崖上の戦い~南側~
カイネは北側に視線を向けて笑みを浮かべ後頭部で指を組み口を開く。
「ラズが楽しんでるぞ。あの辺にいる奴は全滅だな。」
え?と首を傾げたヴァンとギートは同じように北側に視線を向けるがやはりなんの事かわからないようだ。
「気にするな。後は任せるから言われた通り適度にやれ働き過ぎは悪徳だからな。」
「1人で大丈夫ですか?」
カイネは手を挙げ更に森へ向かう。
「1人だから良いんだよ。見られたくない戦いが出来るだろう?」
「了解しました。ご武運を。」
2人が頭を下げ再び視線を戻した時にはカイネの姿は消えていた。
カイネは獣人の声の方向へ気軽に歩を進める。
歩きながらスキル[同調]を使い周囲の気配、雰囲気に合わせた。
姿は消えないが認識を狂わせる効果があるそれはカイネの技術と相まって森に溶け込んだ。
進軍する獣人は鬼熊族を主にした戦闘魔族達だ。
カイネはそれを確認して獰猛な笑みを浮かべ銃型の魔具に魔力を込める。
「さぁ、主の下へ送ってやる。」
カイネは音も無く接近する。木々と同化するように潜伏し目の前を通り抜ける部隊を観察し一際大きな身体した者が長だろうと思い、通り際に頭に魔具を向け引き金を引いた。
鬼熊族長ラッカスを狙った魔弾は偶然その前を通った別の者の脳天を吹き飛ばし周囲を赤く染めた。
カイネは舌打ちをして前に進み頭を無くした獣人の身体を押すように蹴る。
ラッカスがそれを左手で払いよけ視界を確保しようと正面を向いた右眼にカイネの左手の親指が刺さりそのまま眼窩に指をかけ薙ぐように倒した。
ラッカスは突如現れたカイネを視認した所で地に叩きつけられる。
痛みと混乱の中でいつから居た?と思うが見えていた気もする。
だが何故か気にする事が出来なかった事に気付いた時銃口が自身に向けられた事がわかった。
脈打つように痛みを伝える右眼を抑え絞り出すように言葉をつくる。
「ま、待て!?」
カイネは2発頭に魔弾を撃ち込み飛ぶように森へ後退する。今ので戦果は十分であり長を失った混乱を更に助長させる為身を隠した。
「これから起こる事を後悔するな。ただ悔い改めろ天の国が近付いているぞ。」
「シスターカイネか!?全員戦闘態勢をとれ!」
獣人達が叫び構える森に煙が立ち込める。ギート達が生木に火を付けたからだ。
長を失った混乱と相手を理解した恐怖から足並みが乱れ列を外した者が轟音と共に頭を失った。
「近くにいるぞ!!」
その一言で獣人達は目に映る違和感に攻撃を加える。それは同士討ちを招く一手でありカイネの予想通りの事だった。
怒声と混乱の中それを助長させるようにカイネは追加で1人仕留める。その直後ギートとヴァンに率いられた仲間が乱れた獣人達に突撃を仕掛けた。
「打ち合わせより早いな。だが・・・まぁいいか。」
カイネはスキルを解き別方向に移動し追撃をかける。更に1人仕留めた所で獣人の腕がカイネの胸ぐらを掴んだ。
そのまま木に押し付けるように力を込められるがカイネは袖から出したミスリルダガーを獣人の腕に刺し抉るように回す。
苦悶の声を出し離れた獣人の顎を下から掌底でかち上げ歯を閉じさせ指をずらして頬内に引っ掛け投げるように倒した。
そのまま頭に踵での踏み付けで仕留めると武器を持った獣人達が引くように1歩後ずさりをする。
「おいおい、距離を空けたら的だぞ。主が嘆く醜態を晒すな。」
カイネは魔弾をばら撒くように撃ち木々に隠れながら後退した。
煙が周囲を包み怒声と武器のぶつかる音が響く中ギートとヴァンは最初の突撃から走り抜け迂回するように元の位置へ戻っていた。
