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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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運命の出会い

漆黒の空を覆うように木々が頭上を遮り星の明かりはおろか月の輝きすら見えない。

耳には虫の鳴き声と近くを流れる川の音が聞こえ、ふと風が柔らかく頬を撫でたがまだ夏というのに暑さは感じられないでいた。



青年は木の上にいた。


目の前には拓けた空間がありその中心に木と石を組み合わせて出来た小屋がある。その前には小さいながらも畑と思われる場所が広がり何らかの野菜が育ってられていた。

そして小屋と畑を朽ちかけた木の柵が囲い、奥から聞こえる音から小屋の背後には川が流れているのだろうと予測する。


此処で誰かが生活しているのだろう・・・。


だが今小屋に明かりは無く留守だと示している。



小屋から少し離れた所に青年がいる木が生えていた。

木の根本に視線を落とすと数匹の大型の犬のようなものがいるが。


犬ではない・・・。


明らかに大型犬より2回りは大きい。

錯覚と信じ目を擦り再び見るが当然のように変わることは無く、


「神様助けて・・・。」


青年の呟きは木々の中に吸い込まれ消えていく。




木の上に登れたのは偶然だった。

小屋に近付こうとした時嫌な予感がして様子を伺おうとしたのだ。

何かあった際、隠れられるように上から見ようと近くにあった登れそうな木に背のリュックから調理用のナイフを出して木に深く刺し柄に足を掛けた所でそれは背後からやってきた。

下でご馳走を見るような目で見上げ彷徨いている犬?達だ。


慌てて上に登ったが左足を引っ掻かれてしまい、降りる事も木を伝い逃げる事も出来なくなっている。

傷口を服で縛り応急処置はしたつもりでいるがちゃんと出来てるか自信はなく、熱をもちズキズキと響く傷口が夢では無く現実だと実感させていた。


下を見ても上がってくる気配はなく当座の安堵を得る。


何でこんな事に・・・・・・。


反省は大事だと思う。

この後も生きていられるなら同じ過ちを繰り返さないためにも思い出す。








原因はハッキリしていた。

前日TVで見た夏休みワクワク渓流釣り特集だ。

会社の休みという事もあり、独り身でやる事もなかったから面白そうに思い調理用道具と釣り竿を持って記憶にある夏場だけ釣り堀も兼任している川に行く事にした。


バスに乗り2時間程かけ初心者向けの釣り場に着いた所で喧騒に俯く事になる。


ここは放流も行っているのだが駐車場近くはキャンプをしている家族達が多く当然子供が川遊びをしていた。

小さな子供達は容赦なく暴れ石を水面に投げたりして遊んでいる。

当然こんな所で釣りは出来ないので釣り人達はそこから離れた上流にいるが、来るのが少し遅かったのか目に見える範囲では人が多くて出来そうもなかったのだ。


ならばもっと上流を目指そうと思い歩いたのがいけなかった・・・。


知識も何も無いまま上流に向かい移動をしていたら気付けば濃い霧に囲われていた、本来ならすぐに引き返すべきだったのだかまだ釣りをしていない事もありそのまま進んだ所当然の様に迷子になった。


思い返しても完全に自分が悪いな・・・木の上で泣きそうになる。


流石にマズイと思い川沿いの来た道を歩き霧を抜けた所で景色が変わってる事に気づく、更に妙な違和感を覚え森に迂回をしている内に道すら見失っていた。


最悪だ・・・。


重さに耐えれず中身のないクーラーボックスや釣り竿を置き、リュックに荷物をまとめ移動する事にして、半日以上歩き通してやっと人の家を見つけたと思ったら今の状況である。


「まずは落ち着こう、大丈夫まだ手遅れではない・・・よね?」


誰も返事をくれないのは分かってるが言葉にしてしまう。

木の上で非常食代わりに持っていたお菓子を食べペットボトルの水で水分補給をして思う。


誰かが来るまでここにいるしかないな。


今後があるなら何事も知識と準備は怠らない事を誓い落ち着いた所で下の犬?達を見るが、


いなくなってる・・・?

