地下迷宮
アンリとサラはナイトーさんに揺られ地下迷宮まで半日の地で止まり周囲を見渡していた。
切り倒された木々、倒され壊された家や柵が戦闘を物語るそこはプラタが率いていたコロニーの跡地だ。
木々の奥から音が届き獣人族が遺体の回収と供養、慰霊碑の建造に取り掛かっていた。
「ちゃんとした花を用意するべきだったな・・・。」
アンリは右手に視線を落とし握られた花を見て呟く。
季節もあり、道中に咲いていた良さそうな花を見繕ったつもりだがこの場に報いるには遥かに足りないだろうと思う。
仕方ないか、と思い直し次に来る時は用意しとこうと決め先に進む。
神木として虫人族の信仰を集めた一際大きな大木の前にニームがいた。
足音に気付き横で慰霊碑の建造作業をしていた獣人達と共に振り返り頭を下げ、
「地下迷宮へ行かれるようですね。」
「うん、その前に献花に来た。良いかな?」
全員が道を空け2人と1頭を通す。
アンリがサラと共に花を置き膝をつき指を組む姿に倣うように全員が同じ動きを作り冥福を祈った。
1分程静寂が生まれ立ち上がったアンリはもう一度頭を下げ向き直る。
「作業中悪かった。俺達は行くけど足りない物があればいつでも言ってくれ。」
「ありがとうございます。大抵の物は調達しているのでお気になさらず。」
また森に建造の音が戻りそれを背に目的地へ向かった。
物見として使っていた小鬼族から得た鬼が近づいている報せは地下迷宮に生きる者達に激震を与え対応を迫られていた。
「子供達と男衆は奥へ急げ!」
「戦いの支度は要らん!生き残る事を考えろ!!」
慌しい声は駆け足の音と共に地下迷宮中を走り回る。
声に従い奥へ向かう者達は皆不安げな表情を浮かべていた。
最奥の空間と玉座のある間を解放しそこに集まった者達を見渡したリゼは焦っていた。
早すぎる・・・。ここに来るまでにもまだ幾つかの集落があった筈だが素通りしたのか?
となればサラ様の狙いは明らかに私達ということになる。
マズイ、と思い、どうすれば良い、と悩むが答えは生まれずその報が響いた。
「丘下にサラ様と人間が来ました!今はフィナが対応に向かっています。」
「戦闘行為はするな。対話を求める事を伝えろ!」
一礼と共に立ち去った部下に続くように歩を進めると同時に背をつつかれる感触がした。
振り返り見ると涙を浮かべた子供達の顔があり、それでも気丈に拳を握り歯を鳴らしながらも強ばった笑みを作ろうとしているのが伝わる。
それに頷き近くの子の頭に手を置き1度抱き締めると踵を返し、
「大丈夫、私が責任を果たします。」
扉を潜り閉じる音を背にもう一度頷き歩を早めた。
フィナは丘上で石造りの床に膝をつき絶望の表情を浮かべる。
先程まで2人だった筈が長への伝令を頼み、戻ってきたら森に名を馳せる実力者達が増えていたからだ。
アンリはナイトーさんを転移で帰らせ、サラ、ラズ、カイネそしてレウとロイドと共に丘を登り入口を目指していた。
足を止め地形を見渡しふむ、と頷く。
「この高さじゃ水攻めは無理か・・・。」
「対話が目的ではなかったのですか?」
ラズの声に頷きつつも交渉を失敗した時の対応も考えなきゃならないと思いもう一度周囲に視線を飛ばす。
「上手く対話に持ち込めるならそれで良いけどね。」
「私はどっちでも良いが中で彷徨うなら入りたくないな。」
ん?とサラに視線を向かると、
「デカいナメクジの魔獣がいてな・・・正直触れたくない。」
「あぁ、あれは私も嫌だ。銃をぶっ放すとネトネト、ネチャネチャした肉が飛び散って気持ち悪い。」
2人の会話にラズも頷き眉を顰めた。
「私は死霊族のゾンビ達が嫌ですね。臭いし悲鳴をあげないのでつまらないです。」
「ゾンビもいるのか・・・俺は見てみたいな。」
アンリの呟きに全員が視線を向ける。それに首を傾げ、
「ゾンビいいじゃないか。全力で死後硬直に逆らう姿は応援したくならないか?」
全員が無言で視線逸らし数秒置きラズが向き直った。
「相変わらず変な所に着目してますね。」
「そうか?デュラさんも大概だが生物としての限界を超えた姿勢には敬意を評すべきだろう。」
全員がアンリの後ろに列を作り肩を叩きながら前に出る。最後のロイドだけは肩を軋む程掴み、
「私を同列に扱わないで下さい。」
入口に辿り着いたアンリはそこに膝をついて槍を構える女性に会釈をし笑顔で挨拶の言葉を作った。
「こんにちは、いい天気だね。」
「・・・・・・。」
無言が返され怯えた目が彷徨いそして伏せられた。
アンリは振り向き仲間達を見渡し項垂れ、
