同盟結成
ソドム教会前の店と横の荒地には人だかりが生まれていた。
店に並ぶ者達は談笑しながら商品を手に取り説明を求め、それを購入しまた会話を続けながら店から出ていく。
一方、荒地に並ぶ者達は皆焦りを帯びた表情で荷物を纏め、受付と書かれた小屋へと続いていた。
それはハーピー族の空路を使おうと決めた商人や旅人達の列でそれぞれの行き先の情勢を話していた。
ソドムの警備隊長はそれらの列を眺めながら教会へ進み扉をノックしてから開き中へと入った。
「やぁやぁ、カイネさん。えらい繁盛してるじゃないか。」
隊長は手を上げ暖炉前でワインを飲んでいるシスターに挨拶をし、カイネも手を上げ手招きと共に口を開く。
「よく来た。色々面倒をかけてるが調子はどうだ?」
「お陰様ですこぶる暇だ、アンリの旦那はいないのか?」
「アイツは森の有力者達と会合中さ、いつもの悪巧みと思ってくれ。
あぁ、そうだそうだ。アンタにプレゼントを預かってたんだ。」
カイネは祭壇に置いてある箱を示し、
「嫁さんの誕生日だろ?アンリが行商人から仕入れた物だ。末永く幸せにだとよ。」
「旦那は気が利くな、小遣い全部使い切っちまって何も用意してないから有難いね。」
カイネと2人笑い合い、箱を開けおぉ、と声を漏らす。
「カイネさん見てくれよ。水晶の魔道時計だぜ、明日から寝坊が出来なくなっちまう。」
「しっかり働けって事だな。で、街道はどうなってる?」
「日に何度か魔獣が目撃されてるが被害の報告は無し。部下達には名目上ソドム周囲の防衛を命じてあるし原因はギルドが森を荒らしたからとしている。それで良いんだろ?」
カイネは満足気に頷きクク、と笑みをこぼしワインを口に含む。
「見事な采配だな。今後も期待してる。」
「任せてくれ。旦那には感謝してるから色々肩入れさせてもらうさ。」
ナードは食前酒を口に含み視線をサラに向ける。
暇そうな表情が伺え変わらない方だ、と思い懐かしさを覚え、アンリに視線を戻す。
「アンリよ、我等竜人は誇りを重視する。お主には謙るつもりはないがそれでも良いのか?」
「いいよ。頭は下げて利益を得る。それが商人の生き方だ。だからお客が上から目線でも俺は気にしない。」
クハハ、と笑いならばと決めた。
「良い、気に入った。こちらから要求する事はない故、急ぎ道を通せ。」
「そんな簡単にいいのか?甚だ不本意だが俺はあくどい人間らしいが。」
ナードは更に笑い、目を細めそして頷く。
「長く生きると変化を求めるものよ。だが自ら変わる事は難しくなるのもまた年というものだ。
だからこそ、お主のような変わり者を介し変革を期待せねば飽きるでないか。」
「そっか。ナードさんの期待に応えれるように頑張るよ。」
一息ついたアンリはリゼを見る。ルークスとの交渉はほぼ終えており最大の懸念は土蜘蛛族の動きだからだ。
東の森中心近くに集落を構え、他魔族に大きな影響を与える覇者を納得させられなければ事業に大きな障害となり、最悪を想定して殲滅手段も講じ暗に知らしめた。
だからリゼを見て返答を待つ。
リゼは竜人が認めた事に納得を示すと同時にアンリに疑念を抱いていた。
それをこの場で解けるならとは思い視線を合わせた。
「我等土蜘蛛族が求めるものは独立と自治だ。だがそれは前提にて保証された以上同盟を結ぶ事に不満はない。」
アンリの安堵を見て、手を前に出し制止する。
「だがアンリ。貴様に信をおけるかはまた話しが違う。なにしろ、私達はお前の事を何も知らないのだ。」
「まぁそうだな。あれか?学歴とかの事なら最終学歴は自動車学校だが・・・。」
アンリは言葉を止め首を捻る。サラを見て、