先程まで確かにいたはずの犬?達だがどこを見てもいなかった。

森であり夜だ。

視界が抜けている訳ではないとはいえあの巨体が複数いたのだ、隠れていようと見落とす筈がない。


「助かったのか?」


青年の言葉に応えるように下から女の声がきた。


「なにからだい?」


その声にビクリと身体を震わせた時足が滑りそのまま落下して意識が無くなった・・・。







女は落ちて動かない男に視線を移した、服を見て左足の怪我を見る、そして先程の言葉を思い出し疑問を口にした。


「流奴か・・・?」


その呟きに相手は気絶している為返事は返ってこない。

このままほっとけば1時間と経たず獣共に食われているだろう。

朝から食い散らかしを片付けるのは面倒だと思い、


「とりあえず運ぶか。」


口にしてから木に刺してあったナイフを左手で抜き、青年の身体を荷物事右手で持ち上げるとそのまま小屋に向かって歩を進める。




まぁ退屈してたから話し相手にでもなるといいねぇ。


女の顔が嬉しそうな笑顔を作った。









青年は左足に違和感を感じ目を覚ました。

上を見ると蚊帳のような物が自身の周りを囲むように垂れ下がり、開けられた窓が陽の光を取込み中を照らしている。

昨日の事を思い出そうとした所で左足から痛みがきた。


「痛!?」


思わずあげた声にあぁ悪いと女の声が返ってくる。

視線を足の方にやると自分の左側に座りこちらに背を向けて何かしている茶色の髪が見え、


「あの・・・痛ぁ!」


声をかけた所で再び痛みがきて両手を握りしめ涙目で俯く。


「悪い悪いでも終わったよ。」


言われ涙を袖で拭き顔をあげるとこちらを見て微笑している目があった。

紺の服を着て長い髪を背中に流しこちらが照れるような美女だった、真っ直ぐに見るのが恥ずかしく視線をさ迷わせようとした所でソレに気づく、額に生えた角だ。


「鬼・・・?」


思わず出した声に更に笑みを深くして女は応える。


「あぁ鬼だよ。名はサラだ。」


その言葉を聞き僅かに身を縮めた所で左足が視界に入り、そこに包帯が巻かれてる事に気付いた。


「ぁ・・・。」


女の顔を見てまず言うべき事を決め真っ直ぐに顔を見て言葉を出す。


「治療をしてくれてありがとうございます。俺は・・・。」


頭を下げその流れで名前を伝えようとした所で名前が思い出せない事に気付く。

言葉を止め思案する顔を見てサラと名乗った鬼から声がきた。


「良いよ、大した怪我じゃなくて良かったな。だがあまり動くなよ。」


そのままこちらの疑問にも答えてくれた。


「名前分からないんだろ?流奴はみんなそうさ。」


聞き慣れない言葉と状況で混乱してるとサラは立ち上がり歩きながら、


「まずはメシにしよう。話すことは多いからな、支度するからまだ寝とけ。」


そのまま戸を開き部屋を出て行く姿を見送った。







寝室と思われる部屋の隣で青年と鬼は食事をしている。

焼いた魚に茹でた野草が机の上に置かれている。主食となるご飯や穀物は無く味はどちらも塩のみであり物足りなさを感じたが今はもっと大事な事がある。

「流奴って何ですか?それにここは何処ですか?外にいた大きな犬とか・・・」


矢継ぎ早に質問するこちらを見て苦笑しながら答えてくれた。


「流奴ってのは簡単に言うと異界人さ、こっちに流れてきた影響なのか皆揃って名前を失ってる。他にも記憶や感情も失ってる奴らが多い。」


俯くこちらを見て更に、


「此処は大陸の中心にある大森林の中さ、住んでる奴らはシーズ大森林とか呼んでるよ。」


鬼は首を傾げながら続ける。


「昨日見た犬ってのは魔獣って呼ばれてるね、多分だけどこの辺りならナイトウルフかな。

後はこの世界の事を教えとこうか、何も分からないんだろ?」





話を聞いてわかった事は、約千年前に勇者とその仲間により魔族と呼ばれる者達の土地は大幅に減った事。

今も人間と魔族で小競り合いが起きている事。

人同士や魔族同士でも戦いあってる事。

そして流奴は国にもよるが奴隷みたいな扱いで傭兵か農奴になっている事等を聞いた。






食事が終わり片付けを手伝いながら考え、回答を整理した所で聞かなければならない事を口にする。


「この世界から帰る方法はありますか?」


サラの視線が少し俯いたように感じ返答は予想が出来た。


「私は知らない、帰れた奴がいたってのも聞いた事無いしね。」


サラは俯いたこちらの肩に手を載せ更に言葉を続ける。


「流奴を保護している教会の奴らなら何か分かるかもな、足が治ったら近くの村に連れて行ってやるよ。」

そこで一息付いて小声ではつぶやく。


「あの暴力シスターが力になるか分からないけど・・・」

「色々ありがとうございます。」


頭を下げ礼を言い考えをまとめる、今できる事は怪我を治し村に行くしかない。


片付けを終えたサラと視線が合う。


「礼を弁えるのはいい事だ、こっちも気分が良い。」


そして右手を出しこちらの頭に触れ確認の声がきた。


「今度はこっちが聞くよ?」


その言葉に頷くこちらを見て微笑む。

それに照れて視線を逸らすと触れてた手を離し、


「流奴は色々失っている事が多い、感情はあるようだが記憶はどうだい?」


それにはすぐに答えられた。


「記憶はあります。」


その言葉に苦笑をして更に言葉を掛けてくる。


