東の森の代表者
シーズ大森林、東側の森中央に一際大きな木が生えていた。神木として妖蜂族が管理するその木の幹には縄が巻かれ供え物として熊の頭が置かれている。
「聖域を侵す下劣な獣人共から我等が同胞を守る加護を。」
跪き祈りを捧げる3人の長達。
妖蜂族プラタ、蟻人族ワグール、甲殻族ライは同時に立ち上がり神木に一礼をし振り返り万を超える兵達へ激を飛ばす。
「知っての通り人狼族がこの地を脅かそうとしている!奴等は多くの獣人共を傘下にこの森の覇権を握ろうとした愚か者共だ!!」
「我等には対抗する力があり従う理由がない!戦え、勝利無くして平穏は勝ち取れん!」
「勇猛な同胞達よ。無双の戦士達よ。種族を超え今こそ共に力を合わせる時です!」
周囲を揺るがす足踏みと応じる声があがり気持ちを高めていく中代表としてプラタが1歩前に達右手を掲げ振り下ろす。
「これは聖戦です!!死力を尽くし己が武勇を示しなさい!!」
更に大きく地を揺らし兵達が戦場となる東側へ向かう。
「我等は前線にて兵達に指揮を出します。プラタ殿には全体の指揮官をお願いします。」
「わかっています。御歴々の力頼りにさせて頂きます。」
プラタは2人が戦場へ向かうのを見送り懐から手紙を出す。先日ハーピー族の長が持ってきた物だ。視線は文字を追い最後の名前で止まる。1人は見知らぬ名だがもう1人は鬼の名である事を確認して頷く。
優しく心配する文面はまだ戦闘の出来ない子供達を引き取りその後の保証までしているがこれを書いた者が暗に示すのは後顧の憂いを無くすから最後まで戦えという事だと思う。
「後に繋がるならそれでも有難い。子供達をよろしくお願い致します。」
プラタはハーピー族の集落の方向へ頭を下げ戦場へ向かった。
「襲え!喰らえ!蹂躙せよ!それこそが魔族として誇りある戦いだ!!」
先頭で声を出し兵を鼓舞する人狼族に続くように雄叫びがあがる。
「相手は虫ケラ共だ!我等が王への供物とせよ!」
進軍する足音は高らかに槍を、剣を掲げ更に大きな雄叫びが森に響く。
木々を倒し土を踏みしめ歩く兵達は10万を超える。
それらの進軍の中御輿に座る一際大きな体に黒で染められた鎧を纏う人狼がいた。族長ルークスだ
ルークスは広がる領土と戦士達の勇ましさに満足気に目を細めた。
だが違和感を感じるルークスはこれまでの侵略を思い返し何故なのかと思う。
何故、もっと早く行動しなかったのか・・・?
何故、獣人同士でいがみ合っていたのか・・・?
何故、思うまま生きなかったのか・・・?
何かおかしいと思うが何がおかしいのかわからない・・・。ここまで問題など無かった。無い筈だ。お膳立てされているかの様に順調だったのだから。
なのに何故こんなにも不安に思う・・・。何か恐ろしい存在を忘れている気がするが思い出せないのは何故だ?
そしていつからだったか?いつから俺達は行動を共にしているのだ?
思い出せないが気付いたら他部族と共に蹂躙を開始していた。
きっかけは何だったのだろうか・・・。
「王!偉大な我等が王。虫ケラ共は抵抗するつもりです!激をお願い致します。」
ルークスの思考はそこで止まり立ち上がる。右手を掲げ開戦を告げた。
アンリは木製の燻製器を外に運び出し材料を用意する。
前日に串で穴を空け塩胡椒を揉み込んだ後にソミュール液に付けたものだ。
朝から塩抜きをして陰干しも終わり燻製器に吊るし準備が整った所で伸びをした。
「ふーん。開戦したんだ・・・。」
「興味無いのですか?ここも無関係ではない事ですよ。」
レウの声に首を横に振り燻製チップを取り出すと砂糖と一緒に燻製器に入れ火をかける。
「えぇ!?砂糖ですよね?」
「砂糖だよ。甘い香りが付くから淡白な魚にはこうした方がいいんだよ。肉とかも一味違った感じになる。」
そうなんですか、と呟くレウに頷きアンリは煙が出て来たのを確認してから立ち上がる。
「もう虫人達の方に出来る事は終わってる。後は彼等の戦いだ。」
レウは何かしたのだと思うがそれがわからないでいた。お互い面識もない筈だがこの人なら何かやっていると思えるのが怖い。
「情報の礼だ。夕食食べてくだろ?」
「是非。それと私が来たこと同族には内緒にして下さいね。今回の件私達は不干渉と長が決めているので。」
