画策 ②
白亜の神殿を前にマイは伸びをしてから歩みを進めた。入口を進み避けるように下げられる頭を無視して歩く先は教皇の待つ部屋だ。
扉前で身嗜みを整え、送迎会と称した馬鹿騒ぎで呑みすぎた頭に気合いを入れ扉を開いた。
「戻りました。御報告よろしいですか?」
椅子に座り、いつものように髭を触っていたマディス
は厳かに頷く。
「よく戻った。では聞こう、商人アンリはどうであった?」
「はい、始末はしませんでしたが悪人と判断するべき人間です。」
「ほう、逃げられた・・・そういう事か?」
いえ、と口にし眉を顰めたマイは姿勢を正し見据えるように視線を合わせた。
「教会に利益をもたらす人物と判断しました。詳細は書類には纏めますが魔族との架け橋に使える人物かと・・・善悪ではなく損得で考えこの結論に至った事をお許し下さい。」
「謝らなくて良い。
そうか・・・やはり良い出会いだったのだな。下がり旅の疲れを癒せ。今日ばかりは主もお許し下さるだろう。」
マイが一礼と共に退出し扉が閉まると同時にマディスは椅子からはね起き司祭に詰め寄る。
「聞いたか?あのマイが悪人を断罪しなかったぞ。儂はそこに成長を見た気持ちだ。良し!今日は飲むから止めるなよ。」
「教皇様・・・前回も飲み過ぎて祈りの時間に起きれなかった事をお忘れないですよね?」
マディスは小躍りを止め頷く。
「覚えとるよ。目が覚めたら棺桶の中で、起きると復活の再現のように扱われたな・・・。」
「いつまでも寝てたので苦肉の策でした。ドライアイスを敷き詰め体温管理までした演出と機転を褒めて下さい。」
「そうだな・・・おかげで背中が低温やけどになったわ。他のやりようは思いつかなかったのか?」
司祭は視線を逸らし遠くを見てから頬を掻き、
「まだまだ未熟故に咄嗟の対応が出来ませんでした。」
「それは前も聞いたわ!もう無いと思うが次はもっと穏便に済ませてくれ。」
「でしたら飲みすぎないように私からもお願いします
。」
マディスもまた視線を逸らし頷く。
「前回はマイが居なくて寂しかったから酒に逃げたんじゃ。今回は酌をしてくれるから大丈夫。信じろ。」
「ほほう、前は逆の言葉を聞いた気がしますが・・・。」
沈黙が流れ緊張したマディスは椅子に戻り話題を変えた。
「いつか・・・アンリとやらが来るなら未来を見やっても良いかもな。若者を正しく導く力になれるかもしれん。」
「しかし、貴方のスキルは無闇にお使いするべきではありません・・・。もし、その者の望まぬ姿を写したなら恨まれるでしょう。」
「それも人生というものだ。起こりうる全ては神が定めた良い事に繋がる様に出来ておる。マイが認めた人間なら理解出来るだろう。」
マディスの呟きが消え部屋を静寂が満たした。
「はい、そういうわけでマルナとの交渉はこんな感じで進めるから宜しくね。」
アンリは集合させた族長達に笑顔を向け見渡した。
質問がないようなので手を叩き解散と告げ肩の力を抜き椅子に座る。
席を立つ長達に手を振りながら見送り扉が閉まるのを確認して口を開いた。
「新たな交易路として可能だと思うが海が問題だな。天候云々より海に住む魔族はいるのか?」
「それはほっといて良い、セイレーンを代表する海魔族は近付かなければ温厚だ。それより問題はお前を敵視する国に動きがあったぞ。」
カイネの言葉を引き継ぐようにノイルも頷く。
「妾の情報網にも引っかかったわ。
クラン公国、スラグ王国の2つが兵の鍛錬に入ったようよ。両方を相手取るのは厳しいのではないかえ?」
「だよな、どうする?先に仕掛けるか?」
2人の視線がアンリに向けられ返答を待つ沈黙が流れた。
アンリは現状の戦力と資料から相手の戦力を計算しつつ己の策を脳内で展開させ結論を導きだした。
「クラン公国はほっといて良い。スラグ王国を嵌めるのに利用できるから穏便に済ませたい。
だが、前回も踏まえ俺達の平和の為にスラグの王様には消えてもらおう。」
「どちらも対応し対処出来る策がある、そういう事かえ?」
あぁ、と頷くアンリはつまらなげに頬杖をつきカイネに視線を向ける。
「後で頼みたい事がある。それさえ成るなら一日とかからずクランは兵を下げる筈だ。」
「任せろ。だがどうやってスラグの馬鹿王を殺す?あの国を攻めれる軍勢を用意するならカンラムが警戒するかも知れん。」
「ハハ、攻める軍勢は要らないよ。もっと楽して勝とうぜ。
いいか?戦いにも強さにも種類がある、順序よく嵌めてやればそれでいいのさ。」
カイネとノイルが首を傾げるのを見てアンリは説明を始めた。
カンラム城下で賑わう店の1つで溜息をつく男がいた。
机を挟み向かい合う青年にわかるようにもう1度溜息をこぼしたクラシスはコーヒーを口に運び、
「何故、俺にシーズ大森林の事を聞く?英雄様なら情報源はあるだろう?」
「そう邪険にしないで下さい。噂で聞きましたよ?クラシスさんがあの地で戦った鬼、そして率いる人間、すごく興味あるなぁ。」
「知らん・・・と言っても納得しないのだろうな。
だが止めとけ、同じ流奴として警告してやる。
あれに関わるな。あいつは敵対しただけで微かな伝手を辿り利用してくる人間だ。」
青年は笑みを止め真顔になりへぇ、と零すと前屈みになり促すように視線を合わせた。
クラシスはまた溜息をつき、
対価は貰った以上この話も仕事だからな・・・。と思い口を開く。
「鬼はいる。同格のエルフもだ。危険過ぎる相手故にギルドでは大森林に関わる依頼を受け付けていない事で危機感は伝わるな?」
「もちろんです。率直に言って魔王と変わらぬ実力で評価は間違ってませんか?」
「そう思った方が良いだろう。信じれないならスラグに行くといい。大森林へ侵攻準備をしているようだ。」
肩を震わせた青年は笑みを作り、
「なら、見物に行ってきます。機会があるなら僕も参戦したいですね。」
「そうか・・・技名を叫ぶ芸風は直したよな?まだなら多分死ぬぞ。」
「芸風じゃないです。いいですか、正義の英雄が技名を叫ばず不意打ちの如く攻撃して誰が納得しますか?
あれは必要な事で避ける相手が卑怯なのです。敵役なら受け止めるように立ち尽くすべきと主張します。」
避けるに決まってるだろ、と返し腕を組む。
「お前は強いが戦いに真剣さが足りん。あの地にいる人間はイカれてるうえに弱いが常に真剣だ。それを見てくるだけでも収穫はあるだろう。」
「イカレてる・・・?まぁ、わかりましたよ。もし、期待外れだったらギルドマスターの地位を譲って下さいね?」
勝手にしろ、と口にしたクラシスは席を立ち、会計を済まし外に出ると改めて溜息をつき項垂れた。
「まともな流奴は俺以外いないのか・・・?」
呟きは通りの喧騒にかき消され、賑わいの声が周囲を満たした。




