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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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決意

雲が覆う空、その下の森をサラは歩いている。

朝食後に暇つぶしを兼ねての食料調達に出たのだ。

めぼしい物をリュックに入れそろそろ戻ろうかと思っていると辺りに魔族が現れた。

小鬼の姿に皮で作った衣服を纏い手には棍棒や古い剣を持っている。ゴブリンだ。

それらの後ろに荷車があるのを見て略奪の帰りだと判断する。


「何か用か?」

「ギギ、オンナだ。」

「1人だゾ。囲め。」

「食料も持ってる。今日はついてるゾ。」


口々にし囲みだすがサラはそれをつまらなそうに見下す。


「お前ら私を知らないのか?止めといた方がいいぞ。」


警告をしながら人数を確認するが、


5人か・・・問題ないな。


「やるなら相手になるが後悔だけはしないでくれよ?」


正面のゴブリンに歩み寄ると左から棍棒が振るわれるがそれを掴み握り潰す。ゴブリン達に緊張が走るのを無視して右の拳を振るう。


「よっと。」


ゴブリンは手にした剣で受けたが身体事吹き飛ばされそのまま木にぶつかり動かなくなった。


「当然まだやるんだよな?」


言葉が終わる直後頭に衝撃が走った。


「!?」


樹木の上に居たゴブリンが飛び降り石斧を振り下ろしたのだ。サラは着地し成果を見ようと振り返った頭を掴む。


「もう1人居たのか・・・気づかなかったよ。」


そのまま地面に叩き付けた。

轟音が響き遠くの木々から鳥が羽ばたく音が聞こえる。


「なんデ死なない・・・?」


サラは身体を起こし当たり前のように口にする。


「何でって鬼属ならこの程度効かないだろう?」



鬼属の特性である金剛体は身体の硬質化と再生能力である事は同じ鬼属のゴブリンも理解してると思ったからだ。

顔を見合わせている姿を見ると違うのか?と思うが。


「まぁいいじゃないか…どうせここで死ぬからね。」


近くにいたゴブリンを殴り、吹き飛ばし仲間を巻き添えにして木に当たり崩れ落ちるのを確認して次に駆け寄る。


「ガァ!」


正面から剣が振るわれるが気にせず首を掴み残る1人に投げつけた。


『ギィ・・・』


辺りを見渡し動きが無いのを確認してゴブリン達が持っていた荷車を確認する、中には石鹸や本などの雑貨が入っていた。


「おぉ!!ついてるね。アンリなら何かやれるかな。」


流奴の知識に期待してリュックを背負い荷車を引き小屋に向かった。








朝食後サラが出掛けるの見送ってから塩付け肉の下拵えにかかる。肉に穴を開け塩胡椒を擦り込み冷蔵庫代わりの魔具に入れ休憩しようとした時、


「おい、魔術の時間だ。さっさとやるぞ。」


言われカイネに魔術を習う事になったのだが・・・。


「治す気あるのか?それとも向いてないのかねぇ。」

「仕方ないだろ。前の世界じゃ魔術なんて無かったんだから。」


傷口は端だけ光り癒えるが傷が深い所には全く効果がない。

それを見ていたカイネは溜息をつき、背中に周り抱きついてきた。


「うわっ、ちょっと!」

「落ち着け、魔術師は常に冷静でいろ。」


言葉が聞こえるが顔が赤くなるのを感じる。


落ち着け俺、大丈夫だ・・・冷静になれ嬉しいとか思うな、舞い上がるな俺。


気持ちを沈めていると声が聞こえる。


「おい、さっさと術式を展開しな。」


言われ慌てて魔術書を見ながら起動する。先程と違い今度はスムーズに力が流れるのがわかる。


「何で・・・?」


傷口を見ると跡形もなく治っていた。

カイネが背から離れ正面に腰掛ける。


「こうやってやるんだ。感覚は掴んだな?」

「何をしたんだ?さっきと全然違う」

「私のスキルを使って効率良く調整しただけさ。詮索はするなよ。スキルを知られる事は時に命に関わるからな。」


