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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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次なる手

アンリとアキナは動く者が少なくなった谷下に視線を向けてから顔を見合わせ頷く。


「まぁこんなもんか。後ろも騒がしくなってきたしそろそろ撤退するぞ。」

「はいデス。皆撤退するから荷物持って整列してネ。」


ホビット達は撤退を伝える笛を鳴らしてからアンリが繋げた転移術式に荷物を投げるように入れると走り出した。

谷の向こうでもピクシー達が同じように撤退を始めたのが見えたのでアンリは肩で息を整えているギルカに視線を向け手を振り口を開く。


「じゃ、俺ら帰るから。あまり泥遊びすると風邪ひくぞ。」

「待て!ぶっ殺してやる!!降りてこい貴様!!」


アンリは肩を竦めホビット達と同じように走り出した。



崖が緩やかな坂に変わった所でピクシー達の荷物も転移させて集落へ向かう。


「やりましたね兄さん。いつも偉そうな獣人に攻撃出来て楽しかったですわ。」

「アキナもスッキリしたデス。いつも私達をイジメるからいい気味デスヨ。」


2人はハイタッチをしてから下からアンリを伺うように見る。そこには難しそうな表情があり首を捻った。


「兄さん、兄さんどうしたんです?戦果アリアリでしたよ?」

「もう少し減らしたかったなと思ってな。あれほどタフだと思ってなかった。

こんな事ならトンネル用意して粉塵爆破でも仕掛けておけば良かった。」


アンリは失敗したなと思い走りながら頭を掻く。火薬作りに時間を割いたせいでそこまで考えが回らなかった上に火薬も作れなかったから尚更だ。


「まぁ、修正は出来るから2人は心配するな。さっさと帰って休憩しようか。」







「フフ、数任せが策に負ける姿は見ていて楽しいな。」

「上機嫌よのう。しかしあの人間上手くやりおった。あれほど一方的にやるとはなかなか侮れん。」


フェミナとノイルは机に置いた地図に指を這わせ先を読もうと思考を広げていた。

その横で紅茶を飲みながらカイネを写す映像を見ていたエミルは首を傾げる。


「ねぇ、カイネのスキルって何?私知らないのよね。」

「知らんのう。あまり使わないから見ても確証は持てんわな。」


過去にカイネと戦った事のあるフェミナに2人の視線が向けられる。それを肩を竦め受け止め、


「教えないわそういう約束なの。ただ、そうね。使い方次第では何でも出来るかも知れないわ。」


エミルはふーんと返事をしまた映像に視線を戻した。






集落を囲む土壁は5~6m程の高さと2m程の幅で住居となる範囲を囲んでいる。その外側には10m程の幅で20cm程掘られ水が溜まっていた。

木枠に土を詰め上から押し固めた壁は急造ではあるが森の中では異彩を放っている。


集落に残っていた者達が壁上に矢盾を立て転移されてきた弩や補充の矢を置き内側では飯盒の煙が立ち上り先行部隊の帰りを待っていた。


「上手くいきましたかね?」

「アンリはどうでもいいが他は無事だと良いな。」


壁に付けられた門の上でリノアとプラタはそれぞれの部下に追加の指示を出す。大人も子供もそれぞれの動きを作る中壁内に建てられた木造りの物見櫓で瓢箪から酒を飲んでいたサラが地に降り立つ。

8m程の高さの着地を気にする事もなく門へ向かい歩き出すと開閉役のトレント族に指示を出した。


「アンリが帰ってきたから開けろ。2人も次の準備を急がせとけ。」


トレント族が滑車に繋げた縄を引き、釣り上げ式の門が開く。楔に縄を結び固定し開門状態にしてから数分後にホビット族とピクシー族が駆け込み最後にアンリが息を切らし入ると門が閉じられる。


