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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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崖上の戦い ~北側~

倒木に腰掛け谷から届く怒声と悲鳴を聞いたラズは順調に戦いを進めている事がわかり満足そうに頷く。

心配そうにウロウロしているマーニャに視線を向け、


「落ち着いて下さい。長がそれだと不安が広がります。」

「すいません、その、ホビットやピクシーで大丈夫なのかと思うと・・・。」

「さぁ?ですがアンリさんのスキルは大したものです。無理はしないでしょうから気にしても仕方ありません。」


ラズは立ち上がり装備を確認すると1歩前に進む。


「私は迎撃に向かいますのでここはマーニャさんとエリザにお任せします。」


エリザと呼ばれたエルフの女性は跪き頭を下げる。


「お任せ下さい。助力は必要でしょうか?」

「要りません。特性を使うので近付けば巻き込みますよ。」


エリザは冷や汗が浮かぶのを感じ小さく震える、寒さもあるが何より恐怖からだ。


「ぞ、存分にお楽しみ下さい。撤退の合図は矢笛で伝えます。」

「わかりました。貴女達も気を付けて楽しんで下さいね。」


ラズが先に進んで行くのを見送りエリザは緊張から解かれ溜息をこぼした。


「ハーピーの長よ。部下を間違ってもこの先には進ませないように、状況次第では死ぬぞ。」

「わ、わかりました。ラズ様の戦い見てみたい気持ちもあるのですが止めといた方が良さそうですね・・・。」

「命が惜しくばそうしなさい。

ラズ様が本気なら善悪も敵味方も関係ありません。気分次第で同胞すら対象になります。」


マーニャは青ざめ急ぎ上空に飛び一族に警告に回った。








ラズは獣人の声に導かれるように木の上を移動する。

長く楽しむ時間があるといいのですがそうはいかないでしょうとも思う。

今回の戦いは相手に策略を見せつけ選択を削ぎつつ時間を稼ぐのが目的と聞いている、ならばこの地に敵が迫れば直ぐに退却するだろう。


「戦いとは悲しいものですね・・・。」


遠く届く戦闘の音にこの瞬間にも散っている命を惜しむように呟く。

大木が多く並んだ地区に着きスキルを使い糸を張り巡らし終えた頃待望の来訪者が来た。樹上で笑みを浮かべ唇を舌で濡らす。


「頑張ってくださいね。」









伝令が伝えた敵を殲滅する為に歩を進めていた牛鬼族を代表にした獣人は全員足を止めた。

木々に張り巡らした糸を確認したからだ。

それは地下迷宮の覇者土蜘蛛族の狩場の様でありながらそれ以上の恐怖を一族に理解させていた。

牛鬼族の長ベルハルトは待ち構えていた者が最悪の相手だとわかり覚悟を決めた。


「全員散り各自全力で先に進め!エルフ族の女王が潜んでいるぞ!!」


声が響き全員が行動を起こそうとした瞬間に頭上から切られた幹が落ちてきた。

それを避けるように飛び退いたベルハルトの視界の隅で空へ吸い上げられるように身体を浮かせた仲間がいた。

追う視線が間に合わず枝葉に消え数秒した時何かが落ちてくる。

赤に染まったソレは同胞の首だった。

身じろぎをしたベルハルトの頬にも同じ赤の雫が落ち指を這わしそれが血だと気付いた時には周囲が赤く染まっていた。

マズイ、と思うと同時に首の無い遺体が落ちてきて別の者が樹木へ吸い上げられる。


「早く散れ!此処にいたら全員死ぬぞ!!」


ベルハルトの言葉が終わり全員が動き出す。




ラズは目の前の獣人の首を切り落とし眼下の将を見て頷く。

悪く無い判断です。早めに消えて貰った方が良さそうですね。

もう1度頷き首を無くした遺体を蹴り落とし自分も地に舞い降りる。