カイネも笑いながら合流すると来た方を顎で示す。
「ああなったら止まらんな。元々争いあっていた獣人同士、纏める者がいなけれりゃ楽なもんだ。」
「僕らだけでは無理ですよ。カイネさんの活躍あってこそ可能な策ですから。」
カイネは頷くギート達に手を挙げ応え集落の方向へ歩を進める。
「並大抵の賛辞は受け付けん。布施と共に最大限に敬え。」
「全部台無しになる一言ですね・・・。」
ヴァンの言葉に全員が再び頷いた。
ソドム教会の中祭壇前の空間に置かれた机と椅子に4人が座っている。
ギルドの3人とフランは鍋からカレーを皿に移し食事の支度をしていた。
「噂には聞いていたがここまでめちゃくちゃとは・・・。」
クラシスが皿を受け取り零した呟きにフランは首を傾げ残りの2人は頷く。
「こんな所で食事をするとは思わなかったわ。罰当たりじゃない?」
「俺もそう思う。大丈夫なのか?天罰は嫌なんだが・・・。」
3人の視線はフランに向けられるがフランは更に首を傾げやがて腑に落ちたように頷く。
「この料理に疑惑があるのですね?これはソドム教会御用達料理人アンリさんが作ったカレーというものです。辛いので今日のように寒い日にはもってこいです。」
「いや、そういう事じゃないんだが・・・。」
クラシスは見た事ない料理と現状、そしてフランの人格に悩むが渡されたスプーンを手に既に食べているフローは2度ほど頷き更に手を進めた。
クラシスは不安を1つ消す為にフローに尋ねる。
「大丈夫なのか?その食えるのか?」
「めちゃくちゃ美味しいよ。これどうやって作るのよ?」
ふふんと胸を張ったフランは手を前に出し3人を見渡すと口を開く。
「知りません。私が作れるのはサラダだけなので期待しないで下さい。」
3人は項垂れフランの言葉を聞き流し食事をする事にした。
「カイネ様から連絡あるまではごゆっくりどうぞ。なんなら安酒も出しましょう。」
そう言って立ち上がるフランは上機嫌に奥の部屋に入り戻ってくる。手にはラベルが剥がれかれた瓶が握られている。
「ささ、どうぞ。朝から酒とは自堕落の極み共に楽しみましょう。」
クラシスは注がれた酒を受け取り微妙な気持ちで頷く。
「まぁいいか・・・。ギルドには報告するなよ。」
「報告出来ねぇよ!!」
「シスターフランも内緒にしてね?」
フランも頷き笑顔で椅子に腰を下ろす。
時間稼ぎ出来そうで良かったです。と内心思い食事が再開された。
カイネ達は集落へ向かい進みながら森を抜ける。途中ヴァンがカイネに疑問をぶつけた。
「今の所予定通りですけどこのまま上手く行きそうですか?」
「知らん!やる事はやった。後は状況に合わせて動くだけだ。」
まぁと続き、
「相手を誘導するのも忘れるなよ。撤退させたなら勝ちだからな。」
「しかしカイネ様、包囲されたら不味くないか・・・。」
ギートの言葉に視線を向けたカイネは笑みを浮かべる。
「策はあるからそれでもいい、持久戦は相手が有利。それが餌だ。頭を使える将がいるならその道しか選ばん。」
2人は首を傾げるがカイネは構わず先に進む。
今回の戦いは相手に有利となる持久戦を選択させる為の布石だ。
策があり、仕掛けもある地を知った相手なら短期決戦を選ばないと確信があった。
1度引いたなら地形把握と情報収集をするであろう事もわかっているからそれを逆手にとるのがアンリと決めた事でその為に全体が動いている。
そこまで思い1度頷く。
「まぁ気楽にやれ聖書にもあるだろう?神は乗り越えられる試練しか与えないだ。考えた所でなるようにしかならん。」
カイネの言葉に2人は無言で頷き覚悟を決めた。




