城塞都市~休憩~
薄暗い室内の中仮眠を取っていたアンリは揺すられた気がして目を開けた。柑橘の香りと共に覗き込む顔がありおはよう、と口にし体を起こす。
サラは濡れている髪をタオルで拭きながら横に座り笑みを浮かべた。
「悪い失敗した。だがカイネみたいに技を使う奴がいて楽しかったよ。」
「そっか、元々奇襲を行う事自体が布石だからサラが楽しめたならそれで良いよ。」
「ハハ、次は勝ってより楽しむから期待してろ。それよりフランが飯を求めて来てるぞ。」
2人は立ち上がり扉を開け寝室を後にし階段を降りるとそこは混沌とした空間になっていてアンリは溜息をこぼす。
階段脇でクラシスに詰め寄られていたフランは祈るように指を組みクラシスを諭そうとしていた。
「カミを出せと言われても・・・神とは何処にいる、此処にいるではなく私達の心の中にいるのです。」
「そっちのカミじゃねぇよ!?書類だ!持ってるんだろう!?」
騒がしい2人の近くで折れた剣を手に落ち込んでいるヴェイグと慰めているフローがいる。
「だから鬼には勝てないって言ったのに~。」
「俺の剣・・・俺の・・・。」
サラを見ると慌てたように首を横に振った。
「勝負したんだが殴ったら剣が折れただけだ。安物かもな。」
「業物だ!どーすんだよこれ!?」
だいたいの流れは予想ついたので無視してアンリは厨房に向かう事にした。
椅子に座ったサラの隣でワインを飲んでいたカイネは助けを求めてきたフランを守るように抱き寄せクラシスに向き直る。
「フランが怯えてるだろう婦女暴行か?」
「ふ・ざ・け・ん・なー!!白黒シスター達はいつもこうなのか!?」
クラシスが叫ぶとサラがうるさそうに眉をひそめ指で机を叩くとクラシスがビクリと反応しフランも真面目な表情を作る。
「お静かに、おちゃめな行動はこの辺りにしますのでお待ち下さい。」
フランが袖に手を入れ次々と物を机に置いていく。背を向け裾を捲り更に取り出す物が服に隠せる量を越えた時フローが手を上げた。
「シスターフランそれが貴方のスキル?」
「はい、スキル[収納]です。カイネ様の移動倉庫として使っていただいています。内緒にして下さいね。」
フランが置いた物の1つに手を伸ばしていたサラが瓶を取りラベルを確認するとアンリに声をかけた。
「なぁアンリ?濃縮カレールーは店に出してたか?」
「店には出して無いけどテスト販売用に作って寝かせてるのはあるよ。香りが落ちるからスパイスを炒めて経過をみている途中だな。」
そうか、と呟いた視線はシスターズに刺さる。2人は無言で動きを止めていた。
「・・・盗んだんだな?」
「勘違いだ、ちゃんと話せば誰でも理解出来る事だ。」
サラはほう、と呟き頬杖をつきカイネを見る。カイネはフランに離れるように伝えサラに向き直ると机に取り出された聖書を開き渡した。
「ここに書いてあるように主は魚の口から金を取り出したとある。つまり動物愛護精神溢れる私達は魚ではなくアンリの貯蔵庫から商品を取り出しただけだ。」
「「それを窃盗と言うんだ!!」」
サラとクラシスの言葉に肩を竦めたカイネは続ける。
「神の使徒が行ったんだから奇跡の再現といえ。だいたい私のジョブは盗賊だ、窃盗であったとしても問題はない。」
「言えば分けるから勝手に持ってくな。帳簿が合わなくなるだろうが。」
全員の視線を受けたアンリは続ける。
「カイネは盗賊なのにシスターか。うん、らしいと言えばらしいな。」
「お前が魔術師だが商人と同様だ。ジョブは分類で仕事とは関係ないからな。」
アンリはそれもそうかと頷き全員を見渡す。
「そろそろ完成するから外に机を運んでくれ。」
ギルドの3人を除いた全員が慌しく机を片付け外に運び出す。