その言葉に黙り今の感覚を思い出す。


「アンタの魔術適正は回復系と転移系の2つだ。極めればいい所までいける筈だ。」


スキルを使いこちらの適正まで把握したのだろうと思うがそれ以上はわからない。


「分かった。信じてその2つだけ覚えるよ。」

「そうしろ、他は覚えるだけ無駄だからな。魔術は学問と同じだ、向き不向きはあるが覚え使っていけばより強力な魔術も出来るようになるさ。」

「そうか・・・やってみるよ。」

「今日からぶっ倒れる迄酷使しろ、魔力と知識を手早く高めれるからな。」


それに微妙な返事をして調理場に向かう。



燻製を作ろうと思ったが天気が悪いので諦める、大量にオイル漬けと干し肉を作る事にした。下拵えを終え伸びをしていると椅子に座りワインを飲んでいるカイネから声がくる。


「ここにずっと居たらどうだ?」

「無理だよ。サラに迷惑がかかるから・・・。」

「アイツはお前を気に入ってるぞ。頼めばいいじゃないか。」

「そうか?でも何も出来ないからな・・・」

「料理が出来るだろ。それとも鬼が怖いのか?」


合間に作った酒の伴を渡し、


「サラは怖くないよ。恩人だし一緒にいると楽しいからな。だからこそ迷惑かけたくないな。」


沈黙がありカイネが口を開く。


「保護された流奴がどういう扱いを受けるか聞いてるか?」

「農奴か傭兵になるんだろ?」

「見栄えがいい奴は貴族の館で昼は世話役、夜は伽役になるが基本はそうだ。」


一息付き、


「戦えないお前は人の国では生きれない。何処でも争いがあるからな。」

「だからサラを頼れと?」

「あぁ、詳しくは言わないがアイツは昔色々やっちまって1人になった。だからこそ共にいられる奴を求めてる。」


カイネはつまみを一口食べ頷き、


「アイツは守ってくれるさ。恐れないなら共に居られるだろう?」


帰還の方法を調べたい気持ちや身の安全など考える事が多くすぐに応える事が出来なかった。


「まぁいいさ、あくまで選択の1つだからね。どうしようと教会としてやる事はちゃんとしてやるさ。」








帰り支度をしていたカイネがこちらを向き疑念の視線を向けている。


「なんだよ?」

「いや、何やってるのかと思ってね・・・。」


手元に視線を落とすと切り落とした肉や野菜の切れ端を炒め薄く塩で味を付けた物がある。


「捨てるの勿体ないから外の魔獣にやろうかと・・・。」

おかしな物体を見る目がアンリに刺さる。


「本当に面白い奴だな。襲われたの忘れたのか?」

「だからだよ!お腹が満たされるなら襲って来ないだろう?」

「寄り付くとは思わないのか?」

「・・・・・・」


言われ考えるが作ってしまった以上今更捨てるのもなぁと思い。


「危ないかな?」

「いや、鬼の気配がする奴を襲う程馬鹿じゃないから案外大丈夫かもな。たぶん。」

「ならいいや。危なくなったら逃げるよ。後それはカイネの分だから。」


調理場に置いた包んだ箱を指差す。


「中身はそれじゃないよな?」

「違うよ。鶏の照り玉マヨ味クレープ風。自信作だ。」

「戴こう。汝に神の幸あれ。」


祈り笑顔で荷物に仕舞うのを見て共に外へ出る。柵の外にエサを置く。


「次は教会で会うのかな?色々ありがとう。」

「あぁ、悔いのない選択をしろよ。お前には馬鹿な最後は迎えて欲しくないからな。」


森へ消えていくのを見送った。







カイネは森の中を上機嫌で歩いているとサラの姿を捉えた。行く時には持ってない荷車を見て確信する。


「なんだ?略奪帰りかい?程々にしろよ。」

「ゴブリン達に襲われてね。戦利品さ。」

「ゴブリンがアンタを襲ったのか?珍しい事もあるもんだ。」

「私の事を知らなかったみたいでね。鬼属なのに弱過ぎて遊びにもならなかったよ。」

「ゴブリンは下級魔族だから相手にならないだろうさ。だがアンタを知らなかったなんておかしいね・・・。」


疑問はあるが考えてもわからない事なので思考を切り替え今後の事を話す事にした。