アンリは頷きレウと家に戻る。扉を空けると机でカードゲームをしているサラとカイネが振り向いた。
「夕食の品を賭けてるんだがレウもやるか?」
「・・・いえ、普通にご馳走になりたいです。」」
つまらん奴だとこぼし2人はゲームを再開させる。アンリは溜息を付くとレウに振り返り、
「先お風呂入ってきたら?後にすると混むよ。」
「あっはい。ではお先にいただきます。」
ココ、と笑い片手をフェミナと重ねた女は宙に映像を移す。
花の魔王からの思想を乗せた魔力に妖狐族の特性、幻術を使った即席の投影方法だ。
「ルフラでは魔具による投影が完成したようぞ。用意したらどうだえ?」
ココ、と再び笑う女にエミルが笑顔で手を差し出す。
「ちょーだい。ノイルなら持ってるでしょ?」
「エミルは遠慮知らずじゃな。至極残念持っておらんのよ。」
えー、言いながらも視線を投影された映像に向ける。
そこには異なる3つの映像が並び現状を写していた。
左には虫人側の戦い、
中央には獣人側の戦い、
右には燻製器から肉を取り出す人間、
「一番右のあれ何?誰?」
「アンリと名乗る商人よ。商品でも作ってるのかしら?」
「ココ、呑気な人間よの。」
3人は微笑と共に視線を右の映像から2つの戦いに向ける。
「虫人族を纏めてるのはプラタか。総数は3、4万位かな?」
「獣人族は10万位ね。それを纏めあげるルークスも立派になったものだわ。」
「詳しいの。森を離れている間に代替わりが進んでおってさっぱりわからんわ。」
フェミナが半目でノイルを見ると手の甲を口元に当て再び笑う。
「冗談よ、そんな顔するでない。プラタは知らんがルークスは知っておる、昔は小さき子犬のようじゃったが立派になっておったの。」
「で、何でノイルはこんな事企んだの?暇潰し?」
ノイルは手を振りエミルに視線を向ける。
「人の国を傾けて遊ぶにも飽きての。どうせなら自分で傾かぬ国を作ろうと思ってな。
地ならしついでにくすぶる獣人共をけしかけただけよの。」
「貴女は変わらないわね。遊び過ぎてクロムに殺されかけたのを忘れたの?」
「忘れてはおらんが性分ゆえ治らんわ。」
ノイルは懐から透明な玉を取り出し机に置く。それをエミルに転がし渡すと、
「それを割ればルークスの記憶が戻るぞえ。鬼を恐れ獣人同士いがみ合っていた楽しき記憶じゃがな。」
「ふーん。ノイルのスキル?なら犬コロが取り返しつかなくなるまで待った方が面白そうね。」
エミルが手に取り翳すように掲げた時1つの映像に視線が止まる。
え?、と声に出し固まったエミルの視線を追う2人が右の映像に辿り着き同じように固まった。
アンリは首を捻り1つの花を指でつついていた。1周回り花の全体を見て元の位置に戻り地に座る。
自身のスキルが花を警告するが何が危険なのかわからないでいた。
「なんだろう?でも何か違和感あるな。」
また首を捻り後ろに声をかける。
「おかしな花があるんだがなんだろう?」
「おかしいのはお前だろうが。花は花だろう?」
湯上りのカイネは髪を拭きながらアンリの横に並び示された花に視線を向ける。
「どこにでもある花だな。頭の中の花畑に加えとけ。」
「ヒドい・・・、聞けば知ってるカイ姉さんと思っていたのに暴言だけとはヒドいわ。」
アンリはヨヨヨと崩れ横座りになり親指を口元に当てた所でカイネに張り倒された。
「変な呼び名付けるな。次は締め落とすぞ。」
カイネがタオルをアンリの首に回して吊るすように持ち上げる。
首が締まる前に立ち上がったアンリは急いで敬礼し、
「イエス、シスター気をつけます。」
「よろしい。で花がなんだ?」
2人が視線を向けると張り倒された時背で潰された花がある。
「えーと、うん、可哀想な花だ。」
「可哀想な花になっただ。お前に関わらなければまだ咲き誇れたのにな・・・。」
カイネの言葉を最後に黒く染まった映像を3人で見つめている。
沈黙が続き耐えきれなくなったノイルは視線を逸らし肩を震わせて笑いを堪える。
エミルも同じタイミングで机に突っ伏して肩を震わせていた。
「え、えぇ・・・?」
フェミナの呟きで2人が吹き出し笑い声が夜空に響いた。