アンリは向き直ると血炒め煮を作り始めた。
下茹でした豚肉を炒め塩胡椒で味をつけると人参とにんにくの葉を加える。
鰹出汁が無いため川魚の骨と貝から取った出汁と醤油で味を整えた。
リノアから渡された猪の血も加え全体が黒くなるまで炒め煮して皿に移した。
手伝いをしていたリノアとリルトもシチューとタン塩を大皿に移し運び出していく。
各族長が負傷者を纏めた資料を持って集まった頃に準備が整い食事が始まった。
「・・・ムカつくが美味いな。」
クラシスはシチューを口にしアンリを見て感想をこぼす。
「勘違いしてたな、お前を馬鹿で頭のイカれた理性蒸発系魔術師と認識していた事を謝ろう。」
「俺そんな印象なの!?」
アンリの言葉に全員が視線を逸らし黙々と食事を口に運ぶ。
フローは猪の血炒め煮を箸に持ち眺めるように見渡していた。肉も野菜も赤黒く油を纏ったそれを口にするのに躊躇している。
「うーん、これ本当に大丈夫?味見したよね?」
「当たり前だ。だいたい俺のいた国のある地域では豚は鳴き声以外全て食べると言われている。リンパ腺は危険だから取り除いたからより安心してくれ。」
フローは尚も悩むがサラは戸惑う事なく口に運ぶ。飲み込み追加を皿に山盛りにするとアンリが渡した刻みにんにくを載せ口に掻き込み瓢箪の酒を口にするとアンリの肩を掴み抱き寄せた。
「ハ、ハハハ。美味い、美味いなこれは!前の猪の肺だったか?あれより酒に合う。」
アンリはされるがままに身を委ねサラの言葉を信じ全員が同じように口に運ぶ。
カイネは食べながらサラとアンリに視線を向けると睨みながら言葉を作った。
「なんだその肺の料理は?私は知らないぞ。」
「知らないのは無理ありません。小屋に居た時アンリさんが作ってくれた酒のツマミですから。」
ラズの言葉に振り向き改めてアンリに箸を向ける。
「私も食べたい!主はそれを求めている!!」
「人に箸を向けるな!それは次の戦いの後に生きてたら作るよ。」
カイネは僅かに悩むがなら良い、と頷き食事を進めた。
花畑を眺めていたエミルは映像を見て拳を握る。ギリッと音が鳴りワインを飲み干すと東の森を睨むように視線を向けた。
「落ち着きなさい。」
「血炒め煮なんて私の為の料理でしょう!?それをなんで有象無象共が食べてるのよーーー!!」
「ココ、人の血でなくても良いのかぇ?」
エミルはノイルに視線を向けると怒ったように指を差す。
「美味しければ良いの!こだわりなんてとうの昔に捨てたわ。」
「そうかえそうかえ・・・吸血鬼としてそれで良いのかの?」
エミルは答えず駄々っ子のようにバタバタ暴れていると懐から玉が落ち地に触れると砕けた。
「「「あっ・・・。」」」
3人が同じ感想を持ち周囲にルークスの記憶が広がり東へ向かう。
静寂が流れフェミナとノイルは頭を抱えエミルは頬を掻く。
「ごめん、落としちゃった・・・。」
クラシスがお土産を指輪にしまい安心したように頷いている横でフローは匂い消しの葉を噛みながら並ぶ商品を手にアンリに説明を求めていた。
「ふむふむ、これはそう食べるのね。こっちは?」
「パンに乗せるのが良いかな。油で野菜とか炒めても美味しいよ。」
ほほう、と手にした瓶を指輪にしまうと紙にメモをしそれをアンリに手渡す。
受け取ったアンリも笑顔で次の商品を勧めていく。2人が商品と知識を対価に交わしながら求める物を得ていくのを見ていたカイネとサラは次の支度を始める。
次はアンリを連れていく奇襲とあって準備はしておかなければならないというのが共通の考えだった。
「おい、万一時はアンリを連れて離脱しろよ。」
「わかってる。それよりカイネも目を離すなよ。適当な行動し始めたら手に負えん。」
2人は溜息をつき地図に視線を落とした。




