事後処理 ②
プラタは倒木に腰かけ腕を組み目の前の男、アンリを見る。
「つまり、命以外で獣人達へ求める事を言えと・・・そういう事か?」
「うん、もしやるなら獣人族を滅ぼさなきゃならなくなる。半端にやるなら報復を受けるのは次の世代・・・子供達が対象になるからな。」
アンリは頭を下げ言葉を続ける。
「原因の一端は俺だから謝罪も賠償も今後の保証もする。それ以外で求める事はあるだろうか?」
沈黙をおいたプラタは頷き立ち上がった。
「ならお前からは子供達への保証のみ受けよう。それ以外は要らん。
獣人には慰霊碑を建てさせろ。それとコロニーの返還と子供達が大人になり戻るまでの維持を求める。」
「確約するよ。でもそれだけで良いのか?」
「どのみち何をしようと晴れぬ思いだ。なら未来に目を向ける事にしなければな。
それと敬称は止めろ、率いる者がそれでは下が困惑する。」
プラタが歩き去るのを見送ったアンリはラズに視線を向け頬を掻く。
「俺、率いてたのか・・・雑務してるだけなんだかな。」
「皆さんが面倒事を押し付けた結果アンリさん無しでは機能しない集まりになったので結果的にはそう捉えていいかも知れませんね。」
ナイトーさんも肯定するように1つ吠えアンリ達は家路についた。
モドリギがある空間から鉄柵を潜りヴェイグと別れたクラシスは石造りの廊下を通り階段を上り見慣れた扉を開けベッドに飛び込むように横になる。
土産を入れた指輪を外し横に置き今日はこのまま寝ようと目を閉じた時ノックが響き返事の前に扉が開いた。
「マスター、おかえりなさいませ。それでは約束の物を頂きますね。」
フィンはそそくさと指輪を手にし扉を閉めずに逃げるように走り去っていく。
あ、と呟き追おうとしたクラシスは起き上がろうとし身体の軋みから再び倒れた。余裕のない戦闘を続けた負荷を感じ諦めて休む事にした。
泉前の広場に獣人族の各長や代理の者が並び祈るようにアンリ達が住居にしている大木に跪いていた。
中で行われる会合にルークスが代表として参加し獣人族の今後を決める事になっていたからだ。
「ほらほら、アンリちゃんしっかり符に魔力を浸透させてよ。」
「やるよ、やるから離れてくれ。でも転移魔術で本当にいいのか?」
既に会合が始まっている机を背にしたアンリは床に座り白紙の符に魔力を浸透させ転移魔術式を印しフローに渡す。
「OK~。これで私も簡易ながら転移を使えるわ。腕位入るなら色々やれるわ、やれちゃうのよ、そうなのよね?」
「知らん。で、対価で貰った魔石?はスキルを写せるんだよな。」
「そうだよ~。魔具にするなら加工しなきゃすぐ壊れちゃうから気を付けてね。でもでも、壊す方法なら魔力無しで発動出来るよ、魔力温存したい時とか助かるから忘れないでね。」
ふーん。と呟き魔石と説明を書かれたメモを宝物庫に転移させ立ち上がる。
「とりあえずはこれで取引終了だ。
俺にとって一番の収穫はフローさんの仕事が錬金術だった事だな。おかげで火薬を量産出来る。」
「敬って良いよ~。でもでも作るなら気を付けて、失敗して爆死したなんて聞いたら笑っちゃうから。」
ふへへ、と妙な声で笑いフローはモドリギの種を口に含む。
「じゃあね~。魔族のみんなも白黒シスターズもバイバ~イ。次会うときは敵じゃなきゃ良いね。良いかもね?お手柔らかにね?」
手を大きく振りハイテンションのフローが消えるのを見送りアンリは席につく。
既にだいたいの議論は尽され要点を纏めたメモを手に内容に目を通す。
夜魔族、トレント族の共用領土、虫人族の支配地域の返還。
その修繕と維持。同領土からの略奪品の返還と損失保証。
負傷者の仕事の肩代わりと城塞都市の修繕と戦備品の補充。
戦いにおける両陣営の死傷者の慰霊碑建造とその管理。
等が書かれていた。
「ルークスさん、飲めない条件があれば言ってくれ。」
「ない。全て迅速にやらせてもらう。」
言葉と決意は固く。覚悟が伝わる雰囲気が部屋を満たしている。
頭を下げた姿からもあの大軍を纏めていた王というだけの貫禄があった。
「なぁなぁ、俺もいつかルークスさんみたいな雰囲気出るのかな?こう、なんというかワイルドな男のオーラが欲しいんだけど。」
全員が無理だろ、何言ってんだコイツという目を向けてきたのでアンリは狼狽え咳払いを1つおく。
「脱線したな。何故か俺が喋るとたまにそうなるんだがこれは誰が悪いんだろうな?」
「「「お前だぁーーー!!!」」」
アンリは全員の指摘に首を横に振り弁明をしようと身振り手振りを交えて何か言おうとして諦めた。
「「「なんか言えよ!?」」」
「だってルークスさんが引いてるからこれ以上は誤解を招きそうだもん。」
「もう遅いだろ・・・。」
カイネの呟きに全員が頷き、アンリは頬を叩く事で気持ちを切り替え改めて咳払いをして話題を戻す。
「さぁ、真面目にやるぞ。
ルークスさん達が得た他の領土は好きにしてくれ。俺達が奪っても管理や維持に回す人はいないし邪魔なだけだから気兼ねなくどうぞ。
後は俺個人からのお願いだけど定期会合に獣人族の代表として参加してもらいたい。」
ルークスは先にあった話を思いだし口を開く。
「同胞達に対して同盟に与する理由にしろ。そういう事だな?」
「物わかりが早くて助かるよ。貴方達からは必要以上の賠償を求めない代わりに同盟の件を前向きに検討してくれ。
叶うなら巡り巡って互いに利益を生む予定だ。」
ルークスは思考が読めないアンリを厄介な人間と認識しつつも頷いた。
事後処理の会合が終わり残った者達で今後の話し合いが始まった。
地図を開き2つの駒を置いたアンリは魔族図鑑を開く。
「竜人族、土蜘蛛族の攻略もしくは懐柔をしてこの森を安泰させようと思ってるんだけどどうかな?他の魔族は後からついてくると予想してるんだけど・・・。」
「2部族を攻略出来るならそうなるだろう、で?土蜘蛛族はアンリの策で根絶やしにするとしても竜人族はどうする?」
カイネは頭の後ろで手を組み机に足を乗せ椅子を後ろに倒し言葉を続ける。
「竜人族は個体数こそ少ないがかなり強い。地の利も制空権も向こうが握っている以上戦えば被害は大きくなるだろうさ。」
「それはレウさんを頼って交渉するよ。互いに得を生む商談を構想しとく。
後は事業再開とディストラント向けの動きも始めなきゃな。」
話し合いは夜遅くまで続き大筋が纏まり全員が伸びをした時フランはアンリを抱えるように捕まえた。
「さぁ、カイネ様朝の発言を悔いさせる時間です。」
「良くやった、フラン。
胸に真理が宿るとはなかなか面白い見解だったな。」
思い出したようにジタバタし始めたアンリは助けを求めサラを見ると笑っているのか肩を震わせ背を向けている。
「待って!?俺は何も言ってないだろ!!?」
「諦めろ。サラに妙な戯言を教えたお前が悪い。」
カイネの手が抑えられたアンリの脇腹をくすぐり部屋に笑い声と助けを求める声が響いた。




