商談 ④
天幕内に静寂が流れ、緊張そして警戒を表情に浮かべたリック達はアンリを注視し言葉を待つ。
それに応えるように3人を見渡したアンリは照れたように頬を染め、
「これがモテ期か・・・でもそんなに熱い眼差しで見られてもノーマルだから応えれないんだ・・・ごめんな。」
「「「そういう目じゃねえよ!!!」」」
3人の声にビクリと肩を竦ませたアンリはそれぞれを指差し、
「じゃあなんなんだその目は!?勘違いした俺が悪いのか?そうなのか?なら本当にごめんなさい!」
リックは頭を抱え机に項垂れ、左右の2人が介抱を行う。
アンリはそれを眺めつつサラに振り返り首を傾げ、
「なんか王様疲れてるみたいだから休憩にしようか。」
全員が合わせるように溜息をついた。
ノイルは耳に届く悲鳴と苦悶の声に導かれるように森を進んでいた。歩みは軽く鼻歌交じりに木々が開けた場で足を止め周囲を見渡した。
筒を抱え焦げた匂いを生む遺体達を横目に目的の人物を探すと、湧水が岩肌を濡らす音の方向に鈍い音が鳴り絶叫が森に響いた。
「ココ、また手間な方法で楽しんどるの。」
「あら、ノイルさんもやりますか?焼き石をこの鉄筒に入れるだけですから簡単ですよ。」
ラズは鉄箸で焚火から取り出した石を筒の中に落とす。再び鈍い音が鳴り鉄筒を抱えるように糸で拘束された男が引き攣った声とともに身体を揺らしだした。
「待ってくれっ!情報は全部喋ったんだ。この森の事も口外しない!だから助けてくれ!?」
ラズは無言で追加の焼き石を筒に入れフフ、と笑みをこぼしノイルに向き直る。
「いやぁ、久しぶりに命を感じる気分です。なんだか昂ってしまいますね?」
「あいにく主のような趣味は無くての。好きに楽しめば良い。
少し話があって来たが時間をもらえるかの?」
首を傾げたラズは布地の焦げる音を確かめ頷く。
「良いですよ。後は眺めるだけの時間ですからお茶でもいれましょう。」
「ココ、なら熱いのを戴くかの。
・・・真剣に応えてほしいのじゃが、主は魔族を率いる気はあるかえ?」
ラズは焚火で沸かしていたお湯でお茶をいれながら無言で首を横に振る。
それに目を細め、
「鬼の娘も同じ答えよ。だが王は必要よな、妾はアンリを推そうと思っておるがどうかえ?」
「難しいですね。あの人多分・・・いえ、絶対嫌がります。それに知ってますよね?人間が魔王になった前例はありません。」
焚火から離れ、湯呑みを差し出すラズは皆を説得出来ますか?と問う目線を送る。
「問題にならぬ事よ。主に、妾に、鬼の娘にと恐れず謙ることも無く命令出来る者はカイネを除けばこの森にはおらん。
そして面倒を引き受け、各魔族が恐れず、また立場に影響させぬ者はアンリしかおらんわ。」
「・・・そうですね、それは認めますがアンリさんは拒否するでしょう。これ以上仕事を増やすのも可哀想ですから今のままでは駄目ですか?」
「駄目よの、何故な・・・」
声を遮り鉄筒を抱えていた男が絶叫とともに暴れはじめた。
ラズは限界を超え焼かれる姿に目を輝かせ感嘆の吐息を漏らすがノイルは自分の言葉を邪魔された事に嫌悪から右手を振るように薙いだ。
同時に男が炎に包まれ炭化したのを確認し不満げなラズに向き直る。
「煩かったのでな、後で代わりを捕まえてやるから許せ。」
「まぁそれなら文句はありません。
・・・今のは確か狐火でしたね?ある程度の熱さえあれば発火させる妖狐族の得意技と聞いてましたがあの熱量には驚きました。」
「コツがあるのよ、空気と魔力の配分を・・・と、話が逸れたわ。続けるがアンリの奴はあのままなら早死する、わかっておるよな?」
「えぇ、スキルと知識で短期間に異常な程儲けてますから敵は多いでしょう。ですがそうならない為に私達がいます。」
