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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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奇襲

ルークスはそれを見た時即座に立ち上がった。身体が震え喉がひりつき恐怖を表す中、頭だけは何故か逃げなければならないと明確に理解する。

周囲に響く同胞の声と悲鳴の先には鬼がいた。剣として使われない鉄棒を振るえば肉と血が周囲に散る。


「斥候は何をしていた!?」

「王を守れ!全員で取り囲み戦場から引き離せ!」


次々と指示を出す人狼族に従う獣人達もまた震えそれでも鬼へ向かう。


「王、ここは危険ですからお引き下さい!!」


ルークスが1歩後退した時隣にいた者が盾を翳す。

硬い音と共に盾から3本の矢が生えていた。


「ラズか!?近付けさせるな!」


示された方向へ重装備の精鋭達が互いを矢から庇いながらラズが潜む木へ向かうのが見える。

ルークスはこの奇襲を成功させる為に全て仕組まれた事であり、回避すれば勝ちは確定すると思い背を向ける。


「ここで倒れる訳にはいかん。直ぐに引くぞ。」


信頼する者達の頷きを見て1歩踏み出しそして止まった。

先を確保した部下が怪訝な顔を見せる中方向を変える。


「どこへ行かれるのですか!?」

「わからん。何故かはわからんがあの道は不味いと感じた。」


ルークスは戸惑う者達を連れ別の道からその場を後にした。

残されたのはサラと向き合う豹の頭を持つ獣人の長とその部下達。

樹上でルークスを仕留めれなかった事に恥じていたラズとそれを囲む精鋭達だ。


それぞれが動きを作る音がする森の中、木に背を預けていたカイネは魔具を腰のホルダーに収めると首を捻り顎に手を当てる。


「私の存在に気付いたのか?そんなヘマをしたつもりはないが・・・。」


追うか迷うが相手が多すぎる事から奇襲の失敗を納得し思考を切り替えサラのいる方へ向かった。





ウェアジャガーの長、レンは王が場を離れた事に安堵しサラに視線を向けた。

わかるのは武器の扱いを理解していない力任せの存在ということと攻撃が通じない特性を持っている事の2つだ。

緊張から手が震え喉を鳴らし唾を飲むと部下を下がらせた。


「お初お目にかかりますサラ様。ここより先は通せませんので諦めて下さい。」


サラは一礼した獣人に視線を向け鉄棒に化した剣を肩に預け頷く。


「いい度胸だな。お前が私を止めれると思っているなら笑い話としては上々だ。」

「止めるのが役目ですから。そしてお忘れなきように、強さだけで我を通す事は出来ません。それを証明します。」


サラは獰猛な笑みでレンに向き直り挑発に乗る事にした。


「やってみろ。納得する力を見せたならここは引いてやる。」


サラは近寄りざまに剣だった棒を振るう。

轟音と共に地に刺さる棒を避けたレンは頬が裂けている事に冷や汗を浮かべた。

避けてこれか、当たれば死ぬな。


レンは薙刀の切先をサラの身体に目掛け振り上げるも鈍い音が鳴り止まる。切れない事も後退しない事もわかりきっているがそれでも愕然とした。

どうする・・・。考えろ、サラ様とて敗北を知らない訳ではない倒せる筈だ。


レンの思考など無視したサラは身体から離れた刃先を無視して追撃をかけた。

棒を振り力任せに薙いでいくがレンは冷静に避けて観察していた。

そして地に伏せる体勢から身体を起こし石突きをサラの右足の付け根を押すように突き出す。


「!?」


サラは押されるまま足を残し腰を後ろに倒す。尻餅をついた体勢で視線を前に向けると弧を描き石突きが右からくるのが見えた。


レンは渾身の一撃に2つの結果を感じる。

1つはサラの顎先に直撃した事、1つは柄が折れ武器を失った事だ。

これでいいと思い、ここで勝負を決めねばならないと行動を開始した。

折れた柄を掴み土をはね上げサラの視界を奪うと刀身を身体に突き出し力任せに大木まで押すように走る。




サラは背が大木の幹に当たった事がわかり身体が安定した事がわかった。頭を揺らされ、視界は滲むが腹にある武器を掴む分には問題ない。


「いい気になるなよ!」


刀身を掴みそのまま握り潰すと右腕を掲げるように挙げた。レンが即座に手を離した事がわかるが対応出来るほど視界が回復していない為武器を薙ぐように投げる事で牽制とするが別の者の声が漏れた事から避けられたのだろうと思う。

身体を起こそうとした腕が揺れまだ立てないなと冷静に思った時頭に衝撃がきた。




レンは投じられた薙刀を跳躍で躱すとそのまま身を回転させると踵をサラの脳天に振り下ろす。

ダメージはないのはわかっているが脳震盪を悪化させる程度の効果はある筈だ。


「拘束準備をしろ!」

「「「出来てます!」」」


声を背にレンは部下から渡されたレイピアをサラの耳に突き出した。木に縫い止めるつもりのそれは当たると同時に刀身を曲げ止まっている。


ここも駄目なのか!ソドムのシスターはどうやって倒したんだ!?

