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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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夜戦~決着~

夜の森、火に照らされた空の下には音があった。

木々が燃え朽ちる音。風を切り飛翔する音、悲鳴と怒声が響く戦いの音。

それらを引き換えにアンリの策は進んでいた。




エリザは弓から手を離し息を付く。

場所はサラ達が戦う場から離れた森の中で視線の先には矢を幾つも射られ膝を付いた人狼がいる。

フランの符術により散開と同時に援軍を呼ぼうと駆け出した者だった。


「仲間を呼ばれては困るんだ、そこで大人しくしているなら追撃は止めてやる。」


荒く呼吸をし地を赤く染めている人狼から視線を外し周囲を警戒する為樹上に身を隠すと背後から轟音が届いた。


「白いシスターは隠密行動の意味を理解してるのか?」


溜息をこぼし音に誘われやって来るであろう者達の迎撃に入った。







クラシスとヴェイグはフランの術符から身を回し防御魔術式を展開させて余波を防ぐと同時に言葉を放った。


「「危ねぇだろうが!?」」

「おや?この程度も避けれない実力では無いでしょう。神が見ていますので積極的に働いて下さい。」


フランは形だけの祈りを2人に捧げ言葉を続ける。


「これで万一肉片になっても天の国へ行けますので御安心を、その時は狭い門から入りなさいです。お忘れ無きよう。」

「「ふざけんなぁー!!」」


返答は新たな符が宙を走る事で行われた。クラシス達は全力で走りながら攻撃圏内から逃れると肩で息を整えお互いの目を見て頷いた。


「嫌な意味で緊張する戦場があるとは知らなかった。」

「俺もだ、さっさと終わらせて苦情タイムに入ろうか。」


2人は離れた位置にいるケイト達と合流し早めに戦闘を終わらせようと行動を再開した。







「クク、獣人らしくない臆病な戦い方だな。」


カイネはレンの槍を避けながら軽口をたたく。

レンもそうだろうな、と思いそれで良いと槍を突き出す。

カイネの足止めこそ戦果であると思い攻撃を連撃に変えていく。

突きより引きを重視し距離は槍の届く範囲で円を描くように緩急を付け回る。

銃を持つ相手とは距離と場が大事な事だと言い聞かせるように頷く。

竹林があれば跳弾を避ける為銃による攻撃を牽制出来るのだかと、思った時動きを止めた。

カイネが笑みを浮かべホルダーに銃を仕舞ったからだ。


「どうした?女が誘ってんだ受けるのが男ってもんだろ?」


カイネは両手を広げ銃を使う気がない事を示し踏み込む。

レンはそれが挑発だとわかってはいたが頷いた。

舐められているとわかり、それを後悔させてやると決め身を低く屈める。

足が土を掴み、槍の穂先をカイネの心臓目掛けウェアジャガーの瞬発力をもって突き出した。

瞬間レンに激痛が走り身を横に倒す。草木を転がり視線は結果を捉えた。

カイネが身を抱くように腕を閉じ自身の両肩には対魔の洗礼を示す刻印付きのミスリルダガーが刺さっていた。

腕を動かそうとし関節を貫かれている事を理解し目を見開き驚愕した。


信じられない精妙さ・・・ありえん。


思いは眼前に立った黒衣の捉え続く言葉をこぼす。


「どれほど・・・修練をしたのですか?」


カイネはレンの顎を蹴りあげ仰向けにさせると見下ろし笑みを浮かべた。


「修練ねぇ、教会のシンボルを的に遊んでた事か?」

「・・・貴女本当に聖職者ですか?」


カイネは肩を震わせ笑うと背を向けると手を挙げ歩きだす。


「信仰はそれぞれだ。第一、真の聖職者ってのは生き方で私は仕事だよ。」









風を切り、地を砕き、執拗に距離を詰めようとする鬼を止められないでいるルークスは距離を空けるため大きく1歩を離れ右足で土を蹴り上げサラの首付近で止めた足を押すように突き出し無理矢理距離をとった。


「ガアァッ!!」


足を戻し態勢を整え振るう大剣は芯を捉えるがサラの骨を断つ事は出来ない。


やはり勝てないか・・・。

悔しさよりも納得が生まれ同時に遥か東にある故郷を思い出す。

住み慣れた深い森があり妻がいて子がいて同族達がいる。

無様に負けるなら戦士達の帰りを待つ者にも咎が及ぶだろう・・・。それは残す者達の歩む先を閉ざすことになるだろう。


俺は人狼族の気高さを強さを誇りを示してからで無ければ死ぬ訳にはいかない!