「それは良かった、ただ堅苦しい言葉使いは止めようか、何だか気恥ずかしくなるからさ。」

「恩人ですし。」

「なら尚更さ、私は話相手が欲しくてね、そんなだど楽しさも減るってものさ。」

「いや、でも・・・」


更に言い淀むのを遮るようにこれは決定な、と言われてしまう。

それに少し迷い、しかし相手を見てハッキリと。


「わかった、これでいいか?」


それに嬉しそうな笑みで上出来だと頷かれる。


「この辺りは人間には危ない、共にいる間は私があんたを守ってやるよ。だが色々手伝って貰いたいんだが・・・此処で何か出来そうかい?」


それに少し考え先程の食事を思い出した。


「料理なら元の世界でやってたから少しは・・・後は今は分からない。」


その言葉にサラは頷いた。

サラはそこで相手の近くを飛ぶ虫に気づいた、蚊だ。叩けばいいのだが鬼の力で叩き万一相手に当たれば間違いなく吹き飛ぶ。

そうなれば良くて怪我で普通なら即死だろう、少し考え蚊がいる事を伝える事にする。安全の為にも自分で何とかしてもらった方がいい。


「このっ!」


男の手は確かに蚊を捕らえたが手を離すと何事も無いように飛んでいる。


「当たったよな?」


更に注視するが何度となく男の手が当たっている筈の蚊が飛んでいる。

相手から離れた所でサラが叩く、当然のように潰れたのを確認して有り得ない自分の考えに少し笑いながら声をかけた。


「ちょっと私を殴ってほしいんだが。」


それに目を見開き驚いた男の顔が少し面白かったが真面目な事だからと続ける。


「確認さ、今のおかしかっただろ?」


男はそれに頷き確かにと呟き、でも、と妙な動きで迷いを表現している。


「良いから、現状確認だよ。」


まだ少し迷いをみせたが意を決し拳が握られた。


「わかった、やるよ!!」


そして青年の拳が腕辺りで青い障壁に阻まれてるのを見た、何度か試させたが結果は同じだったのを確認しこみ上げる笑いを堪える。


「うーん、記憶や感情はあるみたいだけど攻撃能力を失ってるね。」

「は!?」


その声を聞き遂に我慢の限界を迎えた。

ハハハと続きしばらく咳き込み、


「今まで聞いた事無いな、ククク。」


と言葉を絞り出した。



男はそれを見ながら呆然としつつ現状を理解した。


つまり・・・自衛が全く出来ないのか?獣は元より虫1匹倒せないなんて・・・。


そんな自分を笑っていたサラは落ち着きを取り戻す。


「笑って悪かったって。」


肩を叩いてきた、少し痛く思ったが声を聞く、


「まぁいいじゃないのさ、さっきも言ったが共にいる間は私が守る、もちろん虫も退治してやるよ。ハハハ、代わりにあんたは料理を作るどうだい?」


それに情けなさで呆然としていたが気を取り直し頷く。


「わかった、それでよろしくサラ。」

「あぁ、よろしくな。」


だが、続く言葉は少し困ったような雰囲気を含んでいた。


「さてまずは名前決めなきゃな。何が良い?」


その言葉の意味を考え自分の現状をまたも理解して頭を抱えるのだった。





サラは部屋の奥から2枚の紙を持ってきた。その顔はさっきの事を思い出してるのかまだ笑っている。

それを机に置き広げこちらに向け、


「ここに書いてあるのは今まで見つけた流奴達の荷物にあった名前だよ、気に入ったのがあれば選んで名乗りな。」


サラは頷きながらメモしておくもんだね、と呟いている。

それを手に取り確認すると幾つかの名前がある。


「・・・・・・・・・。」


こちらの顔を見たサラから言葉がくる。


「気に入るのはないのかい?」

「1枚目は日本の名前じゃないしこっちは、ちょっとね・・・。」


1枚目の紙にあった名は全て外国を想起させる名前で自分には合わない。だがそれはまだ良かった方だ、合う合わないは仕方ないと思えるからだ。

2枚目の紙はなんか日本人っぽいけどキラキラネームなのかヒーローなのか妙に凝った漢字の名前が書かれていて見るのが辛くなってくる。


「あぁ、ここから選ぶのか・・・。」


そんな呟きすらこぼしてしまう酷さだった。

サラは2枚目の紙を指差し、


「こっちはちょっと前に教会に保護された流奴が自分用にって考えてた名前らしいけど駄目なのかい?」


思い出すように顔をあげ、


「確か日本人とかってカイネから聞いた気がするな・・・。」

「カイネ?それに日本人がいるのか?」

「カイネは近くの村、ソドムって所のシスターの名前でね、確か保護していた流奴が日本人って聞いた気がするよ。」


更に言葉を重ね紙を指差し、


「これがその流奴が名乗る予定リストの下書きだよ。」


その言葉に俯き、


「サラ、頼むからこの紙は処分してくれ・・・その人は現代日本の被害者だ。」


恥ずかしい名前の書かれた紙を手渡し一応聞いとく。


「これを書いた人は?」

「ん?確か死んだよ、詳しくは知らないけど聞きたけりゃカイネに聞きなよ。」


そっかと呟き冥福を祈っておく。

いつかカイネというシスターに会ったら聞いてみようと思うが今は自分の事で手一杯なのだ。

思案していると紙を片付けながら声がきた。


「決まらないならあんたの名前はアンリだ。昔世話になった私の友人の名だ。文句無いね?」


と強引に決められてしまった・・・。

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