「ふぅ、ナイトーさんを待機させとくんだった。」

「無事で良かった。フランからクラシスが着いたと連絡があったぞ。」

「良し!勝ち目が増えたな。皆は休んでいいが監視は怠るなよ。」


アンリはサラと共に通信用魔具が置いてある家に向かった。






教会の中で椅子に伸びるような姿勢のフローは積まれた本を読みながら白熱した声に顔を上げると他の者はカードに興じていた。


「パスは1回だろ!?さっき使ったじゃねぇか。」

「ふふん。神は仰っています。悪はどんな悪でも避けなさいと、負けは悪ですから神の使徒だけ何度でもパスを許されるのです。」

「「ふざけんなー!?」」


フランは肩を竦め両肘を机に乗せると指を祈るように組む。


「神の教えに背けと言うのですか?教会を通しギルドに抗議をしますよ。」

「「やめろーーー!!ゲームだろ!?大事にするんじゃねぇよ!!!」」

「神はこうも仰っています。人にしてもらいたいと思うことは何でもあなたがたも人にしなさい。つまり勝ちたければまず私に勝ちを下さい。」


2人が突っ伏すように机に倒れた時音量を最大にしといた通信用魔具から連絡を伝える音が響いた。フランが席を立ち奥の部屋に入ると3人は顔を見合わせ頷く。


「凄いシスターがいたもんね。」

「あぁ、あれが噂にならないならシスターカイネは更にイカレてるって事だ。・・・恐ろしい。」

「胃が痛くなってきた・・・。誰か薬を持ってないか?」


ヴェイグとフローが首を横に振った時扉が開きフランが戻ってきた。


「では皆様祭壇前で跪き目を閉じて祈りを捧げて下さい。その後カイネ様の下へ向かいます。」


片付けをした3人は言われた通りに祭壇前で祈りを捧げる。

フランが聖書片手に第1篇を読む間に3人のいる床が青く光りアンリが書いた転移魔術式が起動した。

身体が沈む感覚に襲われた時クラシスは慌て目を開き手を振るフランを見た。


「では、行ってらっしゃいませ。」


クラシスは何か叫ぼうとしたが転移魔術式に飲み込まれた。







青く光る魔術式の前にアンリ、サラは立っていた。腕を組むサラの前にクラシスが現れ声が森に響く。


「馬鹿かお前ーっ!?」

「ほう、いきなりの挨拶なかなかに威勢が良いがもう一度痛い目に合うか?」


え?と零し視線をサラに合わせ周囲を確認する。2人も同じように警戒しながら辺りを見合わしているのは流石と思うがまずは目の前で指を鳴らす鬼から1歩後退し手を前に出す。


「待て待て誤解だ!?・・・あれ?シスターカイネは?」

「ここには居ないよクラシスさん。思ったより少人数だな?」

「まぁ、急だったから集まらなかった・・・ってやっぱりお前の仕業かぁっ!?」


クラシスはアンリに掴みかかりゆさゆさと首を揺らす。アンリはそのまま無抵抗を示す為に両手を上げた。


「カイネの所に案内するよう言われたのにひどい仕打ち、アンリ泣いちゃう・・・。」


襟首から手が離されそのまま崩れる様に横座りになったアンリは口元を抑えながら顔を背ける。

数秒の沈黙の後にヴェイグとフローはクラシスの肩に手を乗せ首を横に振った。


「良くないわ、非常に良くない流れよ。」

「落ち着けクラシス。かつて無いほどの異空間に俺達はいる気がするがここは冷静にだ。」

「場が荒れている気がするから全員落ち着け、取り乱すのは良くない。」


3人は最後の言葉を口にしたアンリを見ると同時に叫んだ。


「「「お前のせいだよ!!!」」」


アンリは肩を竦め南を指差す。


「ハイテンションは疲れるからちょっと下げてくれ。カイネに用があるならこの先にいるから急ぎなよ。」

「・・・信用出来ん。お前程人をおちょくる奴は居ない。」

「心外だな。今も前も俺は被害者だぞ。なんならソドムの警備隊に連絡してクラシスさんを殺人未遂で送検してもらっても構わないんだが。」


クラシスは溜息をつきアンリを見据えると残念な子に言い聞かせるように説明をする。


「あれは依頼の結果でありギルドからの仕事なら個人に罪は負わせない。それが条約だ。」

「甘いな。砂糖のように甘い考えだクラシスさん。此処は人の条約が通じない魔族の世界であり俺はカイネを通じて警備隊と癒着している。つまり君を犯罪者にするくらいどうとでも出来る。」


クラシスは葛藤を体全体で表し叫びたい気持ちを深呼吸で抑えると頷く。


「信用しようすぐに向かうがこの方向で間違いないな?クソ野郎。」

「辛辣だねクラシスさん。急ぐといい、何しろ俺達は今人狼達と戦争中でね。巻き込まれたら笑う位しかしてやれない。」


その言葉と裏の意味をなんとなく察してしまったクラシスは頭を抑える。

そういう事か・・・それで連絡が来たのか。対価として協力しなければ犯罪者扱いになるかもしれんという事だな。

そこまで考え今は急がなければ不味いと気づく。


「クタバレ馬鹿野郎!覚えとけよ!?」


アンリは走り出したクラシスに手を振る。

ヴェイグは溜息を付くとサラに視線を向けた。


「鬼の姉さん戻ったら勝負してくれないか?」

「ん?構わないが殺すかもしれんぞ。」


口笛を吹きヴェイグはサラと握手をしてから約束な、と言いクラシスの後を追う。

フローも同じように走り出しながら振り返りアンリを指差し、


「貴方が面白い店の店主でしょ?戻ったらお店開いてね?約束したからね!?絶対だからね!!?」


フローは返事を待たず先を行く2人に追い付こうと走り出した。

それを見送った2人は成果に頷きハイタッチをしてから次の戦いの支度の為に東門へ向かった。

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