開拓 ②
城塞都市内部は活気に満ちていた。
戦いが終わり獣人族との同盟を結べた事から復興と事業へそれぞれが動きを作っていた。
生産系の担当になったギートは知識ある者を引き連れ酪農スペースの確保と木々の伐採、土壌改良を始め、冬明けには酪農、農業体制を整えようとしている。
商品開発はアンリとガイアスが担当し、それらの量産は夜魔族、エルフ族を中心に狩りや採取の合間、手の空いた者達が行い、急速に生産体制が整いつつあった。
運搬を担当しているロイド、ハルクが獣人族をそれぞれ班分けし警備も兼ねて見回りをしていた。
泉前の広場ではアンリとルークスが鉄板を運び焼き場を作りながら談笑をしていた。
「ルークスさんはここに残っていて良いのか?奥さんと子供がいるんだろ、帰ってこないから離婚したとかなったら笑うぞ。」
「嫌な事言わないでくれ。地下迷宮攻略を手伝ったら1度戻るつもりでいるから気にしないでいい。」
そっかと呟き四隅に置いた石の上に鉄板を乗せ位置を確かめると1つ頷く。
「ならその前に頼みたい事がある。獣人族の中で狩りが得意な奴を貸して欲しい。」
ん?と木材を鉄板の下に置いていたルークスが視線を向ける。
「街道に魔獣をけしかけたい。」
「・・・理解出来ないな。何故そんな事を?」
「馬の値を暴落させる為に決まってるだろう。」
ルークスが声に振り向くと肉を積んだ皿を運ぶカイネがいた。あくどい笑みを浮かべたシスターは屈むようにルークスと視線の高さを同じにして続ける。
「次いでに往来に困った哀れな子羊共にハーピーを使った運輸の素晴らしさを教えるためさ。あぁ、金が増えるぞ。」
「まぁ、そういう事だ。突然参入しても利用客の確保が手間だからな。ここは不幸な出来事を起こして無理やり集客しとこうかと思っている。
何しろ早い、楽しい、話のネタになる。一月も魔獣往来キャンペーンをすれば安全性と利便性は知れ渡るんじゃないかな。」
カイネも頷き鉄板前に座ると木材にリボルバーを炎に合わせた銃口を向け撃ち込み満足気に笑みを深くした。
「土蜘蛛族と竜人族攻略を終える頃には往来の主役を奪われた馬はお手頃価格になっているだろうよ。その為に協力してくれるな?」
「あぁ、わかった。やるから銃をしまってくれ。」
はぁ、とため息をついたルークスは誰に任せるかで悩むが族長達が揃ったので昼食を兼ねた報告会が始まった。
報告を受けそれぞれが情報交換を交わす中ラズはルークスが伝えた妖狐族の女に興味を抱いていた。
「記憶を奪う妖狐族なら心当たりがあります。その方は九尾でしたか?」
「知ってるのか!?」
ラズはカイネに視線を向け頷きを見て確証を得る。
「今は人の領域ですが昔、南側で勢力を伸ばしていた魔王です。殺したつもりでしたが・・・流石はノイルさん。しぶといですね。」
「あの馬鹿狐が生きてたとはな・・・。暗躍させとくと面倒な奴だ。」
2人は過去の記憶を手繰り顔を顰めた。
興味ないアンリとサラは顔を見合わせ首を捻ると焼けた肉を口に運ぶ。
「居場所がわからないならほっとこう。探すのも手間だし用があるなら向こうから来るだろ。
それよりサラもギートの所手伝ってやれよ。大木の根が取れないらしいからちゃちゃっと片付けてくれ。」
はいよ。と返事をしたがサラはギートとアキナ、イマルには視線を向け肩を竦める。
「お前ら非力すぎだろう。今日中に全部引き抜くから印付けとけ。材木運搬要員も用意しとけよ。」
ロイドとハルクがじゃんけんをし負けたハルク頷く。
「よーし、これで解決。後は・・・。」
アンリは言葉を止め当面の問題を考えた。
空輸は荷物を割増料金にしなければディストラントとの交渉に影響が出る為後で計算し直そう。
