幕間 ~特使~
快晴の空、陽が森を照らし始めた頃ある部屋から慌ただしく音が作られていた。
部屋の中で荷物を纏め整頓しながら鞄や指輪に納めているヴァンの横でベッドに寝そべり魔術書を読むケイトがいる。
2人は旅装束に着替え出発前にそれぞれの過ごし方で時間を潰していた。
「ねぇ、静かにしてよ。出発前にこれを読み終えなきゃならないから集中したいの。」
「す、すいません。片付け終わってなくて・・・。あ、でもアンリさんに言って貸してもらったらどうですか?」
ケイトはヴァンに視線を向けまた本に戻すとページを捲る。
「これ市場に出回る事のない閲覧制限がかかった貴重な本なのよ。入城審査で見つかったら牢屋送りになるわ。」
「なんでそんな貴重な本がここにあるんですか・・・。」
ケイトは更にページを捲りヴァンの横のベッドを顎で示す。
「カイネさんが教会を通して取り寄せたらしいけどここでは宝の持ち腐れね。ヴァンが鏡の高さ調整に使っているその本も同じ価値なんだから。」
え?、と言葉を作ったヴァンは慌てて鏡をどかし本の表紙を見る。
魔術書は本自体に魔力が込められ大抵の事では傷がつかない事は知っているがそれでもと指を這わせ確かめると安堵の息を吐いた。
「良かったぁ。・・・もしかして2階に置いてある本全部ですか?
その酔っ払った人達が枕にしてる所しか見た事ない気がするんですが・・・。」
「嫌な話よね。魔術師を志す者なら1度でいいから手に取りたいと願う宝がその扱いだもの。」
とはいえ、と続け本を閉じたケイトは伸びをし立ち上がる。
「私にとっては最高の学舎よ。許可も対価も要らず好きなだけ読んで試せる場だからね。」
言葉を残し部屋を出た。
アンリは机の上に書類や防寒具、進物とそれを納める指輪を置き椅子に座った2人に確認させる。
ディストラントへの事前交渉と魔族を連れて行く以上必要な取り決めと日程調整がケイトとヴァンの今回の任務だった。
「本来なら俺が行くべきなんだが、無理言って悪いな。」
「いえいえ、気にしないで下さい。アンリさん忙しいですから。」
ケイトも仕方なさそうに頷き渡された指輪に納めた。
「こっちの事情が片付いたら向かうからそれまで気楽に過ごしてくれ。で、これが軍資金だ。前回の戦いの特別手当も込みだから好きに使ってくれ。」
重い音と共に皮袋を机に置き押しやると2人は目を見合わせ恐る恐る手を伸ばす。
重さを確かめ袋を開けたヴァンはすぐに閉じケイトにも確認してもらう。
「・・・・・・なんですかこの大金は!盗んだんですか!?」
「ヴァンが俺をどういう風に見てるのかよくわかった。俺は悲しいよ・・・。」
アンリが袖を目元に押し当て机に突っ伏したその後頭部に手刀を下ろしたケイトも困惑を含んだ疑惑の声を飛ばした。
「ふざけないで教えなさい。これ・・・一般人の年収以上あるんだけどどうしたの?」
「ケイトは容赦ないな。大した事はない、昨日カイネとソドムの賭博場に行って大勝ちしただけだ。
最終的には怖い顔したオーナーが換金出来ませんって泣くからまだツケにしてある。」
「どんだけ勝ったのよ・・・。」
アンリは2人の引いた顔に首を傾げ、
「そんな事言われてもな・・・。俺のスキルなら負ける方がおかしいだろう。」
「うわぁ・・・クラシスさんが聞いたら悔しがりますね。
アンリさんのスキルは幸運操作系ですか?」
「違うけどカイネが怒るから教えない。そんな事よりマーニャが怒るからそろそろ出発してくれ。」
ケイトが皮袋を指輪に納め2人は外へ出ると泉前の広場ではハーピー族が2人乗りの輸送機を囲み打ち合わせをしている。
運ぶ順番と護衛のローテーション、休憩場所と野営地の確認を終えた所でケイトとヴァンは乗り込み空へ舞い上がった。
空気の冷たさを防寒具で凌ぎ2人は3日を掛けて大森林の端に運ばれる。
目的地はディストラントを度々襲撃していた事によりラズに制圧されたケンタウロス族の住居外れだ。
降下した地ではケンタウロス族が2列に整列して敬礼のまま2人を出迎え、エリザが馬を引き連れ待機していた。
「これに乗っていけとの事だ。道中気を付けろよ。」
「ありがとうございます。エリザさんもお気を付けて。」
2人は見送られすぐにディストラントへ向かう。
今から急げば夕刻には辿り着ける予定で、ここから先は魔族の助けが無くなる為急がなければならないからだ。
風を切り進む2人は道中の村や小さな街を抜け道の先に小さく城壁が見える所まで辿り着いた。
予定より早く着く事がわかり通行人の邪魔にならぬ様に速度を抑え道を進む。
「正直言うと魔族に恐怖や嫌悪感あったんですよ・・・。でもあの地で過ごしてわかったんですけど皆さん案外普通ですよね?」
「率いてる人間がおかしいから尚更そう思えるわね。」
2人は苦笑し初めの邂逅から色々あった思い出を振り返る。そして普段は言えずにいたある思いを口にした。
「アンリさん・・・善人では無いですよね。」
「そうね・・・元の世界ではどうだったか知らないけど今は悪人なのは確かよ。時と場合によっては手段を選ばないし、考えが読めないとびきり危険なタイプね。」
ヴァンは頬に感じる風に身震いを起こし襟元を締めそれでも、と口にした。
「ほっとけないです。あの人の間違いを正す人があの地には少なすぎるから。」
「本当に世話が焼けるわ。まぁ、聞き分けがいいだけ助かるけど。」
「ケイトさん毎日追いかけてますよね。アンリさんが逃げ回ってるのよく見ます。」
日課になりつつあるその光景を思い出しケイトも照れたように頬を掻き、
「日に日に逃げ足と隠れる技術が増してるのよね。前なんかハーピー達が身を寄せ合ってる中にいたわ。1人だけ男だから顔を出した時すぐわかったけど。」
「ある意味凄いですね・・・。僕には真似出来ないです。」
2人が会話をしながら進む先に城門が見え、少ないながら入城審査の列を確認した。
「さて、ここからが私達の仕事ね。手早く済ませて豪遊するわよ!」
ディストラント周辺の地図を片手に入城後の予定を話しながら列に並んだ。




