城塞都市~防衛戦②~
「また梯子が来たぞ。焼いとけ!!」
イェー、と声が上がりピクシー族が近く梯子に火炎瓶を投げ火を付けると逃げる獣人の背には矢が降り注ぎピクシーとホビット達はハイタッチをして戦果を喜んでいた。
「相手によって適切な対応をしろ!それが基本だ!」
アンリを忌々しい思いで睨むギルカは城門攻略の指揮を取っていたが力自慢の獣人達が丸太を抱え突撃するが正面と側面からの矢に阻まれて思う様に進まないでいる。
ドワーフ達が防衛重視に作った城門は外枡形風であり破るのは容易では無かった為だ。
「なんだこれは・・・こんな筈では・・・。」
「もう諦めなよ。力任せ数任せで直ぐ破られる程度の備えなら籠城なんかしない。」
アンリは飛び交う魔術や矢を器用に躱しながら壁上を進みギルカの近くで止まると手を上げ視線を集めた。
「俺は忙しいからそろそろ帰るよ。そっちも程々にしときな。」
「貴様ぁっ!?何処まで愚弄する気だ!戦いを、戦場をなんだと思ってる!!」
「欲しい物を手に入れる意味でなら商談だ。対価が金や知識でなく力と命になっただけで経済行動として捉えているつもりだ。
だからこう言おう。お前こそ商談をなめるな!
意地も立場もあるだろうがそれに固執し続けるなら相手として俺は認めない。」
アンリが背を向けると同時に内側にかけた梯子から現れたケイトとプラタはアンリの顔を見て歩を止めた。
疲れと失望を顔に浮かべたアンリは2人に任せるとだけ伝え下に降りていく。
「アンリは限界ね・・・。休ませなきゃ見境無く荒らし始めるわよ。」
「そんな策もあったな。ならば任されたと言おう。そしてケイトよ、万一の際秘策に躊躇いはないな?」
ケイトは杖を肩に預け袖を捲る。
「当然!任された以上通せないし通させない。だからプラタさんは思うまま行動していいわ。」
プラタは視界の先ナイトーさんに揺られるアンリから視線を逸らし頷く。
あの馬鹿にやれたなら私に出来ない筈がないと思いもう一度頷き手を前に翳した。
「今より私が指揮権を預かる!アンリと違い私は優しくないと思え!!」
言葉と同時に背後から矢の雨が獣人達へ降り注ぐ。それは虫人族の子供が弩を使い放ったもので鏃には毒が塗られていた。
「我が同胞よ!宝たる子供達よ!この1戦だけは憎悪を持って敵を討て!!!」
女王の檄に木々が震える程の声が上がり高まる士気につられホビット族、ピクシー族も声を上げた。
アンリはナイトーさんを撫で自宅に戻ると大きく溜息をつく。
身体が疲れているのはわかっているが休めない理由もわかっているから思考を切り替え行動を開始した。
風呂を沸かしながら水で土埃を洗い流した後、厨房でメニューを考えていると扉が開いた。
「戻ったのですね。どうでした?」
「奇襲が伝われば撤退するだろうから任せてきた。夜魔姉の方は?」
リノアは隣に来ると腕を組み顔を覗き込む。
「こちらは問題ありません。それより疲れてるなら休みなさい。抱え込むと持ちませんよ。」
「そうしたいが誰が御飯を作るんだ?変な物だすとサラとカイネが暴れるぞ。」
リノアはあぁ、と溜息混じりにこぼし頷く。
「なら手伝いますよ。何をすればいいか指示を下さい。」
「悪いな。なら今日は猪の頭を解体しようか。やった事は?」
「ある訳ないでしょう・・・。覚えますから教えて下さい。」
アンリは皮を剥いだ頭を取り出すと舌を取り出す為顎を外す。
こめかみにナイフを入れ骨を外し隙間から筋を切り手で顎を裂くように剥がすとリノアはおぉ、と声をあげた。
