最悪の日 ①
ディストラント郊外に借り受けた工事用の物資保管所兼テント場に着いたカイネ、ラズ、サラは着替えの為にアンリ達のいる天幕横のテントにいた。
衣服を身につけ鏡の前で身嗜みを整えたラズが暗い口調で言葉を作る。
「アンリさん大丈夫でしょうか・・・。」
それはアンリのスキルが死を報せた事によるものだ。
日取りと場所が決まってからのアンリは悩み、伝手を駆使してルークスやナードを呼ぼうとしたがその直感が消える事は無く諦め、空元気になっていた。
「問題ない、その為に私達がいる。」
「あぁ、予想は付いているから対応は出来るはずだ。」
カイネの言葉に首を傾げたラズは先を促す。
「あいつのスキルは大したものだ。アレを殺すとなれば暗殺も数任せの侵攻もスキルと転移で失敗するだろう。
であればアンリと対峙し逃げる前に殺せるだけの技量を持つものをマークすればいい。それが今日は1人いる。」
ラズが頷き言葉を引き継ぐ。
「マイさんですか。前回来た時はカイネと殴り合いになったと聞きましたが。」
「あぁ、清貧、清貧うるさいから雑草の盛り合わせを食わせた時だな。あれは面白かった。」
カイネが遠くを見る目でしみじみと語るのをサラが遮った。
「知らんしどうでもいい。それよりアンリの事だ。マイとか言ったな、そいつを殺せば良いのか?」
「駄目だ。教皇の側近を殺せば必ず報復が来る。動きを注視しながら行動を阻害しろ。」
サラは頭を掻き腕を組むと眉を顰めた。
「面倒だ。アンリの側は私が担当するから任せる。」
ラズとカイネは溜息をこぼし了承した。
リノアとエリザは項垂れ手にしたノートを捲っていた。
内容に目を通し終え半目をアンリに向けた時、天幕が開き着替えを終えた3人が現れた。
カイネは2人が手にしたノートに気づき首を傾げ、
「なんだそれは?」
「終活ノートだ。死ぬ時も準備は万全だからこの通りに葬儀を頼む。」
リノアから受け取った3人はノートを捲る。
火葬希望とあり遺産の分与まで細かく記載され、埋葬候補地まで読みサラが破り捨てた。
「あぁー!何してんだ!?徹夜で仕上げた俺のフィナーレだぞ!!?」
「勝手に死を受け入れるな。お前が居なくなったら誰が私のメシを作る。」
紙片を拾いながらアンリは肩を竦める。
「なら土葬か・・・なんか聞いたら死霊族とかが乗り移るとゾンビになるらしいから何とかなるかもな、でも腐乱死体が作る料理って衛生的にどうなのよ?」
ラズも紙片を拾うのを手伝いながら視線を合わせ口を開く。
「アンリさんは死を前提にしてるんですね・・・。執着はないのですか?」
「あるよ。でもダメだった時迷惑かけたくないからさ。あれだ、メメント・モリって事で覚悟は出来ている。」
サラがアンリのスーツの襟を掴み持ち上げ視線を無理やり合わせると睨みつけ、
「私が嫌だと言っている。勝手に死んだら殺すぞ。」
「俺は何回死ぬんだ?まぁわかった、足掻けるだけやるか。」
下ろされたアンリは伸びをしてカイネと護衛方法の話し合いに入った。
ディストラント城下町を囲む城壁の外に2つの集団が出来ていた。
1つは視察に来た国外の役職者と護衛の兵士達で1つがディストラントの近衛兵達だ。
共に同じ方を向き緊張を顔に表していた。
視線の先には魔族が列を作り、その先頭には魔獣に乗った人間と3台の馬車があった。
互いの距離が20m程の所でアンリとサラはナイトーさんから降りガイアス達に指示をだし、馬車にいた接待役のエルフ族と夜魔族、カイネ達を集め歩き出した。
アンリは2つの集団に近づき頭を下げる。
「おはよう、いい朝だね。彼等は仕事に取り掛かるけど気にしないで説明会を始めようか。」
「「・・・・・・・・・。」」
2つの集団が一つに纏まり円を作り話し合いをし頷き合うと中年の男が頭を掻きながら1歩前に出る。
アンリを頭から足先まで見てから口を開いた。
「商人のアンリ殿ですよね?その格好は何ですか?」
アンリは全身のスーツを見てから頭に被ったいつもの安全第一ヘルムを手で擦り仲間達に向き直る。
「何かおかしいか?」
「あ~しまったな、私達は見慣れ過ぎて変だと認識してなかったがそこから説明が必要って事か。」
溜息をこぼしたカイネが大まかな話しをしてから説明会が始まった。
ふむ、と頷き手にした書類に目を通し終えた者達はアンリを見てから補佐をしているエルフと夜魔に視線を向けた。
上級に最上級の魔族をよく手懐けている・・・。力のアピールなのかそれとも・・・。
「質問は?」
アンリの声に思考を切り替え再び書類に視線を落とす。
工期、工賃、魔族の担当区割から材料費や賃金、食費など細かく記載されたそれは質問を許さない程しっかりしたものだった。
だがと思った1人が手を挙げ、
「工事とは違うのでしょうが安全についてはどうなのでしょう?率直に申して魔族と言うだけで脅威と思う人もいるのです。」
「それに関してはこの世界の人間じゃない俺がどれだけ語っても確執を取り除く事は出来ないだろうから教会に保証してもらっている。」
アンリは1歩前に出て頷く。
「ここにいる魔族は全員仕事の為に来ている。
無用な刺激や誇りを貶める事をしなければ問題ないと俺が確約して教会に認めてもらった事業だ。
それを疑うなら次は教皇様にお伺いをしてくれ。」
「・・・無用な刺激とは?」
初老の男の言葉に全員が頷き、視線をアンリに向ける。
肩を竦めたアンリは、
「言葉通りだよ。貴方達が民に対して行わない事、されたら許せない事だ。
俺達は実績を重ね信用を積み上げるつもりだ。この場で納得してもらえなくても構わないがそれを覚えていて欲しい。」
押し黙る全員を見渡したサラとラズは危険な動きを感じない事に視線を合わせ小さく頷く。
リノアとエリザも同様に注視しながら接待を続けていた。
説明会が終わり全員が配られた黄色ヘルムを戸惑いながら被り現場の視察に入り担当者のガイアスが説明をしていた時、気まずそうな顔の黒衣のシスターが現れた。
足音無く近寄りこっそり列の最後尾に加わろうとしたマイだがラズが指差し全員が振り向く。
沈黙が流れ生唾を飲み込んだマイは朗らかな笑顔に変わり川を指差し頷く。
「素晴らしい工事です。教皇様も喜ばれましょう。」
「「「・・・・・・。」」」
全員の沈黙を受け止めたマイは手を下ろし着衣を整え頭を深く下げ口を開いた。
「教会を代表して視察に来たマイです。その、寝坊してすいません。」
マイの隣に立ったカイネは下げた頭を叩きながら笑い、その後2人の怒声と殴り合う音が現場に響いた。