「俺、人見知りだから無視されると結構堪えるんだけど。」
「頑張れ、聞こえなかった可能性がまだある。」
それに頷いたアンリは気合いを入れ向き直り腹から声を出した。
「こんにちは!聞、こ、え、ま、す、か!?」
「・・・・・・。」
アンリは瞳に涙を浮かべもう一度振り返ると入れ替わるようにサラが1歩詰め寄り屈み視線を合わせた。
「もう一度無視してみろ。その度に腕をひきぬいてやる。」
ガバッと起き上がったフィナはサラに敬礼をし高速で頷く。
サラは1歩下がり明らかに落ち込んだアンリを次こそ大丈夫だ、と励まし向き合わせる。
もじもじしたアンリはカイネに蹴りを入れられ平常モードに戻るとフィナを指差し口を開いた。
「お前が無視するから蹴られただろうがー!!?」
「あ・・・えっとごめんなさい。」
返された言葉に数秒の沈黙を置いて頷く。
「無視は良くない、心が折れるから止めるように。で、土蜘蛛族の長に用があるんだけど中に入っていい?」
フィナの独断で決めていい事ではない為どうしようかと思うが男の目に少し涙が溜まり始めこれはヤバイと確信した。
この時間を無視と認定されたら腕を失う事になり、あまつさえ会話が初めからやり直しになると理解し即座に頷く。
「どうぞ。案内しますから足元気をつけて。」
「ありがとう。暗いと怖いから明かりがあると嬉しいな。」
引き攣った笑顔のフィナが松明片手に先導し長の下へ案内された。
リゼは額に手を当てどうしようかと思う。
引き攣った笑顔に涙を浮かべたフィナは脅されたのだろうと思うが後ろの面子が異常だったからだ。
やはり殲滅に来たという事か・・・。
覚悟を決めフィナを下がらせサラの前に跪き頭を垂れる。
「サラ様どうか此度の背反を謝罪させて下さい。この身・・・」
言葉を続けようとした直後リゼは肩を掴まれそのまま直立させられると頬を掻く人間の男に向き直された。
アンリは強引だなと思うがとりあえず懐から出した手紙を差し出すと、道中フィナから聞いた長の名を思い返し、
「初めまして、アンリです。リゼさんに招待状を持ってきました。」
差し出された手紙を見てどうしたら良いのか悩み1度同族達に視線を向けると慌てたフィナが早く受け取るようにジェスチャーで伝えてきた。
疑問を感じ振り向くと指を鳴らすサラとぷるぷる震えるアンリが視界に入り、非常に危険な気がして会釈と共に即座に受け取る事にした。
「良かった、ここでも無視されたら泣いてしまう所だったよ。」
アンリは1度うん、と頷き目尻を拭うと改めてリゼに向き直り頭を下げる。
「今度森の最有力者を集め会合をする。貴女にも参加して頂きたいのだがどうだろう?」
「殲滅に来たのでは無いのか・・・?」
アンリは違うよ、と先に置き言葉を続ける。
「当初はその予定だったけどルークスさんが反対したから取り止めになった。
そういう訳で後ろの皆は護衛だから気にしないでくれ、なにしろ地下迷宮はかなりのデンジャラスゾーンと聞いてたからな。
まぁ、俺の事は臆病な人間だと思ってくれれば良いよ。」
リゼは安堵から一息をつき、そして手紙を開封した。
蝋止めを剥がし文面に目を通し、もう一度初めから読み直し頷く。
「開催日時は1週間後とあるが移動を考えるならもう少し伸ばしてもらう事は出来ないか?参加するにしても部族会議の時間が・・・。」
「なら当日転移魔術で迎えに来るよ。それならどうだろう?」
あの処刑魔術を使えるのか?と思うがそれを追求しても時間を無駄にするだけだと思い直し頷く。
「その場がこの身、我等の罪を清算出来る場だと考えて良いのか?」
「罪?貴女の判断をそう捉える必要は無いだろう。
ただお互い協力しあい手を取り合って共存出来ないか、そんな事を話す場と思ってくれ。」
なるほど、と頷いたリゼは同時に、共存出来なければ殲滅対象は変わらないのだろうと理解した。
非公式なこの場で我等に対しての譲歩を暗に知らしめた以上厳しい場になるだろうと思うが全てを覚悟し口を開く。
「了承した。当日は丘下にて待機する故迎えの者を頼む。」
「こちらも了解した。じゃあ帰るから身体に気を付けて過ごしてくれ。」
アンリはその場に転移魔術式を描き全員が式内にいる事を確認し起動させた。
リゼはそれを見送ると、緊張から膝の力が抜けその場に尻餅を着くが部下達に警戒態勢解除と急ぎ有識者を集めるように伝え深く項垂れた。
部下達に支えられながら立ち上がり1度振り向くとフィナに今の魔術式を消すように伝え歩き出す。
時間は無く、考えねばならない事は多いと理解し会議の場へ向かった。




