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鬼と人と約束と  作者: 敦人
一章 獣人族の侵攻
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策謀

ケイトは集落から東へ2時間程進んだ所にいた。

両側に5m程の壁が1km程続く広い幅をもつ谷間の下だ。そこに新しく水を通す小道を作り終え傾斜に従い流れる水音を聞きながらまた溜息をこぼした。


「なんでこんなところに水が必要なのよ・・・。意味わかんない。」


まぁまぁと嗜めるのは翼を広げ飛びながら地図と照らし合わせているリノアだ。


「アンリが意味わからない事言うのは普通ですよ。」

「それもう普通じゃない!!リノアさんは説明されたんですか!?」


リノアはケイトの隣に降り立ち困った顔で頷く。


「えぇ、ですが見ている先が違いすぎるのか殆ど理解出来ませんでした。ただギルドマスター次第ではここが開戦場所になるそうです。」

「どう考えても来る訳ないのに。アンリとは敵として会ったのよ?クラシスには立場もあるし・・・。

大体準備するなら水じゃなく柵でしょ普通!?全然理解出来ない!」


憤慨するケイトを改めて嗜めつつ水が順調に流れて谷間の地を濡らすのを確認し首を捻る。


「水捌けが悪いとはいえこの水量では水を貯めることも出来ない筈ですが・・・。」








「クラシスに伝えてどれほどで到着するかわかるか?」


アンリは地図とメモに指示を書き込み補佐の夜魔に渡し一息つく。

その問いに椅子を後ろに傾け頭の後ろで手を組んだカイネが応える。


「通常なら一月半、カンラムにある転移魔具を使い大森林近くの国まで来るなら2週間程だ。呼ぶならそろそろだぞ?」

「転移魔具?まぁいいか。なら呼ぶのはまだだ。クラシスにはその魔具を使ってもらう。嫌でもな。」

「どうやって指定する?呼ぶだけなら馬を使うだろう。あれは膨大な魔力を使うから通常使われないものだ。」


カイネの記憶にある物は少人数限定で安全に転移出来るものだが起動には大量の魔力が必要で火急の時以外は王族も使わない魔具だった。

アンリは紙に文字を書き込みカイネに手渡し確認させると読み終えたカイネはククク、と笑い頷く。


「成程これなら使うしかないな。いやよく思いつく。」

「当然だ。獣人の動きが速く籠城一択になった今ミスは出来ない。それにクラシスが来なければ誰にこの面倒を押し付けれるかで考えなきゃならないからな。」


カイネは笑いながら頷き同意を示す。

レウからの情報で他勢力と合流が間に合わない事がわかり籠城に決定したのが3日前。

アンリはマーニャに手紙をプラタに送るよう頼み今は集落の要塞化と策略に全力を注いでいる。

各族長と責任者も指示を受け走り回っている所だった。


「で?どうやって勝つつもりだ。こちらの戦力で全滅まで追い込むのは難しいだろう。」

「カイネは強いからそういう発想になるんだな。俺が思う勝利条件は1度だけ押し返せればそれでいい。その後の奇襲をもって終わらせる。」


カイネは尚も首を捻る。その為の大筋の戦略を寝るのは自分の仕事だがその先の細かい策略はアンリの仕事になっている為理解出来ない。


「奇襲も炎も全滅させられるとは思えんな。」

「うん、全滅も潰走も無理だろうがそれでいい。そこまで行けば後は個の力頼みだ。確認するがカイネやサラが負ける相手はいないな?」

「侮るな。魔王共以外なら誰が相手でも問題ない。」


アンリは頷き椅子に深く座り直し兵法書と地図を取り出し印を付ける。


「思い描く勝ち筋を説明するよ。その上で改善点を教えてくれ。」







ロイドは猫又達に盾を使った戦術を指導していた。

離れた所でエルフとドワーフが武具を作っているのが視界に入る。

ロイドは左手に頭を持ち右手で盾を示す。左手を掲げ頭を回し全体の視線を集め口を開く。


