かに座ると同時に向かいの椅子が音を鳴らし妖花族長マナが勢いよく立ち上がった。

全員から座れと視線を向けられたマナは数秒悩み親指を立て応え口を開く。


「フェミナ様~。私、奪うとかそういう事じゃなくて納得したいだけなんですけど聞いてもらってもいいですか?」

「あら?普段は寝てばかりの貴女が起きてるなんて珍しいわね。」

「ふへへ、皆うるさいから寝れなかったの。だから今日は会議で初めて発言しちゃおうと勇気を出してみました。」


微笑んだフェミナは促すように頷く。


「ありがとうございます。

疑問なんですけどその人間・・・あぁ、失礼ですよね。魔王アンリ様は強いんですか?」

「花達が伝えてくれた本人の言葉通りなら虫にも負ける最弱だそうよ。」

「わぁ、予想以上の答えです。じゃあフェミナ様も含む魔王様達は立場だけはその人と同格って事になるんですけど納得出来ます?」


場の空気が固まり静寂が満ちる中マナは意地悪な笑みを浮かべ続ける。


「何が出来る者か把握しておいた方が良くないですか?ただ有害な人間だったらフェミナ様の顔に泥を塗る事にもなりますし。」

「・・・いいわよ。あの地はもうすぐ人間の国との戦争になりますからそれを退けられるか、その後に直接会って魔族を統べる者としての力を判断します。それで良い?」

「OKでーす。私はそれで納得しました。ではでは、私は帰りますので後は納得出来るまで皆様で議論を続けてください。」


マナは1度その場でターンをしてから深くお辞儀をして出口に向かう。

扉が閉まるのを見送った全員はフェミナを刺激しないようにこの場を切り抜ける方法を考え始めた。











エミルは自身の領地である大森林西側の渓谷地帯の地下にある屋敷で食事をしていた。

普段は血が滴る肉を好むエミルは見慣れない料理に高鳴る気持ちを抑えもせず机に置かれた皿を手元に引き寄せる。

赤いソースの中にある肉を1口含み破顔すると続けてもう一口運ぶ。


「いいわ、良い味よ。流石カルオスト、褒めてあげるわ。」

「恐縮です。エミル様。」


深く一礼した黒衣の吸血鬼はワインを注ぎ差し出す。

受け取り口に含んだエミルは目尻を下げ1度頷くと皿に視線を移しつまらなそうに口を開いた。


「あーあ、あの商人が魔王になっちゃったから引き抜けないわね。手元に置きたかったのにつまんない。」

「何度か誘いは掛けたのですが力不足を痛感するばかりです。」

「仕方ないわ。カイネが目を光らせるソドム内で強硬手段に出たら戦争になるからね。過ぎた事よりも今後を考えなきゃ。」

「今後ですか?」


頷きもう一度料理を口に運んだエミルはまた破顔しつつ疑惑の視線をカルオストに向けた。


「貴方・・・今日のソドムへの買い出し普段より帰り遅かったわよね?もしかして・・・?」

「はい、アンリ殿に会えたので料理を教わっていました。前回店番の猫又族に伝えておいた新作の一つがそちらのレバーソーセージです。

レシピ通り販売されているトマトソースで煮込むだけですが積もる話もあったので遅くなりました。」


フォークを置き手を前に出したエミルは首を傾げるカルオストに待ったを掛け、


「あいつソドムに来てるの?今?」

「今は帰ってるとは思いますが週一位で顔を出してると言ってましたが問題が?」


俯き、皿とカルオストを交互に見たエミルは溜息をこぼす。


「豪胆と言うべきね・・・、一応フェミナからも注意するように言われてるんだけど今回の事、面白く思わない魔族も多いのよ。

もし手を出す馬鹿がいれば東側との戦争になるわ。」

「しかし短期間で魔王の1角になる程の実力者なら賊程度蹴散らすのでは?」

「弱いらしいのよ・・・それも恐ろしくね。」


沈黙したカルオストは咳払いをして踵を返す。


「エミル様、急ぎ各魔族に牽制をして参ります。」

「お願い、文句言う奴がいたら殺すから後で報告してちょうだい。」


苦笑いを浮かべ立ち去るカルオストに手を振り食事を再開した。








厨房前の机に置かれたサンドイッチの皿を抱え階段を上がったレウは口に含んだ物を飲み込み扉を開ける。


「こんにちは、湯屋で使う商品の受け取りに来ました。」

「お疲れ様、商品は用意してるから誰か持ってきてくれ・・・レウさんはなんで俺達の昼飯食ってるんだ?」


秘書の1人が部屋を出るのに会釈しつつ視線を皿に落としたレウは無言でもう一つ口に運び頷く。


「魔王になったので敬称は無くすって事になりましたよね?」


無言で抗議の目を向けるアンリを無視したレウはそそくさとサンドイッチを布で包み指輪にしまうと皿を机の上に置いた。

別の秘書から気の毒な目を向けられたアンリは立ち上がりレウを指差し、


「普通テイクアウトまでするか!?」

「美味しかったので湯屋の皆に分けようという慈悲なる行動です。で、相変わらず仕事多いですね。少しは楽になるって話だったのでは?」

「今、更に仕事が増えた事に気付いてる?」


アンリは笑顔で頑張ってとジェスチャーをするレウを半目で睨んでから溜息をこぼす。


「・・・カイネ主導で計画していた各国の教会を使った事業がこっちに回ってきてな。」


差し出す紙を受け取ったレウは文字を追い疑問を言葉にする。


「これ、場所と屋台の営業許可だけですよね?」

「そうだな。レシピ作り、宣伝、材料確保に人材育成とやる事は多くて楽しくなっちゃうよ。」


泣きそうな笑いをこぼすアンリは更に追加の紙を差し出す。


「まだ決定ではないがテオロギアで教皇相手に事業の説明を兼ね招待されてる。それは通信魔具の写しだが正式な招待状が来たなら断れん。」

「いやぁ、本当に忙しいですね~。なんでも研究所では転移魔術の普遍化にも力を注いでると聞いてますが身体持ちますか?」


どっから聞いたんだ?とも思うが湯屋を仕切り呪術師として多くの人と関わるレウには独自の情報網があるんだろうと思い頷く。


「今の所はな、レウさ・・・レウも竜人だから魔術式に詳しいだろう?魔術符の範囲を広げる方法に心当たりあるなら手伝ってくれ。」

「ちゃんと言えましたね。では頑張ってる魔王様の頼みとして長にも知識を聞いておきますね。」


扉が開き秘書から湯屋の商品が入った指輪を受け取ったレウは手を振り背を向ける。


「お代はいつものように月末にお支払いします。ではサンドイッチご馳走様でした。」


階段を降りる足音を聞きながら肩を落としたアンリは皆の昼食を再度作る為に立ち上がった。

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