始まりの防衛戦
陽が昇り始め風が木々を揺らす中で両軍の戦いが始まっていた。
「撃て撃て撃て撃て撃てぇーーぃっ!!」
崖上でアンリが右手を前に出し追撃をかけるように指示を出す。アキナ、イマル、両名が続くように右手を出し一族へ号令を下した。
「楽をしたければ今撃て!狙わなくていいどうせ当たるからな!ここで減らせば後が楽になるぞ!!」
雄叫びがあがり矢が雨のように降り注ぐ。
小柄な2部族は足を使い弦をセットし矢を番え撃つ、狙いも無くただ方向だけ決めた矢はそれでも誰かに当たっていた。
「クソ、サラみたいに弾かないが簡単には倒れないか。」
「獣人は戦闘系魔族が多いからタフなのデス。」
アキナの言葉にふむ、と頷き視線を下に向ける。
倒れ始める者もいるが盾を掲げ矢から守ろうとする者も現れていた。その影に隠れ反撃しようと魔術を使う者もいる。
「対応が早い、場慣れしてるだけはあるか・・・。ここからは攻撃してくる奴を狙え下からでは角度的に当たらんが万一がある。」
アキナの指示通りにホビット族が動き始めた。
ギルカは矢が自分がいる所から別に移った事を感じ胸をなでおろす。
危なかった・・・。人狼族とはいえあの量の矢に晒されれば命はなかった。
今は狙いが来ない内に先に進むべきと思うが足元がおぼつかない。泥が深く1歩を慎重に進まなければ倒れるからだ。
「ふざけやがって。卑怯者共がこの地を抜けたら皆殺しにしてやる。」
ギルカは悪態をつき視線を上に向ける。ホビットもピクシーも小柄の為崖下からの視認が難しいがアンリだけは見えていた。
あの人間が指揮官だろうと思い槍を握る手に力を込める。足場を確保する為死んだ仲間を踏み付け渾身の力で槍を投合した。
アンリはスキルが警告を示すのに従い右に2歩進む。停止した直後今いた地点を槍が過ぎ去っていった。
3秒程沈黙し、アキナと顔を見合わせてから口を開いた。
「森にゴミを捨てるなぁーー!!!」
「「「お前が言うなぁっ!!」」」
獣人族全員からの反論を受けアンリはその迫力に1歩後退り首を横に振りアキナに同意を求めた。
「あいつら反省が無いぞ。森を汚すとトレ兄が怒るから困るのに。」
「怒られるの嫌デス。声の大きかったあの辺りを狙いますネ。」
アキナが示した場に矢が集中し、その場にいた獣人達は慌てて盾や仲間の死体を掲げた。
花畑に3人の笑い声が響く。
丘上に建つ屋敷のテラスで椅子に座り足をバタバタさせていたエミルは映像の1つに咳き込みながらもクギ付けになっていた。
映像はアンリがギルカと口論している場面だ。
両者は上下と位置が違えど同じように攻撃を避けながら言葉を飛ばしている。
「ココ、おかしな戦いよの、言葉と武器が交差しとるわ。」
「アハハ、面白いけど馬鹿みたいよね。」
ひとしきり笑いきったエミルはフェミナに視線を移すと満足そうな横顔が見える。
視線に気付いたフェミナはエミルに向き直り、
「何?紅茶のおかわりなら用意させるわよ。」
「ありがと、血を多めでお願い。で、何その顔?久しぶりに見た気がする。」
「気のせいじゃない?ほら、新しく動きがあったようよ。」
エミルが視線を映像に戻すと2部族の攻撃が止まっていた。
ギルカは盾を掲げつつ肩で息をしながらアンリを睨みつける。
ふざけた奴だと思い、同時に時間を稼がなければならないとも思った。
伝令を受け取った後発の軍が崖上を一掃しなければ進めん。早く来てくれ・・・。
辺りでは立っている味方が少なくなり仲間の遺体の下に身を隠している。後ろに離れた地でも矢が降り注いでいたのか被害が出ているようだった。
「卑怯者が降りてこい!下等な人間だろうと全力で戦ってやる正々堂々と勝負しろ!!」
「参ったな・・・。この兵力差でそう言われると思わなかった。単語の意味知ってるか?」