「おはようございます。牛鬼族とその他の皆様、ここより先は通すなとの命令ですのでお引き取り願いたいのですが。」

「やはり貴女でしたか・・・命令と聞き取れましたが誰に従っておるのでしょう?」


ベルハルトは拳を握り更に言葉を紡ぐ。


「我等はエルフ族に手出しするつもりはありません。ここはどうかお引き下されば双方に益ある事になると思っておりますが。」

「畏まらないで宜しいですよ牛鬼族の長さん。私は自分に従っているのです。わかりますか?私を肯定してくれる者がいて必要とする場があるなら現れるのは当然でしょう。」


ベルハルトは息を飲み覚悟を決めた。自分達は人狼族に与したのならそれを最後まで通すべきと思い握る槍に力を込める。


「では、失礼ながら未来の為に通させて頂きます。」

「どうぞ抗ってください。貴方が私を楽しませてくれるならその間に進める命もあるでしょう。」


ラズは言葉と同時に特性を使う。ラズだから使役出来るソレは、周囲の魔力を依代に形を作り体に纏わりつく。


「フフ、アハハハハハッ」


笑いを零したラズの思考が対象の殺害方法に集中する。

それは神域に至った時から自身が得る事が無い終わりであり、だからこそ甘美な誘惑。それを与える為一息でベルハルトに肉薄すると同時に風を纏わせた短刀で右腕を絶った。




ベルハルトは起きた事が理解出来なかった。突如風の奔流を感じたと思えば右腕が失われていた。右側では金の色が靡き、それがラズの髪だとわかると激痛に竦む身体をぶつけるように倒した。


勝てない、何をどうやっても勝つ事は出来ない相手だ。


それでも一矢報い、一秒でも抗ってみせるそのつもりで力任せに地を蹴ろうとした時、痛みが右足の甲にもある事に気付く。

苦痛を堪え視線を向けると足と地を繋ぐように短刀が刺さっていた。

ラズが振り下ろした時に投げるように突き刺した短刀だった。


「!?」

「アハハ、視線を逸らしたら駄目ですよ。」


ラズの言葉を最後に脳天に衝撃が走りベルハルトは崩れ落ちた。



ラズは振り下ろした矢を1度押し込み引き抜く。腕を振り血を飛ばし鏃に欠けた所がないかを確認してから周囲に視線を向けた。

まだまだ獲物がいる事に舌なめずりをし指輪から弓を取り出し射撃する。

使役するシルフの力を纏わせた矢は速度、貫通力を増し複数の魔族を貫くのに十分な威力がある。

向かう者も逃げ出す者も等しくただ笑い声と共に命を摘み取る地獄が始まった。





苦悶の声が消えラズは、周囲から動く者いなくなると特性を解き伸びをした。

赤く染まった地と木に縫い付けられた者、糸に絡められ絶命した者、全てを見渡し頷く。


「やはり良いですね。欲を言えば1人ずつ時間をかけたかったですが戦場ですから仕方ありません。」


視線を自分が来た方向に向け倒れた死体の上に腰掛ける。


「さて、次の手まで時間がありそうですからもう少しゆっくりしましょう。」


呟き指輪から出した矢の数を数える事にした。







エリザとマーニャは部下と共に樹上から進軍する獣人の軍を迎撃していた。

ラズから逃げれた者と別のルートで来た者が混じり千人程になっていたが、ラズが張り巡らした糸に絡まる者が増えるに従いその対応に追われ進軍は遅くなっている。


「的が来たぞ。撃て撃て殺せ!」


エリザの声でエルフの矢とハーピーの風魔術が放たれる。


「アンリさんも退却を始めたようですから被害が出る前に撤退しますよ。」

「了解だハーピーの長。さぁ同胞達よ!時間は無いが我等の力を見せつけてやれ!!」


エルフとハーピーは組を作り迎撃をしながら機を見て共に空を飛ぶ為にそれぞれの相手を繋ぐ縄を確認する。



伝令のハーピーからアンリ達が十分な距離を空けた事を聞いたエルフ達は撤退の矢笛を放ち次の戦場となる集落に向けハーピーに掴まり空を飛んだ。

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