「やり方はわかったな?脳味噌も食えるらしいが今回は捨てるから舌と頬肉、後は骨周りの肉を取ってくれ。」
アンリが追加で取り出した頭を数えていたリノアは項垂れ作業を開始した。
アンリは横で野菜を切り下拵えをしていく。
作るものは厚切りタン塩と頬肉のシチュー、猪の血炒め煮だ。
舌の表面をこそぎ落としぶつ切りにし、酒、塩胡椒、唐辛子で下味を付けておく。
シチューは前回同様だが今回は猪なので下茹でをして臭み消しに香草を多めにしておいた。
血炒め煮用のこそぎ落とした肉を下茹でし灰汁を取っているとリノアが解体を終え僅かに迷う仕草の後に向き直り、
「貴方は戦いに忌避感は無いのですか。」
言葉には後悔が含まれている気がしたがアンリは頷く。
「前も言ったが戦うのは俺じゃない。なにより戦いの前提は経済行動だ。商人がそこから逃げる訳にはいかないだろう。」
「そう捉える人は殆どいません。なにより恐怖を感じない訳ではないでしょう?」
アンリは視線を合わせ頷く。
「そりゃ怖いよ。でも一番怖いのは俺がそれに負けて何も出来なくなる事だ。
俺は1人じゃ何もできない。だから皆にこれ以上負担をかけ無いためには何でもやる。
うん、戦いの責任を俺が受ければ皆は楽だろう?だから俺の生き方はこれでいい。」
リノアは目を伏せ言葉に詰まった。
信じて良かったと思うと同時に覚悟が足りない自分を恥じていた。
「黙るなよ夜魔姉、戦場に出した事を後悔してるなら必要ない。これが俺の人生だ。」
「いえ、自らの力で肯定します。それが私の責任ですから。」
真面目だな、と呟いたアンリは調理に戻り皆の帰りまでにやる事をこなす事にした。
獣人の3軍に同時に戦慄が走る。それぞれの伝令が叫んだ言葉が響き静寂が生まれた。
本陣が鬼の襲撃を受けている。その言葉に指揮官の命令を待たず全員が踵を返した。
「急ぎ戻るぞ!!」
「王を守れ!体制を整えろ!」
指揮官の声が響き追撃に備えながら引いていく獣人達をそれぞれが確認し歓声が響いた。
南側の城門が開き偵察を残し中に入った所で全員が地に腰を下ろした。
「死ぬかと思った・・・。」
ヴァンはアンリから渡されていた加速用術符を外し肩で息をしていた。
近くにクラシスとヴェイグも座り労うようにロイドが水を差し出している。
「人狼殆どいねぇじゃねぇか!?」
「いたら死んでるつーの!1体仕留めるのにどれだけ魔力使うと思ってんだ。」
2人は違った文句を言いながらも楽しそうに戦果を誇っている。
離れた所でギートの肉球を触るフローは地に横になり癒されていた。
「巨大肉球こそ至高と思うのよ。猫なら尚更良いよね?」
「あ、ありがとうございます、でいいのか?皆も見てるからそろそろ手を離してくれ・・・。」
プラタは追撃を止め全員を戻らせる。
被害を出す可能性が増えるなら次の行動に関わるからだ。
「良くやった!だが油断するな交代で休んでおけ!!」
ケイトも頷きつつ口を尖らせる。
「私の秘策使う時来なかった・・・。」
「あれは万一の非道策だ。使わなかった事を誇れ。」
つまらなそうなケイトを見たプラタはやれやれと首を横に振った。
エリザとマーニャは負傷した者を壁内に運びながら全員に勝鬨をあげさせた。
「引いたな・・・。次の策で仕上げとの事だかどう思う?」
「わかりませんよエリザさん。私は策謀には疎いんです。」
エリザが私もだ、と頷き互いに笑みを作る。
「なるようになるか・・・。」
「信じた以上やれる事をしましょう。文句はアンリさんに言えるだけ気が楽ですから。」
そうだなと呟き偵察に向かった。




