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鬼と人と約束と  作者: 敦人
二章 謀略の魔王
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開拓 ③

同盟結成から一月ほど過ぎ参加を希望した魔族の数も落ち着き城塞都市は活気に満ちていた。

様々な店が建てられ、商い、研究、鍛錬などの施設が完成し他種族が交わる一大都市としての役割を得ていた。



作られた建物の1つに就労斡旋所があった。都市の中心にあり酒場と賭博場に挟まれたそこは人が並び賑わいをみせている。

家族や自分の為に、酒代の為に、賭場で遊ぶ為に、と就労に勤しむ者は皆事情違うが出来る仕事を選び受付で契約をして現場へ向かう。それらは日常になった風景であった。




窓から眼下の道を行く人々を眺めながらアンリはお茶を啜っていた。

場所は賭博場のVIP席として作られた1室で横にはラズが座り同じように外を眺めている。

2人の正面に手もみしながら機嫌を伺う鬼熊族のマルフェスが座っていた。


「前置きはその位でいいんじゃないか?俺は今、湯屋建設で忙しいから手短に頼むよ。」

「えぇ、えぇ、知っておりますがどうしてもお願いしたい事がありまして・・・。」


アンリはふむ、と湯呑を置き身構えるように座り直した。


「聞こうか、出来る事なら請け負うよ。」

「ありがとうございます。ではでは、本題に入らせて頂きます。」


こちらを、と差し出された紙には嗜好品の名前が並び、横に消費率が書かれている。


「現在取り扱っている商品ですが品数、種類共に増やしたく思いまして。

えぇ、えぇ、酒場で酔わせて賭博で巻き上げる、この為には充実した品揃えを用意したいのです。」

「本音が凄いな。とはいえ貴方が経営してる店のおかげで皆が楽しんでるのも確かだから協力しよう。

ディストラントとの交渉に追加しとくよ。」


マルフェスが深く頭を下げ、そのまま口を開いた。


「ありがとうございます。それとは別になるのですが確認したい事として奴隷を使った商売は・・・。」

「許可しない。」


アンリの断言にそうですか、と頷き頭をあげる。


「理由を聞いても宜しいですか?」

「リスクが大きいからだよ。良いか?奴隷を認めれば必ず力に任せ弱い魔族を攫う者が現れる筈だ。

強い者がある程度の道理を曲げられる魔族の現状を思えば元手がかからず利益も大きい人攫いを行う者が増えるだろう。」


指を組み、身を前に倒し続ける。


「そうなれば仕事に就く者が減り、弱い魔族からは不満と恨みを集める事になる。限界に達したなら貴方達が侵攻してきたあの谷と同じ事が起こるぞ。」


身を僅かに震わせたマルフェスは再び頭を下げ、


「わかりました。奴隷の話は無かったことにして下さい。

ですが・・・もし、もしもそのような行為をする者や雇っている所があれば・・・。」

「私に言ってください。」


湯呑を置いたラズは窓の外を眺めたまま目を細めている。


「私が処理します。表向きはソドムでも奴隷商は禁止しているので消しても文句は出ないでしょう。」

「ならそれで、ラズに任せれば販売ルートから黒幕まで芋づる式に判明するだろう。」


ラズはアンリに振り向き笑みを濃くし頷く。


「任せてください。私にかかれば聖女ですら汚れた魔女と自白させましょう。」

「ハッハッハ、頼もしいな。マルフェスさんも俺も気をつけて商売をしなくてはいつ名が上がるかわからないね。」


引き攣った顔で頷くマルフェスは画策していた裏の商売を破棄する事を決め、今の事業に全力を尽くそうと誓った。








ハルクが率いるトレント族は木々の移動を担当していた。

出来るだけ多くの木々を残す為に道を作る時邪魔な木を根から抜くと獣人族との決戦の際焼かれた地に運び、トレント族の特性の活性化を使い移植をしていた。

木々が無くなり開けた場を押し固め石畳を敷き詰め舗装していくのが道作りの仕事であり、雇われた魔族がドワーフの指揮の下行動している。

現場周囲を警護する仕事に付いていたレンは槍を正面に突き刺した体勢で呼吸を整えるように深く息を吐きそして吸う。

魔獣から槍が抜け、大きな音と共に倒れた。

槍を振り払い血を刃先から飛ばした所で援護をしてくれた者達も近づき口々に賞賛の言葉を作る。


「兄さんすげぇな。キマイラと正面から対峙した奴初めて見たぜ。」

「おいおい大物だな、これは旦那から特別手当が期待出来るんじゃねえか?」


レンは少し思案し、


「これを見せ、危険手当をあげてもらった方が今後も得じゃないか?」


おぉー、と2人が頷きレンも頷く。


「ならよ、傷付けないように丁寧に運ぼうぜ。見栄えが良ければ説得力も増すだろう?」

「よし来た。俺はハーピー達を連れてくるから動かすなよ。シートは3枚で足りるか?」


悪い笑みを浮かべたレン達は丁寧に梱包したキマイラを物資運搬に付いていたハーピー族に任せ再び警護に戻った。










城塞都市中心から西に外れた所に建設中の湯屋がある。アンリ達が同盟結成後レウの招きで霧の谷へ行った際、転移魔術を仕込んで温泉を引く事を決め造られた施設だ。

水浴びや汗を拭くだけで済ます事の多い魔族を衛生的にする事で病気の蔓延を防ぐ事が前提にある為アンリが指揮を取り備品も完備した大型の浴場施設を予定していた。


「サラ~、俺のサラはどこだ~?」


マルフェスとの話し合いを終えたアンリはいつもの黄色く染めた工事用ヘルムを被り加工した石を運ぶ列に声をかけた。

列の魔族は顔を見合わせそしてアンリの後ろを指差す。


「どうした?昼飯なら届いたぞ。」


アンリは身を遥かに超える巨石を片手に瓢箪から酒を煽って歩いて来たサラに手を振り、


「さっきいいアイデアを思いついてね、富士山書こうぜ。手先が器用で絵が上手いと評判のエルフに頼んできた。」

「フジさんって誰だ?人か?」


岩を運ぶサラに並び共に歩きながら身振りで説明をする。


「ふ~ん。アンリの国の山か、好きにしたらいいんじゃないか?」

「なら決定だ。後はガイアスとハンネスに許可貰わなきゃな。」


走り出そうとしたアンリの服を掴んだサラが、


「待て、もうすぐディストラントに向かうんだろ?私はついて行って大丈夫なのか?」

「?、湯屋はレウに任せるよ。他はマーニャとリノアが上手いことやるだろう、ラズも残るらしいから心配は無いけど。」


サラは首を横に振り、


「ここの事はそれで良いが今は私の事だ。カイネと共に行くとはいえ注目を受けるがディストラントでの商売は大丈夫か?」

「その事か、国王が変化用の魔具を用意してくれてるらしいよ。それに今回の商談は人前で話せる内容ではないから大丈夫だろう。」


ハハ、と笑い頷く。


「移動の際は馬車を使うから外からは見えないし問題があるなら転移を使うよ。商談が纏まり店を構える際もサラが来れるように私室を用意する、それでどうだ?」

「それなら良いか・・・商売の邪魔になるなら残ろうと思ってたんだが杞憂だな。」

「抜かりなく根回しをするのも商人の基本だ。それにサラ用の衣装も作ってるんだから無駄になるだろう?」


サラがはっ?と驚いた顔を作るがアンリは笑みを作り1歩離れる。


「期待しててくれ、エルフ達曰く自信作だそうだ。」


言葉を残し追求から逃げるように走る。ハハ、と笑い声が漏れ足を早めた。

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