クラン公国 ②
クラン公国、城外東側の演習場では多くの兵士達が鍛錬に励んでいた。隊の連携を重視し声と身振りでの移動、包囲、戦闘を交代で繰り返す姿を横目に休憩に入った隊の長は全員を見渡し注目を集めた。
「いいか、魔族との戦闘経験のない者はいないだろうが改めて認識しろ!個人では上級以上は疎か中級魔族でも分が悪いだろう!協力が出来なければ壁役にもならん!!」
真剣な目に頷いた隊長は要注意魔族とその特性を記した紙を配り、
「連携力、そして学ぶ力こそが人の武器だ。各員己の役割を身体に覚え込ませあらゆる不測の事態にも対応出来るように考え、意見を共有しろ。」
「質問宜しいですか?」
声と共に手を挙げた部下に頷き促す。
「スラグ王国との共同作戦の件を教えて下さい。彼等との演習は1度も行っておりません。
せめて動員兵数と作戦の共有を始めなければ間に合わないと思います。」
「その事か・・・。貴族でもない者と共闘は出来ぬとの事だ。俺達を魔族に当てて戦力を測るのが狙いだろう。」
隊長はざわめく隊員にわかるように溜息をつき目を伏せる。
「すまんな、諜報員も殆ど帰ってこず魔族の情報も限られている中で同盟軍が消えた動揺は理解している。そう、本来なら戦う機では無いのだ・・・。
だが上層部の決定である以上それがどのような窮地かはわかっていても従うしかない。納得してくれ。」
頭を下げようとする隊長の動きの前に1人が進み出て声を作った。
「いえ!戦果を奪い合う相手が減っただけです!!」
おぉ、と声が重なり別の者も続く。
「そう考えれば得だよな。目的は魔族の殲滅じゃないし他国の兵は必要ないだろう。
隊長、特別手当、成功報酬は期待して良いんですか?」
「あぁ・・・そうだな、当然だとも!俺が団長に掛け合ってやる。
駄目ならストライキだ。いいか、1人も死ぬなよ?人数が減ればストライキの効果が減るからな。」
全員が笑い頷いた。
演習場を見渡す城壁の上に立つ天幕の入口を潜ったファルモットは机を囲む国の重鎮達に形だけの敬礼をとりつまらなそうに口を開いた。
「あ~、スラグ王国の対応について各隊の報告します。
正規兵、ギルド、冒険者の隊は混乱が大きく日を置かなくては話にならないでしょう。
傭兵達は契約金の倍増を要求してきたので成功報酬の上乗せで納得させました。以上ですよっと。」
踵を返そうとしたファルモットに咳払いと共にグレイグが止め、
「副団長、傭兵達の件を何故こちらに確認を取らなかったのか説明してくれるか?」
「おいおい、団長わかってるだろ?俺も傭兵出身だから言うがあいつら戦況次第で森から逃げる奴もいるぜ。
傭兵ってのは褒賞とリスクの釣り合いが崩れたらさっさと撤退するもんだ。なら後払い以外有り得ねぇ。」
質問は?と胸をはるファルモットに全員が溜息をつきグレイグに意見を求める視線を向けた。
「副団長はこれでも戦闘経験は国、いえ大陸を含めても上位に入る程戦場を渡り歩いた者です。
必ず成果を出す筈ですので今回の独断は俺の責任として扱わせてもらいたい。報告も説明も俺からしますので皆様は聞かなかった事でお願い致します。」
「流石団長頼りになるぜ。俺も好き勝手させて貰えてるんだ鬼、エルフ、土蜘蛛、誰でも相手してやるさ。」
ハハ、と笑うファルモットの声が天幕を満たした。
天幕内での会議が終わり外出たグレイグは城壁の外へ足を投げ出し演習を眺めてるファルモットの横で足を止めた。
「勝てるのか・・・?スラグ王国の援助金は取り付けたが戦力が大幅に減った事は否めない。本当に勝てると思うか?」
