思惑 ①
商談締結から1月が過ぎ城内の隅に新しい倉庫が作られていた。
レアとムーラの目の前には転移魔術で運ばれた山と積まれた木箱があり、普段では手に入らない果実や魔族の品が入っている。
「恐ろしい・・・。これは本当に恐ろしい事だ。」
「レア様、頬が緩んでおりますぞ。」
木箱の後ろから足音と共に顔を出したアンリは両手を広げ恭しく一礼をし注目を集め口を開く。
「お待たせしました。今回は初回ですので市場調査も兼ねていると判断し2割引で提供させて頂きますがどうでしょう?」
「流石だ、サービスが行き届いているな。よろしく頼む。」
レアの後ろに控えていた側近の1人が対価を支払い木箱の移動に取り掛かった。
「今後ともご贔屓に。しかしちょっと大規模な魔術式で疲れますね。契約を週一にしておいて良かった。」
「研鑽が足りぬかもな。商人といえど身体は資本よ、騎士団に体験入団してみるか?」
アンリとレアは笑い合うがムーラだけは苦笑いで今の状況を受け止めていた。
使い手が殆どいない為詳しくはわからないがありえない発動範囲。そして普通なら倒れてもおかしくない魔力消費の筈だが、と思い伺うようにアンリに視線を向け、
平然としているな・・・ありえん事よ、どうなっている。
頬を伝う冷や汗も気にせずアンリを見ていると後ろから肩を叩かれた。
振り向くと白いシスターが半目を向けて頷く。
「男色ですか?神は認めておりませんが個人的には面白いので応援しますよ。」
「違うわっ!?と言うより誰じゃ?」
フランは全体を視認出来るように1歩下がり親指を立てた。
「カイネ様の代わりに来ましたフランです。今の件、布施を頂ければ問われても鶏が鳴くまでは知りませんと言いましょう。」
「シスターフラン。こんな事に福音書の言葉を使ってはいかんぞ。」
ムーラは言葉にしつつ項垂れる。だが変な噂を流されても面倒になると思いポケットから銀貨を2枚取り出しそれを渡す。
フランは受け取り会釈と共に立ち去りレアに一礼するとアンリの手を引いて倉庫の外へ連れ出した。
レアは苦笑しながらムーラに歩み寄りアンリ達の背中を見送り頷く。
「ソドムのシスターは天真爛漫というか自由奔放というべきか・・・。」
「カイネ様は昔から規格外でしたがシスターフランも同系統ですな。」
2人は顔を見合わせると可笑しさがこみ上げ破顔した。
「何でフランはここに来たかったんだ?いつもなら教会でごろ寝してる時間だろ。」
「フフフ、よくぞ聞いてくれました。実は本屋に行きたかったのです。」
フランはアンリの手を離しターンをしながら正面に回り両手を広げた。
「読みたい本が多いので買ってください。代わりに今日1日妹キャラになりましょう。」
「対価がしょぼいな。あれか、お兄ちゃんとか呼ぶのか?」
フランはフフン、と笑い首を横に振る。
「それではありきたりなので・・・お兄様、いやアンリさんから取ってアンちゃんにしましょう。」
「チンピラ感が強いから止めてくれ。まぁ行くのは良いよ、娼館の姉さん達に頼まれてたから寄ってくか。」
「アンちゃ・・・アンリさんは娼婦とも仲いいのですか・・・その買っているのですか?」
フランは少し引いた顔で首を傾げた。
「フランは宗教上駄目だったな。だが勘違いするなよ、女遊びをする人達は見栄を張るのか重要な事をひけらかすから情報提供を受けてる。」
娼婦に喋っても何も出来ないという安心感がそうさせるんだろう、と思いフランに笑顔を向けた。
「皆いい人達だからあまり厳しい事を言わないでやってくれ。」
「なら本を買ってください。教会でゴロゴロする為に新しい娯楽を求めます。」
アンリは苦笑し歩き出したフランの背を追った。
湯気が立ち込める大浴場に肩まで湯に浸りタオルを頭に乗せたカイネは視線を壁に向けラズに聞く。
「なぁ、あの溶岩に覆われた山の絵はなんだ?」
「カイネは初めて見るんですね。アンリさん曰く赤富士という縁起物らしいですが水滴が付くと不気味ですよね。」
「黙次録のラッパ吹きでも書き足しとけ。それなら趣旨がわかるだろう。」
ラズがフフと笑いそれより、と続ける。
「聞いたところアンリさんは元の世界に帰らないと宣言したらしいですがまだ私達の目的を話さないつもりですか?」
「今はな、まだ戦力が揃ってない上覚悟も出来んだろう。なら事業に集中させておいた方がいい。」
ラズは頷き、湯で顔を洗うとタオルで拭い立ち上がる。
「ではそのように。今まで通り補佐に徹しましょう。」
「今まで以上に死なせないように気を付けてくれ。私からも手を回しておくがアンリを疎ましく思う奴は増える筈だ。下手したら直ぐに殺される。」
ラズは手を振り出口に向かい防音魔術式を手でかき消すと扉を開け、振り向く。
「人間の成長は早いですよ。カイネも制御し切れる内に覚悟を決めてくださいね。」
扉が閉まる音が大浴場に響いた。
アンリは本が並ぶ列を見渡しながら散策している。
頼まれた本は見つけた為後はフラン待ちの状況だった。
今月の特集と書かれた貼り紙の下に積まれた本を手に取り表紙を見る。
「月刊流奴・・・。特集は(ギルドマスターの賭場所の歩き方、奥様大激怒編)か。クラシスさんも色んな仕事してるな。」
「その本は流奴出身の著名人にスポットを当てたものです。是非お買い上げ下さい。」
店員の説明に会釈を返しページを捲ると各国の賭場所が写真付きで載っていた。
頭を抱えるクラシスを無視してアンリは頷く。
「写真か・・・カメラがあるなら欲しいな。」
本を戻しフランを探すと両手で抱える様に本を持ったままレジに置いた背を見つける。
フランは振り返りアンリを指差し、
「お会計はこの人がしますので・・・アンリさん出番ですよ。」
「容赦ないな。」
「今日に備えて我慢していたのです。さぁどうぞ。」
アンリが溜息をこぼし手にした本を積んで店員に支払いを済ませるとフランは店外の隅でスキルを使い収納した。
1度跳ね調子を確かめたフランは次の目的地の屋台を指差し駆け始める。
その背中にアンリは元気だな、と呟き追うために走り出した。




