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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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新たな魔王 ①

泉前の広場、1段高い椅子に座らされたアンリは周囲を見渡し虚ろな思考を起こそうと立ち上がろうとし、それをノイルの手に阻まれた。

怒りの表情を浮かべたノイルは咳払いをしてからアンリを睨む。


「のう、主は今の状況を理解しておるか?」

「無茶言うなよ・・・。俺はラズと一緒にソドムで娼館と警備隊の皆と飲んでた筈なんだが?」

「そうよな。族長会議後、倉庫事業を始める準備が出来て流奴を迎え入れる根回しついでに飲みに行ったわ。それが何故記憶を失う程潰れておる?」


首を傾げたアンリに代わりラズが手を挙げ、


「娼館の方達に勧められるまま飲まされ潰れていましたよ。確か夏に皆を連れて海に旅行に行くと契約書まで書かされてました。」

「うーん。そんな気もするような・・・まぁ書いたなら仕方ないな。

なんでまた族長達が集まっているか知らないが俺は寝るから勝手に進めててくれ。」


ノイルはさらに怒りを顔に表すも1度深呼吸をして気持ちを落ち着かせると不安な顔を浮かべる族長達に力強く頷く。


「良く聞くが良い。主が魔族を統べる王様になる時がきたのよ。」

「oh、summer・・・?あぁ、もうすぐ夏だもんな。浮かれるのはわかるよ。

夏季休暇制度の話しなら交代で旅行プランを用意しとくからそれで良いな?もちろん水着は俺が責任もって作らせてくから慌てる必要も無い。」

「「「お前はなんの話してんだよっ!!!」」」


全員が声を揃えた。





椅子に座り頭を抱え項垂れたアンリは体勢そのままに口を開く。


「つまり・・・。俺の知らない所でノイルさんが根回しを終えていた。そういう事だな?」

「良い理解よ。今日まで駆け回った妾を褒めて良いぞ。」

「そうだな、ケモミミ、モフモフ尻尾、着物美人、どれも素晴らしいな!褒めたから許してくれ。」


全員が腕を×にした為更に項垂れたアンリは小さく呟く。


「お前らは俺の睡眠時間を知ってるのか・・・?

夜中まで俺の家で飲んで馬鹿騒ぎした部屋を片付けるのは誰かわかってるか?

毎朝早起きして朝食を作ってるのは俺だぞ!?そこから直ぐに仕事、面倒事、会合、魔術鍛錬とてんてこ舞いの人間に更に仕事を押し付けるのか?過労死しか先がねぇよ!!」

「そ、そうよな。理解したから落ち着くがよい。何も仕事を増やそうという事ではないのよ。

どの道この集まりは主がいなければ機能せん。何より鬼の娘を筆頭に他の者では命令を下せん人材が集まり過ぎておる。わかるな?」


あぁ、と頷いたアンリは横に座りカードで遊んでいるサラとラズに視線を向け、


「ならあの2人のどちらかにやらせれば良いだろう?ノイルさんも含めれば3人だ。

俺は人間で!最弱だ!魔族を纏めるのにふさわしい候補者は他にもいるだろう。だから助けてくれ。」

「アンリや、王とは成ろうとするものではなく祀り挙げられるものよ。皆が納得し認めておる。

何より、今後起こる人の国との戦いを考えれば主には立場を持たせたいのよ。」


反論しようと思考を走らせるアンリに横から声が届く。


「私達は人を率いるのに向いてないのは知ってるだろ?お前が適任だ。」

「そうですね。私は今の生活が気に入っているのでアンリさんでお願いします。」


族長達も頷き、ノイルは好機を感じ笑みを作る。


コヤツは考えさせると思い通りにいかぬ行動をとる人間よ。

そして利に聡い商人、ならばここは・・・。


「アンリや、引き受けるなら主の負担を減らす準備も出来ておる。」


ノイルは懐から紙を取り出しそれを差し出す。

嫌そうな目で文字を追うアンリの顔が明るくなった事に手応えを感じ頷く。


「当然書いてある事は確約よ。まずは負担軽減の為に秘書を用意しようかえ。

調理補助員としてリルト、リノアが候補を名乗り出てくれておる。そしてピクシー族が総出で雑務を請け負う手筈よ。

会合、交渉事には主の負担は変わらぬが少しは自由な時間が作れるのではないかえ?」


ココ、と笑い見た表情に押す方向は間違えてない事を確信し続ける。


「主の負担を減らし尚且つ立場を作る事で安全も生まれようぞ。

何しろ魔王様よ。進む方向を指し示す御方故に皆が守り、敬う存在よのう。ココ、悪い話ではなかろう?」


ふむふむ、と頷いたアンリはそれでも首を横に振る。


「答えはノーだ。魅力的な提案だし願ってもない事だが大事な事が抜けている。」


読み終わった紙を丁寧に畳みノイルに返したアンリは肩を竦め、


「俺が死んだ後を考えてないだろう?」


言葉にした。













静寂に包まれた広場を見渡したアンリは溜息をこぼし口を開く。


「国とは言わなくてもある程度の集団でもっとも混乱を生むのが率いる存在の交代する時だろうな。

嫡子に任せようと、最も信を置く者に任せようと反感を持つ者と庇う者に分かれる事は歴史が証明している事だ。

そして重ねて言うが俺は最弱の生物だ。その時起こる争いを止める事が出来ない存在なんだよ。」


一息置き続ける。


「人間の寿命ならそれも仕方ないだろうが此処は魔族の集まりだ。死なない者、長寿の者こそが相応しいと思うのは先を見過ぎているのかな?」

「・・・・・・。」


沈黙したノイルに不安げな目を向け口元に手を当て狼狽える。


「なんで黙る?あれか、無視か?無視だな!?そんな事していいと思うのか!?俺は駄目だと思う!!!」


落ち着くが良い、と呟きノイルは真面目な会話になった手応えを感じ視線を合わせた。


「寿命ならなんとでもできるとは言わんが手はある。不朽体を知っておるか?」

「腐らない聖人の遺体の呼称だろう。俺の国では宣教師ザビエルが有名だ。」

「そやつは知らんが正解よ。それを利用した擬似の不死が先日来ておった粛清者という訳じゃ。

他にも方法はあるがここで大事なのは主にも可能性があるという事よ。」


動きを止めたアンリは俯き、


「可能かは置いといて先程言った寿命の観点は努力次第か・・・。ならそれを理由に拒否は出来ないな。」

「理解が早い良い子よ。頭を撫でてやろう。」


ノイルに髪を乱されながら思考を回転させ続けるアンリはなおも悩んでいた。

自分には荷が重い立場であり、守ってくれる仲間達が負うリスクが大きくなる事に納得出来ないでいたからだ。

それを見透かしたかのように身を寄せたノイルが耳元で囁く。


「次は主ではなく全体の利益となる話をしようかえ・・・。」


甘い声と考えを読まれた事に背筋に震えを感じた。

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