新たな思いを振り払うようにレイピアを捨て潰された薙刀を拾うと回すように弧を描き頭に振り抜く。

警戒されていたのか両腕を上げ阻まれたのが見えるが同時に部下達が指示を待たず走り出した。


鎖の両端を持った者がサラの上げた腕事大木に縛り付ける。鬼対策に何度も練習した連携は即座に3本の鎖を使い拘束を成した。


「まだだ。氷魔術もかけろ!」


指示に準備を整えていた者達が魔術式を起動しサラを大木ごと凍らせる事に成功した。

レンは土に座り部下達とサラを視界に収めると大きく息を吐いた。


「全員撤退準備をしておけ。状況次第では直ぐに動く。」








ラズは樹上を移りながら追ってくる者達を観察する。


「よく訓練してますね。装備も良くて羨ましいです。」


奇襲は得意と思っていたが狩場として糸を張り巡らす時間が無かったことが悔やまれる。


焦り過ぎました。楽をしたければ手を尽くすべきでしたね・・・。

思うが過ぎた事として今は反撃出来る場まで行く必要があった。

木々を渡り拓けた空間に出た時ラズは飛び降り振り宙で身を回し射撃する。

それらは盾に阻まれるが歩を止める事が出来たのを良しとして着地と同時に特性を使った。

赤い魔力が女の姿を創り身体を包むのを感じたラズは口端を上げると笑いを作る。


「フフ、上手く対応して下さいね?誤ると死にますよ。」


魔力が矢の形を作りそれを番え放つ。それだけだったがラズの手から離れた矢が通る草木が燃え着弾と同時に火柱が上がった。


悲鳴が響き炎に包まれた者達が転がる姿を悲しそうに見て呟く。


「あぁ、命が勿体ない・・・。」


光景を見て過去に何度か行った拷問の時を思い出した。

焼かれ剥き出しになった痛覚神経を炎が舐める激痛は素晴らしい悲鳴を響かせより長く聴き入っていたいとすら思うものだった。


「あの時は気を失わせないよう何度も矢を刺して長く楽しめましたけど・・・。」


今回は戦いであり趣味とは別にしなければと思い火柱を避けた者達から背を向けた。


「生きてる方消火をお願いしますね。ちゃんと消さないと大変な事になりますから任せましたよ。」









カイネは地面に膝を付き腹に手を当てくぐもった声をだす。

右手で地を掻くように跡を付け正面に視線を向けるとまた顔を背け咳き込んだ。


「クク、ハハハ!何してんだサラ?アハッアハハハハッ。」


レン達は突如現れ崩れ落ちた黒衣のシスターをどうすればいいのか対応に迷っていた。

無邪気に笑い氷をバンバン叩いてまた大笑いをする姿は敵意が無いように思えたからだ。


「ハハッいや~いいもの見た。アハハ、で?誰がこれやったんだ?」

「・・・私達です。サラ様を救出するならば全力で止めますが。」


カイネは手を横に振りまた笑うと別の方を示す。


「止めとけ、ラズももうすぐ来るしここは引くからお前等も帰りな。」


言葉と同時に氷がひび割れ音をたて崩れ落ちた。鎖が切れる音が続きサラが腕を伸ばし調子を確かめるように拳を握る。


「お前は笑い過ぎだ。クソ、頭ばかり叩きやがってまだ気持ち悪い・・・。」


カイネとサラを同時に相手するのは無理と判断したレンは部下に撤退の指示をだす。自身はその場に残り時間を稼ぐ為に1歩前に踏み出した時サラが手を前に出し口を開いた。


「止めだ、止め。ここはお前の勝ちでいい。私は帰る。」

「はっ?」

「そういう約束だろうが。止められた上笑い話になったんだからそれでいい。だがお前の名を知りたい所だ。」


レンは構えを解き一礼し、


「ウェアジャガー族の長レンです。」

「ん、覚えた。元気でな、次はもう少し遊べるようにしとく。」


サラはまだ笑っているカイネと背を向けると手を振り森へ入る。

1人残されたレンは大きく溜息を吐き足の震えからその場に座り込んだ。


「あの~サラさん見ませんでした?」


声に身体を震わせ顔を上げるとラズの困った視線と合う。


「聞こえてました?サラさんとカイネを探してるのですが。」


レンが震えながら示した方向を確認したラズは会釈をしそのまま走りだした。レンはそれを確認してから再び溜息をし部下達の下へ向かう事にした。

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