「団長は馬鹿だな。いつもの様に堂々としてろって、戦果を持ってくるのは俺達の仕事だぜ。狼狽えるのも喜ぶのもその時で良いんだよ。
まぁ本音を言うなら正直厳しいがだからこそ楽しいじゃねえか。」
ファルモットが笑いながら指差す先には正規兵だけだが木々に見立てた柱を建てた演習場で訓練をしている。
「スラグの馬鹿王は貴族主義で戦場知らずな甘ったれだ。魔族はこっちの身分なんざ考慮しねぇって事をわかってねぇ。
だから奴らは無視して必死に訓練してる奴らを信じて偉そうにしてろよ。それだけで全員の安心に繋がるもんだ。」
「あぁ、そうだな、そうするよ。お前には負担をかけている事を申し訳ないと思っているがどうか国の為に全力を尽くしてくれ。」
わかってねぇな、と呟き立ち上がったファルモットはグレイグに敬礼をしいつもの様に不敵な笑みを浮かべた。
「俺が仕えてるのは国じゃねぇ。だが戦いは俺の分野で楽しみだ任せてくれ。」
ファルモットは背を向け手を振り演習場に歩き出した。
「とまあ、こんな所か。クランが初めに攻めてくるのは間違いない。同時の方が楽だったのにな。」
「まぁ思うようにいかないのが人生だからな。どの道攻略はクラン公国を先にするつもりだったから問題ないけど頼んだ事は終わってるか?」
頷いたカイネは石窯の蓋を開けたアンリに視線を向けつつ机に足を乗せ椅子を傾かせる。
「手筈通りにな。攻めてきたら1、2日遊んでやれば充分だろう。それ以上はスラグの相手もあるから止めとけ。
で、お前は何をしてるんだ?」
「ピロシキ作りだ。サラが食べたいと言うから試作をしてるんだが春雨がないからスープを吸わせる具が無くてな、干し椎茸で代用してみた。」
言葉と同時に取り出したパンを皿に載せ差し出す。
受け取ったカイネは両手に転がしながら熱を逃がし口に運び飲み込む。
「美味いな。深みのある味だが何を使ったんだ?」
「野菜と肉を炒めた脂を冷やして餡に練り込んであるだけだ。野菜と肉の甘味を塩胡椒で引き立たせてパン生地の塩気を調整すれば良い。」
「これは・・・売れるな。だが欲をいえばもう少し真似出来ない工夫が欲しい・・・。」
石窯からピロシキを取り出しながら苦笑したアンリは少し考え頷く。
「販売目的なら餡を猪の内蔵に付いてる脂網で包もうか。更に焼き上げたパンを揚げればまた違った食感と旨味が足される筈だからどうだろう?」
「良し!それを教会で売ろう。決まりだ。」
「今は無理だ、俺は何時でも忙しいからな。この後もマルナと会合があるし各店を回らなきゃならない。
此処でもエルフ達が記憶を読み取り作った服飾や細工品の確認を頼まれてるし他の魔族からも呼び出しを受けてるんだからそんな暇ないって。」
つまらなそうに頬を膨らませたカイネは数秒の沈黙を作り机から足を下ろした。
「わかった・・・暇な時にレシピだけ作ってくれれば後は教会主導で売るよ。利権は9:1で良いな?」
「悪びれない顔とえげつない比率、流石カイネ尊敬するよ。」
「神の名の下に行動してるからな。褒めなくて良いから怠けるなよ。」
仕方ないかとこぼしたアンリはピロシキを皿に積みながら頷く。
「カイネには恩があるし面倒かけてるからな・・・。
条件を飲む代わりと言ってはなんだが頼みがあるんだけど・・・俺でも出来る相手の転がし方を教えてくれるならそれで良いよ。」
「容易いな。倒すだけならお前の制約にも引っかからない技はあるだろうから魔術鍛錬の時に教えてやる。」
二人揃って悪い笑みと共に頷き握手で契約の代わりとした。