「アンリの傷は治ったよ。引き取り先がいるかも明日の昼には分かるだろうさ。」


意味は分かるだろう?と雰囲気で伝える。


「あぁ・・・なら昼過ぎには連れてくよ。」


声のトーンが先程より落ちてるのが分かり苦笑する。


「共に居たいならそう伝えればいいじゃないか。アイツは流されやすい性格だ、必ず頷くよ。」

「人の生活を捨てろなんて聖職者の言葉とは思えないな。」

「死の運命から助けると思えば善行だろ?アンリにはそれだけの価値はある。見捨てるならアンタは鬼だな。」

「私は鬼だよ。本人が望まないなら手助けはしない。」


風が木々を揺らし会話が止まる。それを合図にサラは小屋の方へ歩き出した。


「アンリにも言ったがアンタも悔いのない選択をしろよ。零れた物は2度と手に入らないからな。」


サラが手を挙げ応える姿を見送り村へ向かう。





「戻ったよっと。」

「おかえり、どうしたんだそれ?」


引いてる荷車を見て声をかける。


「ゴブリン達から奪ってね。昼食後で良いから見てくれないか?」

「なら先に作るか。絞めてくれるか?」


畑の前にひっくり返して置いた籠を示す。中には野鳥が数匹入っている。


こちらと鳥を交互に見てから言葉がくる。


「どうやって捕まえたんだ?」

「昨日の夜から米に酒を浸しておいたんだ。たくさん食べて飛べなくなったのを捕まえたんだ。」


サラは酔った様に暴れてる鳥を絞めてこちらに渡すと、


「変な知識持ってるね。流奴には普通なのか?」


TVでやっていたから試したと言ってもわからないだろうと思い頷いておいた。

そうかと言われ、荷車を小屋の横に置き水浴びをしに川に向かうのを見送ってから下拵えに入る。



羽を毟り肛門から腸を出して中を洗っておく、焚火を用意して産毛を火で炙って取ってから小屋に戻り調理を進める。


解体した後塩胡椒を揉み込み焼く。小麦粉と卵を混ぜた生地を薄く焼きクレープ風にしたのに肉を巻きカイネ用に作ったソースをかけて完成した料理を机に運ぶと髪を梳かしてるサラが声をかけてくる。


「相変わらず手慣れてるね。」


まあね、と伝え互いに椅子に座ると目が合った。


「帰還の方法があるようで良かったな。」


その言葉の意味が分からず首を傾げる。


「あぁ、気付いてなかったのか。カイネが言った元の世界に戻れないってのは嘘さ。」


サラのスキルを思いだし思わず立ち上がるが、


「まぁ落ち着け、アイツが言わなかったのは何か理由があるからだ。条件があるのか今は無理なのかわからないが方法は確実にある。」



椅子に座り深く考えこむ。視線の先にはこちらを見ながらクレープ風を食べてる姿があり自分の分も差し出す。


「良いのか?」


それに頷き決意を固めた。情報と身の安全がここにある事を確信し、駄目だったらカイネを頼ろうと決める。サラを見据え、


「俺をまだここに置いてくれないか?今以上にやれる事を探すし必ず役に立つから!」


こちらを見る視線と目が合うが逸らす事はしないで言葉を待つ。


「まぁカイネが情報を持ってるなら近くにいた方が良いと思うけど。」


サラはそこで言葉を切り少し思案して、


「良いのか?人としてじゃなく魔族として過ごす事になるんだが?ましてや鬼といるなんて魔族でも受け入れられないかもしれないんだが・・・」

「構わない!何も分からなくても流奴として生きてけないならサラと生きたい。」


告白みたいになったと思うが言葉は真剣だ。真贋がわかるサラなら気持ちは伝わると信じて拳を握る。

沈黙があり、サラが残った食事を飲み込むのが見え言葉がくる。


「良いよ。アンリは私の友であり家族だ。気の済むまで居ればいい。」


それを聞き頭を下げる。髪に手が触れられ、


「改めてよろしくな。」


安堵と感謝から言葉が出ずただ頷きで応える。


「明日カイネに会いに行くぞ。この事伝えなきゃな。」


この世界に来て初めての村へ少しの期待と不安を抱いて時間は過ぎて行く。

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