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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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夜戦~開戦~

森の中、空に月が浮かび森を黒く染める頃夜営の準備を整えつつあった獣人達は動きを止め同じ方向を向いた。

人狼の長の絶叫が森に響き鳥達が空に逃げる中、慌しくギルカが天幕に駆け込んだ。


「どうされましたか!?」


荒れた内部が見え立ち尽くす王の姿がある。ルークスはゆっくり振り返り、


「なんでもない1人にしてくれ。」

「しかし・・・。」

「良い、良いのだ同胞達よ。頼む・・・考える時間が欲しいのだ・・・。」


ルークスの言葉は消え入りそうな程小さく憔悴し切っている。ギルカはそれを理解出来ても何が起きたのかはわからないでいた。

ただ一礼をし無言で踵を返し外に出る。

見張りを増やすように指示を出し、改めて天幕に一礼をした。





ルークスは、天幕の中で明かりも付けずその場に座り込み頭を抱える。

今すぐに考えなければならない事があった。

それは現状をどうするか、とたった今思い出した着物を着た妖狐族の女の事だ。

幼き頃に遠く目にした女の姿と跪き敬意を評していた父の姿が浮かび、それがあの夜に隣にいた事も鮮明に思い出していた。

力はあれど数が足りぬと愚痴を言い、いつかは、と森の覇権を握る夢を聞かせると各獣人の攻め方、侵攻ルート、厄介な魔族達への和平交渉などの難事をこなし消えた女だ。


「クソ!!」


思い出した記憶から利用されたのはわかる。それは良い。問題なのは矢面に立つのが自分だけでは無いことだ。


「サラ様を怒らせてしまった・・・。」


呟きは暗闇に消え、震える体をそのままにどうするのかを考えなければならないでいる。

利用された事を伝えようと鬼相手に納得させられる自信はなく、兵達も納得しないだろう・・・。

だが負ければ獣人族の勢力は減衰し今の地位を捨てねば立ち行かなくなる。

勝って正当性を示すしかないと思うがそれを考えるだけで震えが増していく。


「どうすればいい・・・。」









アンリは、2階の大広間で机を挟みクラシスと互いの書類にサインをしていた。3人を1日雇う契約が書かれた紙と作戦の概要を記した紙の横に対価の金貨も6枚置かれている。


「さてと・・・やる事はやったしそろそろ仕上げに入るか?」

「準備もルートもバッチリだ。主も今がチャンスと仰っている。」


本当か?と思うが戦闘に関しては、カイネが最も経験があり考えて動くのも確かなので信じる事にした。


「ならこれを着ていこうか。」


アンリは部屋の隅に置いた箱から猪の毛皮で作ったフード付きの服を取り出す。いそいそと着替え鏡の前でターンを決めポーズを取ると冷たい視線が浴びせられた。


「な、なんだよ。」

「なんだその毛皮は?」


アンリは、カイネの言葉に溜息をこぼすとやれやれと首を横に振る。


「これはな、獣人に扮して人の国を襲おうとした時に用意させた『君も獣人セット』だ。店じゃなかなか売れないし無駄にならなくて良かったよ。」


バンッと机を叩いたクラシスは、アンリに近寄ると襟首を掴み揺さぶる。


「なんでそんな準備してんだ!?」

「苦、苦しいです。後、俺、雇い主だからやめてっ。」


構わず揺さぶられるアンリを眺めていたリノアが納得したように手を叩く。


「川に重金属汚染物を入れようとしてた時の時間稼ぎ用の準備ですね?」

「マジなキチガイか貴様っ!?大森林は人の営みにも直結してんだぞ!汚染するなっ!!」


アンリの足が地を離れる程持ち上げられる。


「もうしないから・・・してないよ、本当だよ。」


下ろされたアンリは、咳き込み立ち上がると鏡の前で毛皮を正すとクラシスに視線を合わせ親指を立てる。


「暴力駄目、絶対!お兄さんとの約束だ。」

「俺の方が年上だ!」


また揉めだした2人を無視したサラは、用意された毛皮を服の上から被る。カイネも同じように被ると鏡の前で確認をした。

一緒に置かれていた猫耳カチューシャを床に捨てるとアンリが泣き真似をし始めたので蹴りを入れて真面目モードに切り替えさせる。