切り上げた大剣がサラに触れ止まると同時に右足で峰を蹴りあげ追撃をかける。

大剣を手放すと蹴った反動から身を回し加速した右肘にスキル[硬質化]をかけてサラの顎に打ち込んだ。

サラが頭を後ろに仰け反っているのを見て追撃をかけようと手を引こうとした時肘が掴まれている事に気付き声が届いた。


「覚悟はいいな?」


ルークスの全身に恐怖から汗が吹き出した。

歯が鳴り、震える身体を抑え掴まれた肘にかけたスキルに全力で魔力を回す。

ギリリッという音と共に激痛が走り肉が裂けルークスは反射的に身を丸くした。




サラは肘を掴んだ左手を上に掲げ地に叩き付けた。

轟音と共に地がひび割れ遠く離れた木々を揺らした。


力無く倒れた姿を尻目に背を向けた時消え入りそうな声が歩こうとした足を止めた。


「まだ・・・戦え、る。俺は死んでいない・・・。」


振り向いたサラは震える腕を支えに身体を起こそうとしているルークスに目線を合わせる為身を屈めた。


「その覚悟、決意共に見事と言おう。そしてアンリ・・・先程話した人間だ。そいつと約束した事がある。」


ルークスは身を起こし荒れる息を抑え声を聞く。


「1度決着が付いた時に人狼の長が生きてるなら見逃してくれ、だ。

理由は私がレンに負け帰る時追撃をされなかったから同じ事を返さなければ対等にはならないからだとさ。甘いだろ?」


サラは作戦の概要を書かれたメモを丸めルークスに投げると笑う。

全身にかけていたスキルを解除したルークスは咳き込みそして頷く。


「戦いを知らぬ子供の様な甘さだが、そのような者に2度も情けを掛けられたなら認めるしかないか・・・。

俺の、俺達の負けだ・・・。それでいい。」


サラは頷き市販されている回復薬を3本指輪から取り出すとルークスに投げ背を向けた。


「それで動けるようにはなるだろう。戦いを止めたら消火活動だ。まだまだ忙しいから働けよ。」


ルークスは身を震わせる。

生き延びた安堵より敵に気遣われていた事が悔しく、頬を伝うものを拭い瓶を傷に振り掛け立ち上がる。

これ以上は負い目を作れない、と思い。軋む身体を引き摺り戦場へ歩を進めた。






消火活動は迅速に始まった。

サラとルークスが共に戦いの終わりを告げ、獣人達の困惑を他所にホビットやピクシー族が水桶を手に次々現れ消火を始め、夜魔族、エルフ族、虫人族と続き火が苦手なトレント族も行動を始めた所で獣人達が武器を手放し消火を始めた。


緊張から一息を付いたルークスは隣に立つサラに跪き口を開く。


「出来るなら責任は俺1人に負わせてください。恨みも罪も命をもって償います。

だからどうか・・・同胞達に責を負わせる事だけはないように伏してお願い致します。」

「お前の覚悟は知っている、伝えてやるから交渉はアンリに言え。あれは馬鹿だが無下にはしない奴だ。」







映像を見ていた3人は拍手をしそれぞれ席を立つ。


「ノイルの夢は崩れ去ったと・・・いい気味ね。」

「ココ、聞こえとるぞ。地ならしが目的と言ったであろう?誰が勝とうと構わんわ。」


尻尾を上機嫌に揺らすノイルはテラスから飛び降り姿を消した。続くようにエミルも翼を広げ自身の領土へ飛び立っていく。

残されたフェミナもまた企みを含んだ笑みで場を後にした。

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