「アンリの指示通り作った盾です。下にスパイクが付いているのがわかるね?」


全員が頷くのを見て盾を地に叩き込む。


「このようにスパイクを地に刺し使う事を目的としているようです。つまり君達には動く壁になってもらいます。」


ザワつく猫又達が静まるのを待つ間に夜魔達が板に紙を貼った即席のボードを用意する。


「これを扱うには体力と連携が必要です。これより編成のサインを決めた後ひたすらマラソンと復習です。間違えたら初めからやり直しなので頑張りましょう。」


青ざめシンと静まり返った猫又に頷きボードにサインを書くロイドは楽しそうだった。









ラズは両側の壁が終わり緩やかな坂に変わる所で地図を片手にピクシー族が土を掘り返し動物の骨を埋めているのを眺めていた。


「これでいいのでしょうか?」


谷間に生える木々をトレント族が切り倒し作業しているのを確認しながら首を傾げる。


「ラズ様もここで作業していたのですね。」


声の方向に視線を動かすと谷間の奥から歩いてくるケイトとリノアがいた。


「えぇ、妖蜂族のコロニーからこちらに来るならこの道を通るのは間違いありませんから。そちらは?」

「聞いてよラズさん。アンリの奴ろくに説明もしないで水路作りを命令するのよ。柵を作れって言ってくださいよ。」


ケイトが地図に指を置いた地点に視線を落とし地形を思い出す。頷き、


「おそらく搦手ですね・・・。何となく理解出来ました。」


え?と口にしたケイトと視線が合い微笑みで頷く。


「ケイトさん、しっかり考えればわかる事です。これなら柵は必要ない戦いになるでしょうから心配しないで大丈夫ですよ。」


ケイトとリノアは更にえ?え?と首を傾げ再び地図と見つめ合い項垂れた。


「全然わからない。私馬鹿なのかしら・・・。」

「アンリより馬鹿なのは嫌ね・・・。」











カイネは頬杖を付きアンリの策を吟味していた。地図に視線を落とし羽根ペンを手で転がし頷く。


「大筋はこれでいい。これからは起こりうる可能性を考え対応策を詰めるぞ。」

「ふぅ、良かった・・・。色々改善してくれて助かったよ。魔族達は脳筋なのか相談しても任せたしか言わないから困ってたんだ。」

「直接戦う事しか考えない奴らが多いからな。

それよりお前は夕飯の準備だろう?フランの分も忘れるな。」


時間を見るとそろそろ夜組と交代の時間だった。

アンリは椅子から立ち上がり図鑑の土蜘蛛のページを開きメモをカイネに渡す。


「人狼族と組んでる可能性があるらしいから考えといた土蜘蛛族の殲滅方法だ。俺は調理に行くから確認しといてくれ。」









ヴァン、ケイト、リノアが2階の部屋に入ると先に帰っていたサラとラズが机に突っ伏して肩を震わせている。

それを眺めるカイネがククク、と笑い3人に口を開く。

「なぁ、お前らなら土蜘蛛族をどう倒す?」


突然の問いに顔を見合わせ3人は相談して首を横に振る。共通して無理と結論をだした。


「空の竜人、森のエルフに並ぶ地下迷宮の覇者の土蜘蛛族ですよね?最上級の中でも戦闘系魔族ですから勝てませんよ。」

「無理無理、迷宮内なら遭遇しただけで死ぬわ。」


2人の言葉に頷くリノアも困った顔でカイネを見る。

最上級に位置する魔族は単体でも危険な相手だがトレント族やデュラハン族と違い狩場となる地の利があるから尚更手に負えない相手だ。


「サラ様やカイネ様ならなんとか出来るでしょうが私達には無理です。」

「普通はな・・・。アンリの戦い方だ見てみろ。」


3人は渡されたメモに視線を落とし内容を確認すると頭を抑え天を仰ぐ。


「どんな発想よこれ?普通じゃないわ。」

「これなら確かに勝てますけど・・・勝ったって言っていいんですかね?」

「戦いじゃない・・・こんなの戦いじゃ・・・。」


それぞれの感想を口にし床に崩れた。

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