アンリは次の手を用意する時間を稼ぐ為に続けるように言葉をだす。
「だいたい侵略者が歓迎される訳ないだろう?それに全力と言うならこの状況を作る過程が俺の全力だ。
君は対等の場で正面からぶつかるのが全力の戦いと思っているようだが俺からすればそれは手抜きだな。」
「なんだと・・・。貴様は戦いに誇りを持たないのか!?例え負けようと武勇を示し後に続く者の糧になるなら戦士として本望だろうが!!?」
ギルカの言葉に首を横に振りながらアキナに視線を向けるともう少しとジェスチャーで伝えてきた。
「俺は戦士じゃなくて商人だし戦いは死んだら終わりだ。それに後に続いてほしいなら教育をする。
理解したか?君とは視点が違うから同列に扱わないでくれ。」
アキナが両手で〇を作ったのを見て頷く。ここからでは見えないがピクシー達も同様だろうと思い右手を前に伸ばし口を開く。
「では次だ。手を替え品を替えお客を飽きさせないのが商人の秘訣というものだ。やれ!」
アキナ、イマルが号令をかけると行動が開始された。
ギルカは視線の端に赤色を見た。
それは木々から漏れる光を浴びて光を反射させながら弧を描く。投じられた物を確認し直ぐに叫ぶ。
「火炎瓶!?全員盾をしまえ!!」
言葉が終わる前に瓶が盾やヘルムに当たり割れる音ともに燃え広がった。
悲鳴と逃げようとしながらも足場をとられ焼かれた苦悶の声が谷間に響く。
「この外道が!これが戦いと言えるか!?」
「これも戦いだ。相手の嫌がる事をするのが常套と兵法書にも書いてあったぞ。もっとも商人としては喜ばせたいのだが。」
視線をアキナに向けると小さくガッツポーズをしている。それを可愛いなと思いながら谷下に視線を戻し、
「仲間は喜んでいるから良しとしよう。では盾が下りたから追撃だな。」
「はいデス。皆じゃんじゃん撃ってネ。」
クラシス達はソドムの関所を通り近くの貸馬屋に馬を預けた所で溜息をこぼした。
「やっと・・・着いた。街道で魔族に襲われるとは。」
「森が荒れてるせいだな。元凶は俺だと思うが・・・。」
「クラシスが悪いならなんか奢ってよ。」
3人は話しながら市場を通り抜ける。広場が見え、その先に教会へと道が続いている。
「どこも似たような店ばかりでつまんないつまんない。噂の店はやってないの?潰れたの?移転したの?」
「知るか!?クラシスの仕事を終えてからにしろ!」
「なら早く終わらせようよ。教会で店について聞いてよね。」
教会に辿り着き定休日の看板を無視してドアノブだけ新調された扉を開ける。
3人の視線の先、長椅子が並ぶ空間の中央で白衣のシスターが床に転がりながら本を読んでいた。
シスターはチラリと視線を向けると、
「ん、おはようございます。礼拝ですか?勝手にどうぞ。」
3人は動きを止め顔を見合わせアイコンタクトで意思疎通を図った。
異常な光景を前にクラシスは戦場でも感じなかった一体感を覚えゆっくり右手を前に出し口を開く。
「連絡を受けて来たギルドマスターをしているクラシスだが貴女がシスターカイネか?」
「違いますがカイネ様から伺っています。今は留守なので連絡しますから遠慮なくお祈りをしていて下さい。」
床から起き伸びをしたフランは奥の部屋へ向かおうと足を向けた時声がかかる。
「待って待って、この辺りで面白い店あるって聞いたけど知らない?」
「俺も聞きたい事がある。此処に鬼はいるのか?」
「・・・教会前の店の事なら土日だけ開店しています。サラさんも今日はいません。
ではお祈りをどうぞ、布施も忘れずに。」
胸の前で両手を合わせていたヴェイグとフローが床に崩れるのを見たクラシスは数秒考えお土産をどうしようと気付き2人に習うように崩れ落ちた。
「五体投地ならもっと地に伏せるべきです。では失礼します。」
フランが部屋に入り扉が閉まる音に合わせて3人は大きな溜息をついた。




