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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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動向

「どーしたもんかな。」


厨房で腕を組み鉄板で薄く焼き上げた生地を眺めながらアンリはまた呟く。


「面倒だな~。やる事多すぎるんだよ・・・。」

「だ、大丈夫ですか?お手伝いとかしますから何でも言って下さい。」


不安な表情を浮かべているリルトの頭を撫で頷く。


アンリ達が作業しているのはディストラントで出そうとしているクレープの試作だ。

生クリームや果物を用意しておけば誰が作ってもある程度の物になる上、種類も豊富で経費も安く場所も問わない優秀な商品だからだ。

惣菜用の野菜や唐揚げも用意しマヨネーズにマスタードと黒胡椒を混ぜたソースも作り準備は万全だった。


「じゃあリルトに試作品を任せるよ。給仕は夜魔達に任せて良いからね。」

「はい、頑張ります。夜魔さん達もよろしくお願いします。」


深々と頭を下げるリルトに後を任せ2階に向かう事にした。






集まった代表者を見渡し空いた席に座り進行役のリノアに顔を向ける。


「どこまで決まった?」

「妖狐族、ノイルの件はアンリさんにお任せする事が全員一致で決定しました。後は・・・」

「待て!?普通に考えたらわかるだろう?無・理・だ!!OK?」


溜息をついたリノアは紙を丸め筒状にし手で叩きながら歩き出す。


「おそらくですがノイルの狙いはこの地の攻略、となれば貴方が対応するのは当然しょう。

そして知っていますよ。幻影族を使って妖狐族の集落を探しているそうですね?ならいつもの悪巧みを駆使する用意がある筈です。違いますか?」


紙筒を顔にビシッと突きつけられたアンリは仰け反り椅子から落ちた。


「痛てて・・・わかったよ、でも何で知ってるんだ?」

「怪しい動きをしていたのでロイズを酔わせてくすぐり続けたら吐きました。胃液とか情報とかそれはもう色々。」


なかなかにショッキングな絵を想像して鈍い汗を流しながら椅子に座り直す。


「たまに忘れるけど夜魔姉も魔族なんだな・・・。」

「当然です。力を行使しなかっだけ感謝するべきでしょう。

後その時の酒代は経費扱いでお願いします。」


項垂れたアンリの頭を2回紙筒で叩くと全員を示す。


「後はアンリ、貴方の懸念の話よ。工事にはディストラントの流奴も加える事になったそうね。」

「あぁ、ついでに付近の国から視察も来るそうだ。

建前は魔族との共存を考えると言ってるが本音は戦力を探ろうとしてるんだろう。」


紙を捲り工事の予算案を確認し、


「人件費は大幅に減らす事になったが儲けは充分に出るから安心してくれ。後、川に架ける橋は木造と決まったからトレ兄に物資確保を頼む。」

「石組みでもやれるがいいのかい?」


ガイアスに向き直り頷く。


「このご時世だ。侵攻された時落とせる橋の方がいいだろうと説明しといた。大雨で壊れない程度の強度なら何でもいいよ。

むしろ5~10年位を目安に壊れた方が建て直しで儲けれるかもな。」


全員が笑いガイアスに期待の眼差しを向ける。


「おおう、これはこれで腕がなるぜ。任せてくれ、経年劣化を計算すれば可能だろう。」

「頼りにしてるよ。さて、後は視察の方はエルフ族と夜魔族に接待に付いてもらうつもりだがどうだろう?」


眉を顰めたリノアが手を挙げ、


「理由を聞かせて下さい。」

「人間に近い外見で強いからだね。魔族がいる場に視察に来るなら兵士も連れてるだろう。万一の対応も出来、見え麗しい2部族なら接待を任せれる。」


頬に手を当てたラズは微笑を浮かべ口を開く。


「あの~外見はそこまで重要ですか?」

「むしろ一番重要だ。良いか?筋肉ムキムキで威圧的な人狼より美男美女の方が嬉しいだろう!?