「自動車学校って学歴に入るのか?」
「知らん。そもそも学校がわからんからな。食い物か?」
アンリが身振り手振りで説明しているのを見たルークスは腕を組み無表情のままヤバイ時間が始まったな、と思う。
集中力が切れたのか先程までの話から脱線している事に気づいていないのはいつもの奇行が始まる前触れでなんとかしなければと決め口を開く。
「リゼが言っているのは過去ではなく未来だろう。」
アンリは未来?と首を捻り2人に向き直る。リゼは若干引いた目で頷く。
「そうだ、サラ様と共にあり、多くの有力者に支えられた貴様を害する者などのいない筈だ。何故このような場を設け勢力を拡大しようとしているのかそれを知りたい。」
アンリは頷き、1度サラを見てまた向き直る。
「それが必要と判断したからだ。少し俺が出来る事を話そうか。」
1つ呼吸をおき、
「俺が出来る事は金を産む事と、共にある者達の暮らしを向上させる事だ。
良いか?強き者が正しいと考えるのは悪い事ではない。それは時代と文明により力の種類は違えど本質が変わらない以上必然だ。
だが俺は強弱に興味はない。当然支配もだ。それはどんな者にも適材適所がある筈だと思うからだ。」
視線を横にずらせばアキナとイマルと目が合い小さな腕を上げて応援しているのが見えた。それに微笑み、
「人材と物が増えるなら出来る事も可能性も広がるだろう。必要なら金を使い、人を使い、それらを増やし全員が友人であり1つの力とする、そんな事を考えているつもりだ。」
「それに反発する者は排除してもか?」
アンリは当然だ、と頷く。
「全ての者が幸せな世界など無いからな。俺の目が届く範囲、影響出来る範囲の中だけでいい。
そうだな、本音を言うならその枠以外の全員はどうでもいいと言っておこう。」
リゼは沈黙を作りそして頷く。
「苛烈な生き方だな、敵は多いぞ?」
「もとより商人だ、金を扱う以上何をしようと敵は増える。利用しようとする者もな。」
クク、と笑ったリゼは了解した、と頷く。
「なら敵と見なされないように取り入っておく事にしよう。
商人アンリ。お前に地下迷宮の採掘権を売る。ドワーフやホビットなら有用に使えるだろう。私達も居住区域が増えて嬉しい気兼ねない取引だろ?」
「抜け目ないな。でも買うよ。その交渉は後で時間を作ってくれ。」
リゼは頷きナードと共にルークスに視線を向けた。
「なんだ?獣人族はもう同盟に与してる、ここで話す事はない。それとも謝罪か?」
「いらんわ。お前さんが負け犬になったおかげでサラ様に会え面白い人間にも会えた。」
「私は礼を言おう。地下迷宮が侵略されるのを防いでくれたそうだな、もっともお前が負けなければそんな事にならなったが・・・まぁ新しい可能性を示してくれたのは間違いない。」
ルークスはぬぅ、と唸り吐息するとアンリに視線を戻す。
「俺は同胞が救われた以上求める事はない、引き続き頼む。」
「こちらこそよろしく。じゃあ食事にしようか。」
アンリが合図を出すと同時にリノアと夜魔族が料理と酒を持って現れた。
周囲を囲む魔族にも振る舞われ同盟結成の祝いの席が始まった。
ラズは壁上から祝いの席が始まったのを見て、フフ、と笑い足元の影に向かって言葉を作る。
「ロイズさん、帰られる魔族達に部下をつけてください。動向を調べます。」
「わかりました。好戦的な魔族を重視すれば宜しいですか?」
えぇ、と頷き影が移動していくのを見送ったラズは舌で唇を濡らし微笑む。
「アンリさんは優しいですからね・・・荒事は起こる前に消しましょう。」
残忍な笑みで呟いた言葉は森へ消えた。




