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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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夜戦~策謀の果て~

ルークスは長く生きている中で初めて見る現状に困惑しつつも静かに敗北を受け入れた。

鬼とシスターを相手にこの人数では勝てない事も足止めをしようと敵の本陣を攻める兵は消火と奇襲の迎撃で止められている。

更に逃げようにもこの混乱の中では再び集まる事は難しいだろうとも理解した。

鬼達の姿を見て用意周到に準備された事も伺え先の奇襲こそ囮だったか、と思う。


夜に遠目なら仲間と見間違うかも知れん毛皮を用いた擬態はこの混乱の中なら尚更効果があっただろう。


「これでは斥候を責める事は出来ん、相手が良くやったと讃えるべき事だ。」


ルークスは心境に溜息をこぼし鬼とシスターに説教を受けていた男が歩み寄ってくるのが見えた。






「クソ、俺の黒歴史がまた1つ増えた・・・。」

「安心しろ。大分前から黒歴史しか増えていない。」


カイネの言葉にアンリは首を傾げながらルークス達から10m程離れて歩を止めた。


「さて、寒いし時間もないから手早く済まそう。

貴方なら今の状況が理解出来ている筈だ。敗北を認めて降伏してくれないか?」


ルークスは憤りを表した部下達を手で制し大剣を地に突き刺す。

対話を望む相手を切り伏せるのは王のする事では無く、最悪を回避する可能性があるのもまた対話なのだろうと思い応えた。


「・・・それは出来ん、出来んのだ人の子よ。

俺達はここに至るまで多くの仲間を失い、多くの敵を殺してきた。

戦わずして拾った命では彼等に詫びる言葉がない。」

「生きる事で償える事もある。歩んだ道の間違いを認め、繰り返さない事こそ責任ある王の姿だと思うのだがどうだろう?」


ルークスはそれにも首を横に振る。


「正論だ、しかし理想論でもある。

ここで頭を下げる事は簡単だが同胞達は納得出来ず、侵攻により被害を負った者達もまた俺達を許さないだろう。

だから贖いの為にもこれは必要な事だと理解してくれ。」


ルークスは深呼吸をし僅かに震える手を抑えるように拳を握る。この言葉を言えばサラ様と戦う事になるだろうと思うが覚悟を決めて口を開いた。


「悪いな、俺を救う為にこの場を作ってくれたのだろうがそれを受け入れることは出来ん。」

「交渉決裂か・・・すまない、貴方の覚悟を見誤り余計な時間を取らせた。」


アンリは足元に転移魔術式を描き起動させた。

青く光る術式から7つの人影が現れたのを確認したアンリは魔力不足で倒れる前に口を開く。


「俺の仕事は終わったから後は頼むよ。」


クラシス達は頷き打ち合わせ通りに行動を開始した。

全員が倒れたアンリを守るように壁を作り武器を手に戦闘態勢をとり、フランは腰紐を解きアンリの側で身を屈めスカートの裾を捲りアンリを包むとスキル[収納]を使い収め一礼をした。





ルークスは増援を見て万一すら無くなった事を受け入れ1歩踏み込む。

交渉が獣人達を救うものではあれば頷く事も出来たがそれこそ起こりえない話だなと思い、地から抜いた大剣をサラに向け会釈を送った。


「今回の騒動全ての責任を、そして罪を負うルークスだ。貴女との戦いをもって決着とさせて頂きたい。」

「お前が望むなら受けてやる。王としての矜持を見せてみろ。」


互いに頷き1歩を詰める。





ギルカは後悔と自責により震えていた。

判断を誤ったのは自分だ・・・。いいようにやられ成果をもって償おうと意地になった末路がこの状況なのだ。

どこだ?どこで間違えた?戦力差は優位であり王が直接戦う状況になどなる筈が無かったのをひっくり返されたのは何故だ・・・。


更に踏み出す王に追い付く為、責任をとるのは自分だと思い、武器を手に走り出した。


王を抜かし、突き出した槍はサラに届かず止まる。視線の先には防御魔術式がありその横に笑みを浮かべるカイネがいた。


「おいおい、大人しくしとけ、遊びたいなら私が相手してやるからさ。」

「遊びではない!!」


ギルカは槍をカイネ目掛け滑らせる様に振るう。


「あぁ、遊びにもならないからな。」


カイネは言葉と同時に頭を下げダッキングの要領で距離を縮めると右手を開き指の背でギルカの目を叩いた。

そのまま右手で耳を掴み左手は肩に乗せ引きながら顎に跳び膝蹴りをぶち込むと砕けた歯と血が宙に舞う。


ギルカは揺れる頭と痛みの中まだだ、と・・・まだ倒れるわけには、と思いたたらを踏むように後退した踵が地に着いた瞬間カイネの拳が顎を撃ち抜き意識を飛ばした。

カイネは肉体強化の聖魔術を更に重ね獣人達に視線を向ける。


「次、早く来い。神が退屈だと仰っているぞ。」







ヴェイグとクラシスは剣を手に固まっていた。


「マジか、あのシスター人狼を一瞬で片付けたぞ。」

「化物じゃねえか・・・俺も素手の技術身につけようかな。」


フローはフランに向き直り首を傾げる。


「シスターフランも出来るの?やれるの?やっちゃうの?」

「いえいえ、カイネ様の様な技術は身に付けていませんので私はこう戦います。」


フランはスキルを使い手に魔術符を取り出すと攻撃系の魔術式が描かれた符を無造作に獣人達へ投じた。


爆音と共に業火と雷撃魔術が展開され獣人達は逃げるように散開した。


「フランさんも無茶苦茶ですね・・・。」

「カイネさんと共にいるならこれ位普通よ。」


ケイトとヴァンは感想を口にし散った獣人を仕留める為に距離を詰める。

ロイドはそれを見送りフランを守るように剣を右手に構えた。


「では私は防御に徹しますので攻撃はフランさんにお願いします。」

「お任せ下さい。近づく者には私が天罰を下しましょう。」


全員が物理的過ぎる天罰だなと思うが口にしないでいた。







ルークスはサラと向き合い攻撃圏内の1歩外で止まっている。

踏み出す覚悟はあるがこれが最善と信じて良いのか?と思う気持ちが足を止めていた。


「どうした?先手はくれてやるからさっさと来い。」


ルークスは頷きゆっくり右手を上げサラに大剣を突きつける。知らなければならないと思う。適切な距離を、決意の程を、そして彼我の戦力差を・・・。


「行きます。」


短く告げた言葉は身を回す様に前に倒してからだった。

敵に背を向ける事は戦いではそうある事ではない。

だが先手はくれると言ったならこの一撃は最大で無ければならないと大剣に遠心力を乗せ、足は地を咬み満月ではないが人狼の持つ膂力を加え振り抜いた。

ルークスの大剣は魔力を込めやすい作りではない、ただひたすらに頑丈である事を求め竜の骨を加工したそれはサラの特性を超え確かなダメージを与えた。




地を削り跡を付け堪えたサラは獰猛な笑みを浮かべる。


「ハハ、いいねぇ。いいじゃないか!」


受けた腕を確かめ鈍い痛みは骨にヒビが入っているのだろうと思い更に口を弓にし笑みを深くした。


「血が、肉が、滾るねぇ・・・文字通りなぁっ!!!」


必死の戦いに挑むルークスと喜々としたサラの戦いが始まった。

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