俺は戦うならオッサンの方が気持ちが楽だ。まぁ仕方ないよね、って思えるからな。

だが美女が相手なら、違う出会いは無かったのか・・・、って葛藤して策も鈍るもんだよ。」


全員が引いた顔を向けるがアンリは気付かず5分ほど身振りを交え力説をし机を叩いた。


「つまり日常を守る為には絶対に譲れない外交策がこれなんだ!やってくれるな!?」

「やります、やりますから落ち着いて深呼吸を、顔が真っ赤ですよ。」


酸欠に気付いたアンリが倒れるように机に広がり、サラが介抱の為に寝室へ連れていくのを見送った全員は合わせるように溜息をついた。








大陸の南側、海岸に面した地に白亜の神殿があり、続く街道は整備され多くの信者が行き交っていた。

白で統一された鎧を身に付けた騎士達が警備をするそこは信仰により中立、不可侵を約束された宗教国家テオロギアだ。

巡礼者が絶えない地であり、市場が栄え富が集まる事と教皇が治める事により大陸全土に影響を持つ国でもあった。


神殿内、信者も入室を許されない最奥の間で顎に手を当て髭をさすり書面に目を通す老人がいた。

教皇マディスはふむ、とこぼし傍らにいる黒衣のシスターに持っていた紙を見せる。


「シスターカイネが仲介をしている事業が進んだようだがどう思う?」

「さぁ?カイネは最悪の冒涜者ですので私には何とも。」


マディスは目を細め首を横に振ると紙を手元に戻し口を開く。


「カイネもまた敬虔な使徒よ。何度とあった信仰の窮地を救い、教義を広める為に危険な地にも赴任しておる。そうであろう?」

「マディス様も、先代、先々代もその前の教皇様も皆、優し過ぎる。アイツは自由に遊び回る為に教義を利用しているだけの悪党と何度言えば理解してくれるのですか。」

「相変わらず仲が悪いな。仕方ない・・・隣人を愛せ、この主の教えを守らせる為にマイ、ぬしを視察に向かわせる。良いな?」


マイと呼ばれた黒衣のシスターは額に手を当て抗議の視線を飛ばし、それを気にせずマディスは笑う。


「この商人アンリが教会にとって善か悪かを見極めよ。そして可能ならカイネとも少しは仲直りせい。

儂も、後任も全ては神の元へ向かうがぬしとカイネだけは残り見送らねばならぬ・・・同じ時間を過ごせる友人は選べる程多くはないぞ。」


溜息をこぼしたマイは小さく頷き、


「直ぐに向かいます。転移魔具を使うので神官たちヘ連絡をお願いします。」


言葉を残し退出する姿を見送ったマディスは紙の裏に神官向けの文を書き終えると指を祈りの形に組み額をつけた。


「あの者に良き出会い、より良き人生、見識を広める時間をお与え下さい。」










ソドム教会内でギート、マーニャ、カイネは賭事をしていた。

店番の交代後であり、運送が本格化してからは日常になった風景だ。

カイネのカードが揃わずブタが確定した時奥の部屋から顔を出したフランが暗い声を出した。


「カイネ様・・・マイが工事の視察に来るそうです。アンリさんに会う時間と場所を作るようにと本部からの指示付きで。」

「・・・マジか?」

「はい・・・。どうしましょう?」


カイネは真面目な顔でカードを捨て札に投げ片付けを始める。

あっ、と声を出した二人からも手札を奪いしまうとカードを祭壇の上に置き項垂れた。


「お前ら今から教会の掃除だ。徹底的にやるから急いで手が空いた部下を連れてこい。

フランお前はハンネスを連れてこい、修繕を急がなければ補助金が減る。」


フランは駆け出し、訳がわからない2人も首を傾げながら扉に向かう。

見送ったカイネは祭壇に額を乗せ大きな溜息をついた。

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