「痛てて。クラシスさん達は、フラン達と一緒に指定位置でゆっくりしていてくれ。転移させた後は各自に任せるよ。」

「本当に大丈夫だろうな?引き受けた以上やるが転移ミスで死ぬのはゴメンだ。」

「俺に限ってそれは無い。前見たから知ってるだろ?」


クラシスは不安そうに頷き仲間に視線を向けた。

フローは気楽に手を振り、ヴェイグは折れた剣を握りブツブツ言ってるが戦いとなれば元気になるのは知っているから大丈夫だろうと思う。


「金は受け取った以上依頼主として認めるがお前が死んだら帰る。それで良いな?」

「もちろん。3人が契約してくれて助かったよ。正直どうだまくらかすか考えるのもめんどうだったから。」


本音漏れすぎだろ・・・と全員が思うが、そこをつっこめばまたふざけるのはわかっている為に誰も言葉をださず行動を開始した。

クラシスも部屋を出ようとした時にアンリから追加の紙を渡される。

内容は3人の移動にかかった金をおおまかに計算したもので事業再開後に目処が付いたら払うとある。


「出張費を計算し忘れてた、払える時まで貸しにしてくれ。」

「律儀だな。それも込みでの契約内容と思っていたが貰えるなら待とう。」


契約書と写しにもサインをし部屋を出た。

アンリは階段を降りる音が消えたのを確認すると振り返り写しを指輪にしまう。


「おいおい、ずいぶんあくどい笑みを浮かべてるな。何かするつもりか?」

「まぁね。その為にも伝手は作っておくに越した事はない。3人が帰った後の妨害を阻む為にも必要な契約だしな。」


カイネは言葉から先を考え理解した。


「確かに支払いが終わるまでここを吹聴する事もないか・・・。確実ではないが楔程度にはなるな。」

「それで良いさ。確実を求めると疑惑を残す。誘導程度が怪しまれない最良だろ?」


カイネは上出来だ、と頷き3人も行動を始めた。







ルークスは覚悟を決めた。

今を嘆く訳にはいかない、これを乗り切れば覇権を手中に収める事が出来ると思い立ち上がる。

何よりサラ様に無様な姿を見せる訳にはいかない、それでは勝ったとしてもあの方は納得してくれないだろう。


「ここが命の張りどころか・・・。勝って全てを獲てやる!それが人狼族の生き方だ!!!」


気合いを入れ外へ向かう。必要なのは明日からの戦略でそれを決める為にも部下達の知恵が必要だった。


天幕を1歩出た時異変に気付いた。それは臭いであり、色であり、風の動きだった。

遠く視界の先で木々が燃えていた。更に消火に走る部下達がいる。

現状から山火事か?と思うが耳に届く風音がその思考を否定する。

風が円を作るように広範囲を回りながら中心へ吹く音はハーピー族が特性を使って操作しているのだろう。その意味は火の粉を外に出さない為の動きだと理解し叫んだ。


「これは敵の策略だ!戦闘準備を取れ!!」


水を運んでいた獣人達は響く王の声に足を止めそれぞれが役割を分けて対応に動いた。

敵を探す者と消火をする者に分かれ、それぞれが隊となって行動を開始する。








ロイズは獣人の声に顔を上げた。部下を見渡し全員いる事を確認すると静かにその場を離れる。特性を使い闇に紛れ次の火をつける場所に着くと指示をだした。


「獣人達が来る前に次に行く、急げ!」


部下達は油を撒き火をつけると次へ向かい走り出した。




マーニャは空を飛び特性を使い風を操りながら旋回をする。周囲には部下達が同じように舞い上がる火の粉を目安に中心へと風を集めていた。


「火を外へ出さないように、これは私達にしか出来ない重要な仕事です!」

「「「任せて下さい!!!」」」


部下の声を頼もしく思いながら仲間達の無事と勝利を祈る。






プラタとリノアは火の反対側の森にいた。戦える部下を後ろに置き合図を待っていた。

近くには、ラズとハルクも部下を引き連れ潜伏している筈だ。


「今は夜です。夜魔と言われる所以をここに示しましょう。」


リノアの声に無言だが決意を秘めた頷きが返され、住む地を追われたあの時とは違う顔つきがありここに来て良かったと思い言葉を続ける。


「あの日の借りを返す場です。死なない事を条件に思うまま暴れなさい!」


声と同時に合図にした3つ目の火が上がり戦いが始まった。

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