ノイルは正しく理解している事に頷き結論を先に言葉にする。
「あやつは守らねばならぬ。それを魔族全員の共通にするには肩書き、そして立場を与えるのが効率的よの。」
「あぁ、成程上手い言い分です。思惑はともかくそういう事なら文句はありません。
族長達を説得をしてくれるならアンリさんの説得は私が請け負いましょう。私とカイネなら言いくるめるか、強硬手段かはわかりませんがなんとか出来る筈ですから。」
ノイルは内心で難関の1つを超えた安堵を思い頷く。
「決まりよな。では先程の代わりを探してくる故待っておれ。」
「一緒に行きますよ。狩りもまた楽しいですから。」
ラズの言葉に変わらぬな、と思いながら湯呑みを空にした2人は歩き出した。
天幕内、弁当の蓋を閉じたリックは食事に満足し気持ちを切り替えていた。
先程の奇行も頭の隅に追いやり計算を終えたカナトと言葉を交わしながら先の展望に期待膨らませる。
全てが計算通りなら整備費に対して3年と掛からず元手にもどるだろう。だがリスクを考えるなら保険となるものが欲しいと思う。
それを見透かしたかのように弁当の蓋を閉じたアンリは口を開く。
「街道整備、警備体制を整える資材として木材、石材関係は定価より安くこちらで提供しよう。勿論加工も行う。」
「アンリ殿は心が読めるスキルを持っているのか?」
「そんなスキルがあるならもう少し上手く使うよ。俺は商人だから欲、求める物に敏感なだけだ。」
成程と頷いたリックは侮れんなと思い気持ちを引き締める。
「有難く受けさせてもらおう。して、先程の貴方の利益に関してだが・・・。」
「説明するよ。ディストラントの公共工事と森の整備、他の事業に警備と抱え込みすぎて残念だがそちらにまで手が回らない。
だから儲けはその後に起こる貿易で得ようと思っている。」
わかるか?とカナトに視線を向け、
「マルナがこの案を飲むならディストラントから海への交易路が活性化する筈だ。それは俺達からすればノーリスクで輸出を増し儲けを増やす可能性に他ならない。
そして2つの国も税率の調整が必要だろうが税収を増やせるならお互いプラスだろう。」
アンリは地図を開き幾つか印をした地を示しリックを見据える。
「更にもう一つの提案だがこの印は俺が買った倉庫用や店を開く為の土地だ。ここに転移魔術で海の幸を届けるから店を開かないか?
内陸では鮮魚の入手は川に限られている。やりようによってはこの地でしか手に入らない物として利益を産めるだろう。こちらは輸送代、店舗代を貰えるなら少しのマージンで良い。」
見積もりを受け取ったカナトは手を前に出し待ったを掛け高速で思考を回転させた。
プラスにする為の値段設定から人材費などを計算した所で声が届く。
「試して見ないとわからないがこちらで生簀も用意しよう。長距離の転移魔術は負担が多くてね、鍛錬はしてるが毎日は流石にしんどい。
計算中のカナトさんには追加資料で申し訳ないが大量の買い付けが可能なら漁業に携わる者も助かり値段交渉も安く済むのでは?」
カナトは目眩を感じながらも虚空に計算式を描き頭痛を堪えリックに頭を下げる。
「我等とアンリ殿、双方が利益を産める事が可能です。」
「理解してもらえたかな?俺は商人としてあなたの国を利用するつもりでいるよ。」
「・・・それは口にしてはダメな言葉だぞアンリ殿。
だが利益を生む話をこれ程までに積んだ貴方を信用しよう。急ぎ国に帰り行動に移る。詳細は使者を通し調整するとしよう。」
アンリは概要を書いた仮の契約書にサインをし席を立つリックに手を差し出し、
「良い商談でした。後で使者を送ります。名前はヴァンと言うので彼を通じて詳細を詰めましょう。」
「了承した。この話がともに良い結果となるよう努力しよう。」
握手とともに笑みをこぼした。