竜人族と土蜘蛛族攻略の際、気掛かりになる事として筆頭は訪れる他魔族の対応か・・・。
視線が集まっている事を確認し頷く。
「今週中には俺とサラは地下迷宮向かうつもりだが不在の際、魔族が来たら誰が対応する?」
サラを除く全員が視線を逸らし目を合わせてくれなくなり、長い無言の後カイネが箸を持った手を挙げる。
「アンリ、夜は布団で眠りたいだろう?転移で帰ってこい。それで解決だ。」
全員が拍手をして賛同を示し、カイネも両手を挙げそれに応えアンリに勝ち誇った笑みを向けた。
「これが神の威光というものだ。」
「最悪だなお前ら・・・。」
カイネはやれやれと肩を竦めワインを一口含み頷く。
「神の働き同様1人で行うべき事と思って諦めろ。」
アンリが何か言おうと全身を使って葛藤を表現していると1人が手を挙げ注目を集めた。
アンリも視線を向け、確かサラを負かしたレンと名乗るウェアジャガー族の長だったなと思い勢いよく立ち上がる。
「どうした?もしかして交渉役やりたくなったのか!?よし譲ろう!!」
「嫌です。そんな事より土蜘蛛族をどうやって攻略するか教えて下さい。」
崩れ落ちたアンリは鉄板に手を触れ転がるように離脱していたので言葉は全員に向けてのものだった。
ルークスが頬を掻き空を眺めながらボソリと返事をした。
「燃やすそうだ・・・。後はアンリさんに聞いてくれ。」
レンはルークスに頭を下げ回復術式を手にかけているアンリを見た。数秒視線が合いアンリが頷く。
「地下迷宮って事だからな。入口を1週間位焼きながら煙を送ってやれば一酸化炭素中毒で死ぬだろう。これなら誰でも出来る土蜘蛛族退治と思うんだが。」
おぉーと拍手をするイマルとアキナに手を振り呆然としているレンを見て首を傾げる。
「剣と魔術で戦いたかったのかもしれないが仲間を危険に晒す可能性があるから却下だ。
そして俺は文明人だから相手のホームで戦う程愚かでも暇でもない。」
「人の家に放火する文明ってあるんですか?」
ラズの呟きに全員が俯く。アンリはふむ、と頷きしばし沈黙を作り手を叩いた。
「なら、川の水を地下迷宮に繋げて水没させるか?」
「「「どっちも文明的じゃねぇよ!!!」」」
全員からの指摘を両手を前にだし落ち着くようにジェスチャーで伝えると笑顔で親指を立て、
「前案なら終わった後にハーピーの特性を使って空気の入れ替えをすれば溜め込んでる宝も回収出来る最善策と自負しているつもりだ。」
カイネは拍手で肯定するがルークスは首を横に振る。
「交渉の機会は与えないのか?俺が原因だから負い目がある。」
「決裂したらこの策は使えなくなる。それは被害が増えるから困るな。」
歯噛みするように俯くルークスはそれでも、と思うが代案が浮かばないでいた。
元々考えて行動する方ではないが、もう1度それでもと、思い頭を下げ懇願の言葉を作る。
「全ての責任を取ると言った。和平交渉をしたのは俺ではないが結んだ以上同胞だ。頼む、チャンスをくれ・・・。」
アンリは真面目だなと思い妥協案を考える事にした。
ルークスの立場は獣人族の頂点であり無下にすれば信頼は得られないと思ったからだ。
「交渉の場には俺も行く。決裂なら転移で離脱、その後は好きにさせてもらうが構わないか?」
「あぁ、それで良い。迷惑ばかり掛けてすまない。」
食後の片付けを始めた頃上空から風を切る音が鳴り2つの人影がアンリとサラの前に着地した。
舞い降りたレウと補佐役に任命されたシルトは頭を下げ跪くと指輪から丸め蝋で封をした紙と進物を取り出し掲げ言葉を作る。
「長より文を預かってきました。アンリさん、お時間作って貰えますか?」




